第6話 バスケットいっぱいの春
明日は水仙を摘みに行こう。
兄の言葉に思わず笑みが広がる。
丘を越えてその向こう、そこには春がある。
母が好きだったワーズワース。
寝物語の詩の朗読を、私も兄もまだ覚えている。
いいえ、ずっとずっと忘れないでいた。
湖の岸辺に揺れる黄金の波。
星の輝きのように、延々と続くその流れ。
踊り出す心は春の喜びだ。
私たちが見つけた小川の脇にも
そんな夢のような光景が広がっていた。
二人で夢中になって、
小さなバスケットに花を集めた遠い日。
ああ、また美しい春が来る。
窓辺やテーブルに光の花を飾り
レーズンがたっぷり入った小さなケーキを焼く。
誰もが笑顔になる祭りはもうすぐそこだ。
骨董市で買ったバスケットを持って行こう。
随分と古ぼけているけれど
細やかな仕事に兄も私も魅せられた。
何よりもそれは、
あの日よりももっとずっと大きくて
流れ去った時間の分の花たちを
どっさり摘んでもまだ余るだろう。
失ったものは戻らない。
けれど。
ワーズワースを口ずさみながら丘を行こう。
バスケットを地上の星で満たして微笑みあおう。
喜びが、私たちの新しい春を作るだろう。
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