第008話、暴動の原因、胸毛ってモテますか?


2022/03/02、修正してます。


「いや~治って良かったな~、俺って凄いかも、、、ん?」


怪我人を治して満足していると、あぶらぎったオッサンが騒いでいるのが視界に入る、どこかで見たような、俺は見覚えのある"テカったあぶら"に記憶をたどる。


「早く治せよ!」


あぶらぎったオッサン叫ぶ。


「あれ? なんか見覚えのあるような、、、あのあぶらは」


騒いでいるのは前の職場の先輩、シラハだ、優先的に自分を治療しろと騒いでる様子だ、周りの治癒師さん達も困り顔だ。 どうやら胸の辺りを怪我しているようだが、出血も少ないし、軽傷に見える。


「早くしろって言ってるんだよ いつまで待たせるんだ!」


困り顔の治癒師さん

 「お待ちください、他にも重症者が多いんです」


「なにしてるんですか、シラハさん」


俺は困り顔の治癒師さんと交代して、シラハに声をかける、一応笑顔を向ける、シラハはじっとり睨んでくる、身体も目線もじっとりしているとはさすが"あぶら先輩"


「ん? サルナス?? なんでお前がここにいるんだ?」


「いまここで治癒師として働いてます、シラハさんこそなんでここに? あぶら汗かいて、怪我までして? あぶら汗かいて、冒険者でもないのに」


「う"っ! いいだろ! そんなことは! それよりなんであぶら汗を二回言った? 相変わらず笑顔がキモいな、お前も治癒師なのか? だったら早く俺の怪我を治せよ、痛いんだよっ!」


相変わらず態度がでかい、あぶらも多いし、偉そうだ。 俺は軽く出血している胸を見て、治療を開始する。


「わかりましたよ、胸を見せてください、……ケガハエール!!」


シラハの胸にフサフサで立派な胸毛が生えてきた、身体とは違いあぶらっ気はなく、フサフサだ、魔法で生やすと毛の性質が変わるのかも。


「おお~っ! 怪我した胸に立派なふさふさの毛が! っておいっ! なんで胸毛増やした! 怪我だよ、毛じゃねーよ!」


おおっ、良いツッコミだ、けれどほんとに毛が生えるとは思ってなかった、冗談で適当に呪文唱えたら、スゲー効き目あった、まじで毛が生えた、俺は心の中では凄く驚いている、もちろん表情には出さないようにだ、魔法って凄いな。


「ア、マチガエマシタ~」

「わざとだろ! てゆーかこんな魔法あんのかよ!」


知らないよ、ほんとに効き目があるとは思わなかったもん。


「チガイマスヨ、マダシンジンナノデ、テモトガクルイマシタ、シッパイシチャッタナー」


「さっきから言葉がおかしいんだよ!」


俺はうまく誤魔化した、けどシラハは不満いっぱいに訴えてくる。


(うるさいな~、いいじゃん立派な胸毛が生えたし、そのおかげで血も止まったようだし、一石二鳥じゃねーか!)


俺は心の中で叫び、シラハをおだてることにした。


「最近、胸毛がモテブームなんですよ、これでシラハさんも彼女できますね!」


俺は親指をサムズアップして、シラハを褒め称える。


「余計なお世話だっ!」


シラハは何故か怒っている、せっかく褒めたのに、毛についてはこのくらいにして、俺はシラハが下げているカバンが気になっていた。


「ところで、さっきから気になってたんですけど、そのカバン なんだか動いてません?」



「キューイ! グル~」

ゴソゴソ…


なんか、音がした、音? 声のようにも聞こえた、明らかにシラハのカバンの中だ。


「あ、これはなんでもない、新しい魔法道具だ」


「でもなんか 鳴き声のような…」


俺がシラハのカバンをじっと見ているとカバンからなにか飛び出してきた、動物?


