第7話 この駄女神のレベル上げのために出陣を‼

「どうだ。似合っているか?」

「おー、決まっているじゃないか」

「これでまともな冒険者に見えるだろ」


 ジャージ姿から旅人の服に着飾った俺は、あまりものカッコ良さを自慢しに、いつものメンバーたちに見せびらかしていた。


「ようやく外観だけはまともになったわね。まあ、ヒキニートにも衣装っていうしね」


『クリエイトウォーター!』


「きゃあああー!?」


 俺は片手で標準を定め、仏頂面で覚えたての初級魔法の水魔法をアクアにぶちかましていた。

 キャベツ狩りの時にご親切な剣士やいわく付きの魔法使いから、片手剣スキルや初級魔法を色々と教えてくれたのだ。


「ヒキニートの分際でいきなり何するのよ。全身びしょびしょじゃない!!」


 現在の俺の冒険者レベルは6。

 馬鹿デカイカエル退治と空を舞うキャベツ狩り、そしてクリスの下着スティールで経験値とお金を手に入れたので、それで装備を整え、初級スキルを覚えることにしたのだ。


 まあ、モンスターを倒したりするだけでなぜレベルや能力が上がるのかは永久の謎だったが、そこは気にしないでおこう。


「何よ、私は最上級職のアークプリーストなのよ。初級スキルしか使えない紙ストローの濡れたイモムシは黙って私に従って……」


『クリエイトウォーター!』


 俺は再度、水の魔法を今度はアクアの頭上から降らせる。


「わああーん!?」


 お前には坊さんの修行のような滝行がお似合いだな。

 その性悪な顔を洗って出直してこい。


「しかし、どうしたダクネス。いつもの重苦しいトレードマークの鎧を着ていないが?」

「心配無用だ。私は防御系スキルを常に振り分けている。防具がなくても他のクルセイダーとは半端にならない防御力を誇るぞ」

「いや、両手剣のスキルくらい上げろよ。だから攻撃力がゼロなんだよ」


 でもまあ、ダクネスは着やせする体形みたいでそれなりにいい体してるな。


「なっ、何をガン見しているカズマ。私のことを『エロい肉付きをしてこのメス犬が!!』と思ってるのか?」

「そんなこと思ってねえよ」


 確かにスタイルはいいが、中身がこれじゃあな。


「まあ、そんなことより、身支度も新調できたし、新しいクエストに行かないか? ジャイアントトード退治にさ」

「いや、カエルはゴメンだな」

「どうしてだ。カエルはやっつけやすいし、それなりに稼げるし、おまけに飲み込まれてヌルヌルの粘液まみれに‼」

「俺は嫌だ。もっと手軽なクエストにしようぜ」


 俺は顔を火照らせているマゾっ気姉さん女房(妄想爆発中)の要望を無視する。


「これだからヒキニートは困るのよね。私たち三人の上級職の腕前なら、効率のいいクエストをしまくってレベルをガンガン上げて、魔王なんて楽勝で倒せるわよ」

「そんなお前が一番役立たずなんだけどな。宴会芸しかできないポンコツラーメンが!」

「いやー、私をそこら辺の豚と一緒にしないで。私はラーメンの出汁なんかじゃなーい‼」


「まあ、この際だから言うが、俺は魔王なんてどうでもいい。楽して安心した生活をおくりたいんだ。だからアクアも簡単に儲かる仕事を考えろ!」

「いやよー、内職がらみでおまけにDVがセットで付いてくるなんてもっと嫌よー‼」


 俺はアクアをとことんののしり、罵倒ばとうの言葉の荒らしをぶつける。

 こんな駄女神になめられぱなしじゃあ、虫酸むしずが走るからな。


「まあカズマ、それよりもアンデッド狩りのクエストなんてどうだろうか?」

「アンデッド? ゾンビとかの死霊相手か?」

「そうだ。アンデッドならアクアの回復魔法で浄化できるし、レベルの上げにくいアクアのレベル上げにはうってつけと思うのだが」

「そうか。いっちょ行ってみるか」


 俺たちはダクネスの案に同意し、アンデッドが巣食う墓場のクエストへ向かうことにした。


****


「カズマ、肉ばっかり食べないで野菜も食べなさい」

「いや、キャベツ狩りの件からますます野菜嫌いになってな。美味しい青汁なら飲めないことはないが」


 人気のない寂しい墓場で賑やかにバーベキューを楽しむ俺たち。


 俺はマグカップにコーヒーの粉末を入れ、水魔法を流し込み、コップの底に直に炎の初期魔法の『ティンダー』で温める。


 こうすることで即席のコーヒーが完成だ。


「ところで『クリエイトアース』という砂の魔法も覚えてみたんだが、これの使い道なんてあるのか?」

「ええ、その土で立派な作物ができるんですよ」


「クスクス、カズマさん、冒険者辞めて農家になってくわでも握るんですかー?」

「そんなお前にはウインドブレス!」

「きゃああー、目に砂が入ったー!?」


 砂と風のダブル魔法により目つぶしを食らったアクアが両目を押さえ、地べたでジタバタとのたうち回る。


「ふっ、これで四大魔法の初期は極めたも同然だな」

紅魔こうまの里でも初期魔法を覚える人はいないのですが、日常生活には便利そうですね」


 めぐみんが俺の手際の良さに感心している。


 お前も一回こっきりの爆裂じゃなく、こういう家事娘的な魔法を覚えろよな。


「何か、寒くなってきたな」


 ダクネスが寒さで身を震わす中、俺たちは新たなクエストに心を身構えていた。

 夜も大分更けてきたな……。



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