第37話 おらさ、招待状とか、わがんね

 辛かった昼を終え午後の授業を終え、俺は放課後を迎える。

 カモンアフタースクール、アイムグラッドトゥミーチュー。


 で、今日の放課後は餅鬼先生と映研の部室で落ち合う予定だったな。

 一人のレディと会う身だしなみの一環として、シュッシュしない訳にはいかない。


「ん? 竜馬、コロンなんて付けてどうしたの?」

「え、ええと、柊木はこれから映研に行くよな?」

「うん! 僕は竜馬の行く所について行くよ」


 柊木が言うとストーカーの主張に聞こえるから不思議だ。

 という事で学校の校舎を抜けて併設されている部室へと向かった。


「ねぇ竜馬」

「なに」

「やっぱり、レンちゃんが居ないと寂しいね」


 部室に向かう道中、柊木はいつになく感傷的なことを言う。


「レンちゃんがいないと、竜馬悩んじゃって、今一になっちゃうんだよね」

「かも知れない、けど単純にそういう時期なだけかも知れない」

「そっか、思春期って感じだね」

「ほっとけ」


 人の一生にはいつも何かあると思った方がいい。

 みんな、大なり小なりの悩みを抱えて生きている。

 俺はその自覚を持ちつつ、漠然と将来について考えた。


 レンとの結婚はどうするか、柊木の気持ちはどうするか。

 先ずそもそも、将来の生業をどうするか。


「しばらく旅に出たいなー、レンと一緒に」

「僕を置いて行かないで!! しくしく、なんだよ、ナチュラルにはぶきやがって」


 レンの状況が落ち着いたらでいい、一緒にあてのない旅してみたい。

 もちろん、柊木を連れて行ってもいいと思う……いやどうだろう。


 部室の前に辿り着き、扉を開ける。


「ヒハハハハハハハハ! よくぞ来ましたねぇ、御両人、ヒハハハハハハハ!」


 部室では部長が奇声を発している、どうした。


「りょ、竜馬さ、おらやっちまったかもしれねぇ」

「おおレン、居たのか」


 奇声を上げる部長の傍らにひっそりとレンが隠れていた、おかえり?

 柊木が壊れた部長の下に駆け寄り、かわず掛けを仕掛けていた。


「おめえは一片死んでこーい!」

「……」

「え? 兄さん大丈夫? 怪我した?」

「妹よ、今日は一段とそそる下着を穿いているな」

「どこ見てんのよッ!!」


 部長は唐突に我に返る、逆に怖い。


「クラホくん、例のキノコだが、また採れたら送ってくれないか」


 例のキノコ? レンの奴は部長に何を送りつけたんだ。


「そげなこと言っても、さっきまでの部長さ、怖かったべぇ」

「レンちゃん、兄さんに何を送ったの!? 僕にも頂戴!」


 柊木、お前それ勇者っていうか無鉄砲だぞ。


「おら、この間合宿行った時、たんまりキノコ採ったから、おすそ分けしただけで」

「あのキノコを持ち帰ったのか!? ちゃんと処分しておけよ」

「そだな、今回はおらが悪かった」


 レンは素直に頭を下げると、部長は呆然自失になったみたいだ。


「嘘だろ、もう二度とあの高揚感を得れないなんて、俺の人生オワタ」

「部長、あんたただでさえ大事な時に自ら問題起こすのは自殺行為ですよ」

「ジョークに決まっているだろ、はは……こうなったら俺はお嬢に慰めて貰う!」


 ではなー! と言い、部長はもの凄い勢いでこの場を去って行った。

 高薙さんに慰めてもらうって? 羨ましいぞおい。


「所でレン、今日はどうして学校休んだんだ?」


 レンの様子に変わった所はない、そこは先ず一安心。


「今日は朝から父さんと母さんと一緒に外出してたからなぁ、それでだべ」

「よかったよ、ちょっと不安だったから」

「心配かけてすまねぇな竜馬」


 そう言って、俺達は自然な形で抱きしめ合う。

 VRとは言え、レンと触れ合っていると全身が多幸感で満たされた。


「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬう!」


 嫉妬から身体を震わせる柊木の肩を、背後からやって来た餅鬼先生が掴んでいた。


「クレハ、ご愁傷様」

「う、うわーん、叔母さーん、僕のピュアな恋心がズタボロだよー」

「将門くん、ここは一応学校の敷地内だから、いちゃいちゃするのは止しなさい」


 先生の指摘を受ける形でレンから身体を離すが、寂しさを感じる。


「先生、俺に用事あるみたいでしたが、何ですか?」

「君は図らずしも、柊木校長の件で助力してくれたから、そのことでお礼をと思いましてね」

「え? 俺は特に何もしてないですよ? 今回頑張ったのは部長じゃないですか」

「その部長の時貞が言っていたのだよ、竜馬には勇気を与えてもらったと」


 わからん、今、あの時の記憶を思い返しているが、そんなシーンどこにもなかったぞ?

 先生の言う事に覚えがない様子でいると、彼女は俺に招待状を寄越した。


「……え? 餅鬼先生結婚なさられるんですか?」

「そうだよ、祝ってくれると嬉しいね」


 招待状にはハッピーウェディングと書かれていた。

 日付は今週の土曜日になっている。


「おめでとう御座います、お相手はどんな方ですか」

「小学校の時の同級生、幼馴染みたいなものですかね」

「ふーん、素敵っすね」

「そう言ってくれるのは何も知らない君ぐらいなものです」

「俺、土曜日空いてるんで是非行かせて頂きます、レンとか柊木も一緒ですよね?」

「そうですね、君達には私が指導している愛する生徒を演じて貰えればいいですかね」


 実際俺達は先生に何かとお世話になっているから、演じる必要はないかな。


「竜馬行くの?」


 柊木が俺に聞いて来るのだが、微妙そうな顔をしていた。


「そう言う柊木は行きたくないのか?」

「正直ねー、結婚式とかって、出会い厨もいたりするし」


 あー、どうなんだろう?


「レンちゃんは行くの?」

「おらは問題ねぇ、柊木みたく苦手意識もねぇしな」

「あっははは、誰が人間嫌いの森の民だぁああああああああああ!」


 柊木さん、当日は寂しくなりそうだからって切れないでもらっていいですか?


「しょうがないから僕も行くよ!」

「無理するなよ柊木」

「竜馬に守ってもらうからいいんだもん! もん!」


 まぁ、柊木も大事な人の一人だし、当日は何か起こらないよう注意しておくよ。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る