第2話 おらさ、らっきー助べえとか、わがんね

「ぢょ! 確認するけど、君が本当にクラホ・レンなのか?」


 驚きの余り人差し指をさして確認を取ると、エルフ耳を持った彼女はキャップ帽をかぶり直し、突き出した人差し指をか細い手で下におろすように触れていた。


「竜馬、おらの性別が女だったからって急に二人称が君になったな。意識してるのか?」

「いやいやいや、そうじゃなくてさ」


 今のお前は父親の不倫問題で家出して来た、謎の美少女じゃん?

 って所まではいいんだよ!


 問題なのはそのエルフ耳じゃないか。


 不肖、将門竜馬、実は俺にはレンも知っている秘密がある。

 それは……俺のエログッズのほとんどが、エルフ耳属性だという事。


 そのエロアイテムはレンとの共有ストレージにも置いてあるアピール振りで。何故こいつとの共有ストレージにあえて見せびらかすように置いてあるのかと言えば、エルフ耳の良さを布教したい一心だった。


「あ、そういうことか」

「そういうことって何だ?」


 要は、レンはそんな俺の性癖を知っていて、今回俺の家にご厄介になる感謝の気持ちをエルフ耳の被り物か何かで隠喩しているのかな? それなら合点が行く。


「竜馬、おらの母さんだ」

「あ、どうも」


 レンの三歩後ろにワンピース姿の女性が居た。

 その人は俺達のような高校生の子供を持っているように見えないぐらい若くて。


 耳はレンと同じで、エルフ耳なんだが?

 感謝の気持ちを表すからって、普通母親に友人の性癖のコスプレをさせるか?


 ま、まぁ、二人はそれどころじゃないよな。

 レンの母親は挙動不審になっている俺に困っている様子だし、ここは手早く家の両親と合わせよう。


 改札口を降りて、自動タクシー乗り場で三人分の定額を支払い、一路俺の家を目指した。


「竜馬の家って、どのくらい大きいの?」


 自動タクシーが低空走行して、俺が住んでいる街の景色が流れていく中、レンは黄色い声音で聞いて来る。


「割と広い方なんじゃないかな。それよりもお前、今までどうして性別誤認させるような真似してたんだ?」


 聞き返すと、レンはとっさに耳を気にしているのだが……やっぱりアレ本物か?


「お前も知っての通り、おらはちょっと普通じゃないからな」

「いや俺の知ってるお前は単なる陰キャの同士だし」


 そう言うと後ろの席で大きな荷物と隣合うように座っていたレンのお母さんが少し笑っていた。今回最大の被害者はこの人だろうし、儚げに笑う姿が俺の心に杭を突きさすようだった。


 家に着くと、レンはお母さんと一緒に早速家の玄関で両親に面会していた。


「ああ、どうも。今回はお気の毒でしたねクラホさん」


 父さんが口にした台詞は適切だったのかわからない。


「心中お察しします、さ、外は寒いですし中へどうぞ」


 母さんがレンの親子を気遣うように言うと、小母さんはお辞儀してから家に上がった。よくある木造りのフローリングの廊下では、普段は消灯しているオレンジ色の電灯が点いていた。


「中々広そうだな」


 俺の後ろを歩いていたレンは家の敷地を広そうだと言う。


「自画自賛じゃないけど、家は近所でも一際大きいと思う」

「おら、玉の輿になれそうだな」

「お前と結婚する気はないからな」

「えぇ~、おらは事前に言ったべさ」

「何をだよ」

「この戦争が終わったら竜馬と結婚するって」


 そもそも、戦争ってお前の両親の話? とは小母さんの前では言えない。

 でも、このデリカシーの無い所とかは俺の知っているクラホ・レンのそれだった。


 リビングに着くと、母さんが二人に自家栽培のホットハーブティーを差し出す。


「これどうぞ、冷え切った心身が温まると思いますよ」


 すると小母さんは再度頭を下げる。


「にしても、こう言っちゃなんですけど、奥さんの旦那さんは笑っちゃうぐらい最低ですねぇ。私も長いこと人生経験積み重ねてきましたけど、不倫した挙句妻子を追い出す馬鹿なんて聞いた例がありませんよ」


 母さんが単刀直入に言うと、小母さんは泣き出してしまった。

 母さんの隣にいた父が肘で小突いては。


「竜馬、レンくんを連れて部屋に下がってな。ここからはちょっと込み入った話になるだろうから」


「わかった、行くぞレン」

「家の母さんをよろしくお願いします」


 大人には大人にしか理解出来ないこともある。

 子供には子供にしかわからないことがあるように。


 レンを連れ、小母さん達の大きな荷物を持ち俺は二階にある爺ちゃんの部屋に向かった。爺ちゃんの部屋は元々祖母と一緒に使っていた二人部屋で、祖母は俺が物心つく前に亡くなっている。


 爺ちゃんの部屋は一面畳張りの和室で、昨今だと和室文化も世界では定着している。バーチャル空間においても和風世界の鯖は今でも人気高いしな。


「おお、これまた見事な和室だ」


 レンは畳の上に腰を下ろすと、荷物の中から早速パソコンを取り出していた。


「色々と言いたいことあるけど、お前、この先どうするつもりだ?」

「わっがんね、とりあえず高校卒業するまでの三年間で、決められたらいいけどな」

「……にしても」


 それにおいても、レンのエルフ耳が気になる。


 下半分は人間の耳の形によく似ている、が、上に近づくにつれカラカルのようにきめ細やかになっている造形美は、例え作り物だろうと尊く、そして尊い。大事なことなので二度言いました……その耳に、ちょっと触れてみると。


「アっ」


 レンは口からエロい声を出しやがった。

 危なく愚息がむくりと起き上がる所だった。


「なんだよ、おらの耳に気軽に触るな」

「……うん、そうだね」

「その清々しい声をやめろ、おら、意外と敏感なんだから」

「うん、そうだね」

「急に賢者モードになるのもやめろ」


 うん、そうだね……このままだとレンを襲いたくなるので、一先ず私室に逃げよう。


 いそいそいそと。


 三階にある自分の部屋に戻ると、俺は急に思い出したことがあった。

 そう言えば、余ってる部屋は爺ちゃんのだけじゃなかった。

 三階には俺の部屋と、俺の妹弟が出来ることを想定してあった空き部屋があるんだ。


 そのことを伝えに二階に降りて爺ちゃんの部屋に向かえば。


「なぁレン、お前の部屋だけどさ」

「っ!?」


 ついノックするのを怠って、木造りのタッチ式の自動引き戸を開けると、レンは着替えをしていたようだった。先ほどまで来ていたダウンジャケットは脱いであって、今はジーパンをはき替えているようで、白い下地に薄い縦縞がなされた下着が見えてしまっている。


「急に入って来るな!」

「……うん、そうだね」

「そんでもって冷静に凝視するな!」


 羞恥で顔を赤らめるエルフ耳の美少女。という構図に俺は耽美するように見惚れ、そして――


「おらの前でチ〇コを勃起させるでねぇ!!」


 俺はその光景に、初めてレンで勃起してしまった。





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