第9話 味が薄い

 買い物を終えたので宿に向かおうかとしたが、晃司のお腹が鳴った。


「あっ!晃司のお腹が鳴ったね!お腹減った?」


「あっ。うん。お腹が減ったなぁ。って、色々あって忘れていたけど、まる1日以上何も食べていないや」


「じゃあ少し奮発して美味しいのを食べに行きましょうか?」


「何か意識したらぶっ倒れそうな位にお腹が減ったけど、その前にやっぱり1度宿に行こうよ。荷物を置きたいしね」


「じゃあ宿で部屋を取って、荷物を置いたら直に食べに行きましょうね!」


 先に夕食ではなく、荷物が多いので宿に向かう事にした。


 宿はいつもの宿と言っていたが、物価や地理不案内から晃司はラミィに任せるしかなく、その案内に従った。


 3階建てで木造の宿だ。ラミィが宿の店員と話をしていた。

 予め宿代を託しておいたので、その様子を眺めていた。


 ラミィはパッと見どこにでもいるような、あまりパッとしないおどおどした女の子だ。


 改めて眺めると、冒険者だからだろうか、中々均整の取れたボディーラインをしていて特に脚はすらっとしている。

 ただ、町で歩いてる時の感じだと、スキーで鍛えられている晃司と同じか、それ以上にしっかりとした足取りで、モデル痩せではなくアスリートのような無駄な肉がない細さだなぁと感じた。


 お金がないからかあまり綺麗な服を着ていないし、髪もボサボサだ。肌もお手入れをする余裕がないのかガサガサだ。

 ただ、多分きちんとお手入れをすれば美人とは言えないまでも、それなりに可愛らしいのだろうなと思う。


 お金がないからか見た目のケアにお金を使えない→見た目がみすぼらしいから相手にされない→相手にされずパーティーに入れないからまともな依頼が出来ない→弱いままなので稼ぎが悪くお金がない。

 お金が無いから見た目をよく出来ない・・・


 ラミィは完全に負のループに陥っているのだと感じてしまった。


 自分はどうだろうか。取り敢えず身なりは最低限整えたが、やはり単独だとラミィの二の舞いだろうなと。

 取り敢えず弱者同士で手を組み、負のループから抜け出さないとなぁと思う。

 それに今は幸いこの世界の者と仲間になれた。右も左も分からないし、もしも1人だと常識も違う事から意図せずにトラブルに巻き込まれたりする可能性がある。


 元々理不尽に捕らえられたが、もう1度捕まる可能性が高い。だが、仲間がいれば回避できる可能性がある。


 それより何故かこの子は自分の事を無条件に信用してくれてはいるが、素朴で純情そうな子だ。

 年上として守ってあげたいなと少し思う。


 そんなふうに見ていたが、ラミィが戻ってきた。


「さっきから私の事を見ていたけど、何かありました?」


「ああ、ごめん。考え事をしていただけだよ。明日からラミィと一緒に頑張り、お金を稼いで今のこのお金がないからと陥っているループを脱しないとなって」


「うん!2人で頑張ろう!って2人部屋が空いていたので、荷物を置いて夕食に行きましょう!」


 ラミィは晃司の腕を取りグイグイと部屋に向かった。

 鍵を開けるとそこは小さな客室だった。


 取り敢えず入口近くに荷物を置き、ろくに部屋を見ずに宿を後にした。


 ラミィが急かしたからだ。

 薄暗くてよく分からなかったから、晃司はカーテンを開けて明るくして中を見たかった。

 だが、部屋の中を確認したラミィは慌てており、今はまだ晃司に見せまいとして食事に行く事をせかした。

 晃司はまあいいかとなって、荷物を置きラミィのお勧めの店に向かった。


 この宿は朝食代は込だが夕食代は込ではない。しかも夜は居酒屋をやっており、食堂ではない。

 その為外に食べに行く必要がある。

 酒場で夕食を食べる事にするのは内容が偏ってしまうからだ。


 少し歩くと食堂が有った。看板は文字もあるが、皿、フォーク、ナイフが並べられた看板から食堂と分かる。酒場はグラスにフォークだ。


 少し早い時間なのでまだ混む前で、直に座れた。


 メニューは読めないし、どのような食餌があるのか分からないのでラミィに注文を任せた。


 パンとスープとメインだ。メインは魚のムニエルと野菜を炒めた料理だ。


 味付けが薄く、素朴な味だ。野菜も品種改良等はされていないから野菜に甘みも殆どない。


 ラミィは美味しいとはしゃいでいたが、ラミィのはしゃぎようから、今のラミィが普段食べないような背伸びした料理だと理解できる。つまりこの程度でも美味しいと認識されていると理会した。それは舌の肥えた日本人にとって食の歓びがほぼなく、食事画単なるエネルギーと栄養補給の為になる事を意味した。


 ラミィがお口に合いますか?等と聞いていたが、美味しいよとしか言えなかった。


「やっぱりお口に合いませんでしたか?」


「悪い悪い。初めて食べる料理だから、どんな材料を使っているのかなぁ?とか、今後の事とか少し考え事をしていたんだ」


「そうですよね。確かに考える事が多いよね」


 晃司はラミィの事を考えていなかったなと思い、好きな食べ物は何かな?等の話題を振り、会話を楽しむ事にした。


 ラミィはよく喋った。今までずっと一人で過ごしていたので話し相手に飢えていたのだ。

 彼女の屈託のない笑顔が眩しかった。

 肌も荒れており、髪もボサボサで傷んでおり決して美人ではないがその笑顔はプライスレスたなと思う。

 会ったばかりだけど、この笑顔を守りたい!守ってあげたい!と思うようなオーラが出ている感じだ。


 そうして晃司は美味しくはなかったが、それでもこれまでの人世で1番楽しいと感じた夕食を終え、気分良く宿に戻るのであった。

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