第5話 悪望深度
「ちょっと待ってくれボス! 納得がいかねえ!」
声を上げたのは、部屋の端で待機していた護衛の男だった。
丸々と太っているが、縦にもデカい巨漢だ。
「俺たちのボスが、
僕はちらりとウーロポーロ・ヨーヨーのほうを見た。
「だそうだけど?」
「うーん、脅されて意見を変えた訳ではないのだがネ」
ウーロポーロは苦笑する。
当たり前である。
正面から戦闘すれば僕が10人いてもウーロポーロには及ばない。もちろん、僕の切り札を使えば話は別だが。
とにかく、今はウーロポーロが情けをかけて意見を変えてくれた図式だ。
彼の意見と彼の部下の意見の対立だ。ここは素直にウーロポーロに任せたほうが良いだろう。僕が何か意見を出しても余計にこじれるだけである。……そう思っていたのだが。
巨漢は、言ってはならないことを口にした。
「こんなチビ助、俺が叩き出してやりますよ!」
――――あ?
「誰がミジンコ矮小ドチビだって? ああ!?」
「いや、そこまでは言ってねえけどよ……」
これは断じて嫉妬ではないが、僕の経験上、身長が高いやつはそれを鼻にかけて傲慢になる傾向がある。『正義』の名の下に断罪しなくてはならない。断じて嫉妬ではないが。
「おいウーロポーロ、意見が対立した時はここでは何で決めてる?」
「ボクシング、コイントス、アームレスリングあたりだネ。おいおい、この部屋で流血沙汰はやめてくれヨ」
何であろうと正義が負けることは無い。
「おいデカブツ、決めさせてやるよ。僕が勝ったら金輪際文句はつけるな」
「決めさせてやるう? ガハハ、後悔するなよ!」
巨漢が選んだのはアームレスリングだった。
身長152cmの僕に対して、巨漢は2m以上はある。向かい合うと体格差は歴然だ。
アレックスが心配そうに声をかけてくる。
「これは、ヤバいのでは? 変わりましょうか?」
「心配しなくていい。
「しかし……」
アレックスは巨漢のほうの様子を伺う。
「恐らく相手も
「問題ない。アレックス、君は身長は191cmだったな。なんだ、同情か? チビにはタイマン張ることも出来ないだろうからデカい俺が変わってやろうってことか?」
「いいえ、滅相もないであります!」
僕がビキビキとキレ気味に接すると、ようやくアレックスは引っ込んだ。
「当然だがアームレスリングでの悪望能力の使用は禁止ダ。さて、競技台が必要だネ」
ウーロポーロが指をパチリと鳴らすと、部屋の空いているスペースにアームレスリング用の競技台が出現した。
『少女愛』の
いったいどんな悪望を抱いているのか知らないが、ウーロポーロは様々な物体を具現化する能力を持っている。一般的な
とにかく、こういった時には便利な能力だ。
僕と巨漢が競技台の上で手を組むと、周りの護衛たちが囃し立てた。
「ゴッチョフの勝ちに賭けるぜ」「俺もゴッチョフに1票」「俺もだ」「おいおい、賭けにならないじゃねえか」
こいつ、ゴッチョフという名前なのか。それにしても舐められたものだな。
「ワタシはハル・フロストの勝ちに賭けよウ」
ウーロポーロの一言で、シンと静まり返った。
ゴッチョフが怒りの表情を浮かべて真っ赤になる。ボスからお前は負けると言われたのだ、屈辱だろう。
「ぶち殺してやる!」
「やってみろよ」
ウーロポーロが開始の合図をした。
「では、ゴー、ダ」
スタートと共に、ゴッチョフが渾身の力を込めて僕の腕に負荷をかけてくる。
ゴッチョフが戸惑ったのが分かった。そう、ゴッチョフの力では僕の腕はぴくりとも動かない。
「ど、どういうことだ……」
「アレックス、新人に講義をしてやろう。
ゴッチョフがさらに全力を込める。依然として僕の腕は動かない。
「そして、
僕は腕に軽く力を込めると、巨漢の腕を一気に押し倒した。
ドン!という轟音と共に、競技台にゴッチョフの腕が叩きつけられる。決着だ。
「つ、強ぇぇ」
ゴッチョフが感嘆の呻きをあげた。これでもウーロポーロの部下だ、相手の強さを認められる素直さは持ち合わせている。
ウーロポーロが拍手して喝采の声を上げた。
「流石だナ! 悪望深度A、『正義』の
「当然だ。あとこれは重要なことなので言っておくが」
僕は周囲を睨みつけると、高らかに宣言した。
「僕はチビじゃない。成長期だ」
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