第6話 おらさ、とぅーびーこんてにゅーとか、わがんね

『よかったなレン、末永くお幸せに』


 よし、これで俺の責務は果たした。

 三月のある日、俺達の卒業式にて。


 この日、レンは生徒会長をやっていた高薙さんという女子から告白を受けていた。

 俺はその現場を偶然目撃してしまって、レンに個チャを飛ばした。


 内容としては、先に帰っているぞ。俺の予想通り高薙さんに告白されてたな。

 とのメッセージを送ったのはいいが、レンはムキになったのか。


『こげなクソ眼鏡に告白されても嬉しくねぇ!』


 と、酷いことを言っていたので。

 俺は反省を促す意味も込めて。


『よかったなレン、末永くお幸せに』


 と最後に送り、一足先に卒業式の会場を後にするようログアウトした。


 美少女エルフで親友よ、その愛を永遠に大切にしろよ、フォーエバー。

 俺はもっと語学力を身に付けるべきだと心底思った。


 先にログアウトすると、レンは何故かベッドの上で座禅している。

 あいつ、何を意図して座禅したまま卒業会場にログインしてんだよ。


 それも俺のTシャツ一枚の姿でさ……しかもまさか――ノーブラ?

 親友のえっ! な光景を見た俺は、即座に悪戯したった。


『ウホ、いいエルフ。俺はノンケでも喰っちまうぜ by ベストケモノフレンド』


 というメッセージ付きの紙を座禅を組んでいるレンの股に置いておいた。

 さて、卒業式は終わったし、この後はどうしようかな。


 § § §


「ああくそ、竜馬いるー? って目の前にいるでねぇか」

「お帰り、卒業式はどうだった?」

「おら、高薙のことよくわがんね」


 一時間後、レンも卒業式からログアウトして来た。

 あの後俺は部屋の窓を開け、春日和を堪能するように時間を無碍に過ごした。


 一時間ほど、机に向かって、ニュース見たりして、時に外から聴こえて来るホトトギスのいななきに機微を覚えては、レンの顔を見たり、エルフ耳を見詰めたりしていると時間があっという間に過ぎたようだ。


「所で竜馬、この紙なんだ?」

「……あ」


 そう言えばレンの股ぐらに置いた悪戯書きのこと、忘れてた。

 レンは紙に書かれた内容を読んで、ばばっと女の子座りする。


「も、もしかして……おらとヤっちまったのか?」


 狡いぞ、今まで無自覚で無作法だったお前が、急に赤面してたどたどしくそんな台詞を言うのは! こっちまで恥ずかしくなるじゃないか、って自業自得感がパネェけどとにかく――誤魔化そう。


「いや、俺も知らないな。その紙になんて書いてあったの?」

「え……この紙、お前が寄越したんじゃないのけぇ? やばぁー」


 瞬間にして青ざめる彼女に、俺の感情も薄ら寒くなってしまった。


「それはそうと、竜馬は高薙の気持ち知ってたか?」

「薄々そうなんじゃないかと思ってたけど、告白するとは思ってなかったなぁ」

「いいか竜馬、これは親友として言いたいんだけどよ」

「なんだよ?」


 親友として? それは俺への気遣いを表す言葉だったと思う。


「もしもおめえが恋人持つにしても、高薙だけはやめておいた方がいい。あいつは地雷女だ」

「……はは、なぁレン」

「なんだ?」


 それって今日、どの女子からも声を掛けられなかった非モテ系の俺からすればさ。


「その台詞は嫌味なんだよ! 要は自分は告白されたその経験を持った、だけどお前はいまだに経験がない、っていう上目線での発言なんだよ!」


「えぇ~」


 えぇ~、じゃない! 実際そうなんだよ!

 まぁ、事件としては、俺の親友を語るレンが彼女に現状を教えたことから始まる。


「そう言えば、高薙には事情を説明しておいたからな」


「馬鹿だな、あれはお前の問題じゃなく、お前のお母さんの問題なんだから。下手に教えないで、嘘吐いてやり過ごした方が平和だったと思うぞ。お前普段は平気で嘘吐くのに、重要な場面で馬鹿正直になるよな」


 と、エルフ耳の美少女である親友レンの昔からの印象を口にすると、レンは手元にあった枕を投げつけた。


「竜馬の方こそ、いつも上から目線でねーか」

「だから、暴力的な所は直せよ」


 と言うと、レンは舌を出してあっかんべーしていた。

 小春の陽光が窓からさしこみ、彼女の銀髪を照らしている。

 レンは雲間からさしこんだ陽の方を向いて、不敵な笑みを零していた。


「なんだ、今日もいい天気だな」


 レンの容姿が美少女だったこともあり、その光景にしばし見惚れたものだけど。

 出会い方が出会い方だったし、いまだに彼女には恋愛感情よりも友情が先立つ。


 けど、胸の奥にある、秘められたこの気持ち。

 心臓がトクントクンと気持ちいい律動をしている不思議な高揚感の正体は。


 もしかしたら、人はそれを恋と、呼ぶのかもしれない。

 トゥービーコンテニュー。


 やっぱり俺は高校に上がる前にもうちょっと語学力を鍛えた方がいいな。


 § § §


 そして高校に進学する前、俺はレンと一緒に駅に買い物しに来ていた。

 レンがまるで恋人のように俺の腕にくっついている中、事件は起こる。


「……将門くんの家には、ここからどう向かえばいいのかしら」


 どうやらその日、レンに告白した高薙さんが俺達が住む地元の駅にやって来ていたみたいだった。


 ToBeContinued.

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