反撃の嚆矢

 三月二日未明、NATO各国及びアメリカからの支援物資はロシア軍と対峙するウクライナ軍の戦線後方に到着した。

「一刻も早く前線へ届けてくれ」

 イギリス人の指揮官はそう言って、空になったトラックに国境までの後退を指示する。ウクライナ軍の補給部隊はマニュアルと兵器をセットにして、前線へ向かうトラックや補給車輌へと搭載した。


 三月二日午前十時、NATO加盟国の兵士やウクライナが募集した外国人義勇兵、合計一万八千人の追加戦力がスロバキアからウクライナの国境を通過し、密かに移動を開始したという情報がウクライナ軍の情報共有システムを駆け巡った。それに呼応して、ウクライナ軍は陽動作戦を開始した。

「第五装甲旅団、前進を開始。全戦闘車両、前進は順調。現在位置キエフ南西二百キロ」

「敵攻撃ヘリコプターの動向を確認し、必要ならば空軍に支援要請を送られたし」

「了解」

 ウクライナ陸軍の第五独立戦車旅団がキエフに向けて進軍を開始し、ロシア軍の包囲軍まで百キロに迫る。ロシア軍の包囲部隊は速やかに攻撃を開始し、戦車対戦車の格闘戦が始まった。ウクライナ軍のT-72戦車は少し後退し、待ち伏せをしつつ主砲でロシア軍のT-72B3戦車を撃破する。さらにウクライナ軍の歩兵が対戦車ミサイルでロシア軍の戦車を次々に撃破し、ロシア軍は瞬く間に応援を要請した。

「攻撃ヘリコプター発見、数は三十二機」

「了解、戦闘機第三小隊発進!」

 「キエフの亡霊」も待機するウクライナ空軍唯一にして最大の拠点となったドロズドフ臨時基地から四機のMiG-29が発進し、基地を避けるようにキエフ上空を飛んでいるロシア軍のMi-28にミサイルを放った。Mi-28は側面からの攻撃に翻弄され一瞬のうちに八機を失う。ロシア軍対空部隊の対空ミサイルがMiG-29を狙った。それを察知したMiG-29は即座に低空飛行で撤退、代わってウクライナ陸軍に供与されたばかりのゲパルト対空自走砲に出番が回る。初戦で壊滅したと思われた対空ミサイル部隊を補充するため、先行して十両が前線に送られていたのであった。

「射撃用意!」

 Mi-28が接近する中、森林に潜むゲパルト対空自走砲の三十五ミリ機関砲が火を噴いた。十数秒間の射撃でMi-28は八機を失い、さらにゲパルトの射撃は続く。さらにウクライナ歩兵の持つ発射機から対空ミサイルが放たれ、Mi-28はその数を十機に減らした。

「まずい、隊長機が……ッ」

「このままでは全滅してしまう!」

 隊長機を失ったMi-28攻撃ヘリコプター十機は統率も取れないほど混乱し、一発もウクライナ陸軍に対する打撃を与えられないまま撤退していった。

「よし、このままロシア戦車を破壊する!」

 ウクライナ軍のT-72は四輛を失いながらも次々にロシア戦車を破壊し続け、ロシア軍の戦車は二十輛が撃破され、十二輛が擱座かくざした。当初二個戦車大隊六〇輛いたはずのロシア軍戦車は、ウクライナ軍のT-72戦車二八輛と対戦車歩兵によっていつの間にか挟み撃ちにされ、一輛また一輛と砲塔を吹き飛ばされ、或いはミサイルの効率的な射撃を受けて散っていく。やってきた救援部隊にもウクライナ陸軍航空隊のMi-24攻撃ヘリコプターが接近し、激しい掃射とミサイル攻撃を受けて対空車輌が全滅したのを皮切りに、戦車も対戦車ミサイルで次々と撃破されていく。ロシア軍の司令官は、ウクライナ陸軍戦車隊を撃滅するために兵力をつぎ込むよう指示を下した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る