「キューー! キュッキュッ!」


カバンの中から可愛らしい生き物が飛び出してきた、体は丸っこくて、羽やシッポがある、四つ足で歩き、頭には角もある、目元がくりっとしてて母性本能をくすぐる外見だ、その動物を見た周りの人々が何か言っている。


「あーっ! それ魔物の子どもじゃないか?」


誰かが叫んだ 周囲がざわついている。


「外にいた魔物と似てるぞ」

「まさか…」


みんなの疑惑の目がシラハに向けられる、シラハはますますあぶら汗を生産しながら、おどおどした雰囲気になってくる。


「もしかしてシラハさん、魔物の子どもをさらってきたんですか?」


「ちがっ、違うんだよサルナス、この子が怪我してたから保護しようとしてな、そしたら親が勘違いしたみたいで」


シラハは明らかに動揺している、おそらくこの子どもが騒動の原因なのだろう、親に返せば騒動はおさまるのかもしれない、シラハを説得してみる。


「なら俺が治しますから、親に返しましょう」

「……」


「返しましょう」

「……やだ」


「は? なに言ってんですか 返しますよ」


「これは俺の物だ! この魔物を使って画期的な魔道道具を作るんだよ、わかるか? 凄いのができそうなんだよ、頼むよ見逃してくれよ」


シラハは 媚びるような笑顔を俺に向けて、両手を擦り合わせながらクネッとした "お願いのポーズ" をとる、可愛くない、気持ち悪い。


「ダメですよ、子どもは親に返します」


「なんでだよ、お前も魔法道具を作ってたならわかるだろ? 凄い魔法道具ができるかもなんだぞ」


わからない、魔物を素材にしたものなんて作ったことないし、しかも子どもなんて、罪悪感でつぶれそうになるよ。


「わかりませんよ、あそこではそんな魔物を使った道具なんて無かったじゃないですか」


「だからだよ! 俺が独自に研究したんだ、今までの魔法道具を越えるには素材から見直す必要があったんだ! しょせん魔物なんだからいいじゃねーか!」


シラハは開き直って怒鳴り出した、俺は優しく説得していく、シラハの好きそうな食べ物で釣ってみよう。


「いくら魔物でも子どもじゃないですか、返しましょうよ、後でラーメンおごりますから、シラハさんの好きな、あぶらマシマシ、あぶらだらけの、あぶらしか無い、こってり沼ラーメンですよ」


「いらねーよ! なんで知ってるんだよ、お前と飯食ったことないだろがっ!」


"こってり沼ラーメン" は適当に言ったんだが、ほんとに好きなんだな、ほんとにあるメニューなんだな、どこにあるんだろう、逆に見てみたい、と興味がわいた。


「ほんとに好きだったんですね、適当に言ったのに」

(うわ~ 引くわ、ほんとにあぶら好きだな)


俺とシラハが言い争いをしていると、突然声がした。


「はいっ、そこまで~!」

ムッキムキ!


この効果音はノミー課長だ、相変わらずムキムキしてる、そして、また尻をナデナデ~っと触りながらシラハを捕獲。


「ちょっ! なにを、あ~ そこは… あ"~」


「あ、ノミー課長」

(なぜ、いつもシリをさわるんだろ…)


ノミー課長は俺らの様子を見て、状況を理解した、魔物の子どもを見つめている、表情が緩んでいる、魔物の子どもはノミー課長の心も奪ったようだ。


「なるほど、魔物が外で暴れてる原因はその子だね」

ムキッ


「その子を返せば大人しくなるかも、でも外の魔物は興奮してるから近づくと刺激されて、更に興奮するかも」

ムキ~…


たしかに武装した冒険者なら、警戒して更に興奮するかも、でも俺ならいけるかも、俺はそう思いノミー課長に進言する。


「俺が行ってみましょうか? 治癒師ですし、俺は他の人より弱そうですし、そんなに刺激にはならないかも、たぶん」


「ん~…そだね、サルナス君、お願いできるかい? 無事に帰ってきたらハグしてあげるよ」

ムキ


やはりノミー課長って、、、


「いえ、ハグは無しでお願いします」


「うむ、残念…… では僕はこのあぶら君を…」


ノミー課長はムキムキー↑っとポーズを決める。


「だれが"あぶら君"だっ! 触んなって、さっきから手つきが怪しんだよっ! なんなんだよ!」


シラハはノミー課長の腕の中でもがいている、ノミー課長は少し強めに押さえつけ、シラハにボソッと呟いた。


「こんなに被害を出したんだ、覚悟はいいかい?」

ムッキ


「あ…… う"……」


ノミー課長が少し低めの声でそう告げると、シラハの顔色がさぁーっと青くなる。


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