*第5話 精霊とイワンの馬鹿

「何で浮いてるの?」

「精霊だからな。」

「ふぅ~ん、そうかぁ~」


納得したのか?

あんまり驚かないな~

普通は腰抜かすぞ?


「お前、ダモンが何所へ行ったか知ってるか?」

「ダモンって何?」

「あの山の中に住んでた連中だよ~」

「そんなの居たかなぁ?」

「ほらぁ~遺跡の所に~」


「あぁ~あの枯れた遺跡かぁ。」

「枯れた?」

「あぁ、あそこにはもう何も無いよ。全部掘り尽くしてしまったからね。」


イワンが言うには何百年も前から廃墟だとか。

今では誰も寄り付かない虫と毒蛇の巣窟らしい。


「そこにいた奴らはどうした?」

「さぁ?長老なら何か知ってるかも?」

「そうか、じゃぁそいつに聞くか。何所にいるんだ?案内しろ。」


***


長老は村の歴史や古い言い伝えを代々受け継いでいる。

またシャーマンとしての役割も持っている。


宗教と呼ぶにはまだ稚拙ちせつで、教義と言うものも無く、

ただ自然現象を神格化し祈りを捧げる風習が有る。

かつての精霊信仰の名残りとして精霊と精霊の民の伝説が語り継がれている。


<遠い昔、この世界には精霊が居た。

人と精霊は共に暮らし、奇跡の御業を用いて豊かに暮らしていた。


ある時、空に狂星が現れ天上の支配を巡って太陽に戦いを挑んだ。

精霊と精霊の愛し子たる聖女は太陽と世界を守る為に

死力を尽くして戦い狂星を退しりぞけた。


だが激しい戦いで聖女は命を落とし、深い悲しみを負った精霊は

長い眠りについてしまった。

精霊の加護を失った民は力を失い、何処へともなく消えてしまった。


何時の日か精霊の悲しみがえる時、再びこの世界に

聖女が現れて、我らに祝福を授けるであろう。>


どの部族にも同様の言い伝えが有り、精霊の再来を願い祈りを捧げる。


***


「ひぃぃぃ~~~」


村長は腰を抜かした!

さもありなん!


普通はこうだよねぇ~

人が宙に浮いているだけでもびっくりなのに、

それが精霊だなんて腰の一つや二つ抜けちゃうよぉ~


イワンがおかしいんだよ~

まぁ馬鹿だからしょうがないのかな?


「お前が村長か?」

「は、はい!そうで御座います!精霊様!」

「長老の所に案内しろ。」

「長老で御座いますか?何用で御座いましょう?」

「聞きたい事が有るのぉ~」

「左様で御座いますか!分かりました!こちらで御座います~!」


驚いて死んでしまうとマズイので先に村長が行って段取りを整えた。

集会所に席が設けられて、村長はじめ村の組頭たちが揃って出迎えた。


「ささっ!どうぞこちらへ!」


当然、上座に案内されて、何枚も重ねた敷物の上に座る。

と言っても、元々浮いているのだから敷物は要らないのだけれど、

せっかくだからと、ちょこんと乗っかる。

挿絵:https://kakuyomu.jp/users/ogin0011/news/16818093077586029050


「何なりとお尋ね下されませ。

長老は耳が遠いので、私が取り次ぎ致します故。」

「ダモンの民を知っているか?」

「大ババ様やぁ~!ダモンのぉ~!民をぉ~!知っとるかぁ~~~!」

「ふがふがふごふがんが~んごんご~ふがふが~むにゃむにゃ~」


「昔、山の遺跡に住んでいた者たちが居たと言い伝えに有るそうで御座います。」

「その人たちはどうなったのぉ?」

「その人たちは~!どうなった~!」

「おふがもふが~ごもごも~ふが~」

「遺跡を捨て山を越えて北へ行ったそうで御座います。」


「どのくらい前だ?」

「どんくらい~!前だぁ~!」

「ぼそぼそ~ふごふご~」

「三百年前だそうで御座います。」

「それは確かなのか?」

「はい、村の外れに在るガヤの木が三回生え変わったと言っておりますので。」


ガヤの木は、およそ百年で枯れて、その根元から新しく芽を出すそうだ。


遺跡が枯れても暫くは狩りをしながら暮らしていたが、

若者たちは新天地を求めて山を越え、残った者もやがて死に絶えたと言う。

その後の消息は分からないらしい。


「ダモンが土地を捨てたのか・・・」

「あのダモンがねぇ~」


いやぁ~あのダモンは大災害の中に消えたよ~

ダモンの誇りも伝統も木っ端みじんに打ち砕かれたよ~

それだけの厄災だったからねぇ~

仕方が無いよねぇ。


「とにかく北へ行ってみるか。」

「そうだねぇ。」


***


村長が是非にと懇願するので10日ほど逗留とうりゅうしてからの

出発となった。


まぁ、それくらいは良いだろう。

今更あわてても大差は無い。


さて、そろそろ行こうかと言う所で綿精霊たちが騒いでいる。

残念ながら彼らは単純な意思表示しか出来ない。

細かい要件を伝える機能は備えていないのだ。


それでも必死になって何かを伝えようとしている。


同じ精霊でも人型精霊と綿精霊は役割が違う。

人型精霊は聖女の補佐として存在する。

しかし綿精霊は人類そのものを守る為に居る。

機能は低いが、その代わり大量に居る。


「随分と熱心だな?」

「何が言いたいのかなぁ?」

「うん?何だ?」


綿精霊たちが整列して一人の男へと列を作る。

イワンだ!


「あいつがどうかしたのか?」

「連れて行けって言ってるんじゃなぁい?」

「え?そうなのか?」


どうやらそうらしい。


「どうする~?」

「何か理由が有るんだろうな。連れて行こう。」


「???」


こうしてダモン捜索隊となった精霊のモモとルルベロ。

そして綿精霊の推し、イワンの馬鹿。


大山脈を越えて北を目指す!


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