第12話 陽だまりの約束

週末のマーケットは活気にあふれていた。

新鮮な野菜に果物、乳製品にワインやリキュール。

そして多くの種や苗。

春を買い求める人たちはみな、

大きなバスケットを下げて満足そうだ。


実のなる木を買おう。

兄が嬉しそうに私の手を引いて先を急ぐ。


まずはラズベリーと葡萄だ。

秋には美味しいパイが食べられるかな。

少年のような笑顔に呆れながらも笑ってしまう。


せっかちね。

今年はきっと味見程度よ。

まずはこれで我慢して。


私は側のスタンドから

ミニバスケットに山盛りのイチゴを買う。


小さな苗木に見る夢。

でもそれは、来年も再来年も、

私たちの幸せな時間が紡がれていくということ。

例えようもない喜びが重ねられていくということ。


私は赤い輝きを兄に差し出した。

目を細め、パクリと咥えた兄が、

私の唇にも艶めくそれをそっと押しあてる。


二人して思い描く未来は

陽だまりのようにじんわりと温かく、

私たちは瑞々しさを頬張りながら

春の輝きの中で微笑みあった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る