第17話 光とさえずり満ちる朝の願い

小鳥のさえずりで意識が浮上する。

まぶたの裏でちらちらと光が踊った。

無意識に伸ばした指先が

冷たくなったシーツの上をさまよう。

いつもの温もりの不在に思わず身を起こした。


開け放たれた窓。

駆け寄れば裏庭で作業する兄の姿が見えた。

胸をなでおろし、さっと着替えて庭に向かう。


餌台を作っているんだよ。

子育ての季節だからね、きっと必要だろう?

小さなものは守ってやらないと。


私を振り返って笑顔の兄が言う。

一人きりで目覚めた私はなんだか面白くない。


そんなに優しいなんて知らなかったわ。


小さく呟けば兄が目を細めた。

私は首を振った。

鼻の奥がツンと痛くなる。


違う、そうじゃない。

ただのわがままだ。

どうしてこんなに心が狭くなったの。

どうしてそんなことで拗ねたりするの。


ポールにボトルを掛け終えた兄が戻ってくる。


馬鹿だねえ、泣くことはないのに。

いつだって一番はお前に決まってる。

それでも嫌なら、優しさはお前限定にしようか?


私はまた首を振った。

それから兄を見上げて小さな声で乞う。


じゃあ、目覚めた時にはそばにいて。


兄の空色の目が大きくなって、

それからほんのりと微笑みが広がった。


仰せのままに。


そう言って兄はシロツメクサの冠を私にかぶせた。

初夏の女王様になった私は

従順なる麗しき従者に促され、

光溢れるテラスのテーブル席で

瑞々しい朝食を取る。

赤に黄色にオレンジに。

鮮やかな羽を震わせる小鳥たちも

私の庭で幸福の糧をついばむ。


みんな喜んでいるわ。

やっぱりみんなに優しくしてあげて。


先刻の子供じみた言動を恥じてお願いすれば

兄は首を振った。


いや、お前だけでいい。

お前が喜ばないと意味はないから。

だけど、お前が望むなら

なんだって叶えてあげるよ。


優雅にティーカップを掲げた兄に頷き返し、

俄仕立ての女王様は

過保護なのに傲慢な従者に宣言する。

世界に優しくすること。

もちろん目覚めの温もりは

何をおいても特別だと付け加えながら。

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