第6話 この収穫祭を乗り越えて、どさくさに紛れて新メンバーを‼

『緊急のクエストが発生しました!』


 ダクネスたちを交えて真面目な会話をしているギルド内から突然のアナウンスが入る。


「何だよ、人様が折角せっかく、経験あらたかな話をしている最中に?」

「それを言うなら霊験あらたかでしょ。何、カズマ、変な幽霊にでもとりつかれた?」

「お前という貧乏神ならいるけどな」


 俺はアクアと無言の取っ組み合いをする。

 そんな中……アナウンスの声に深まりが増した。


『冒険者の皆さんは急いでギルドに集合して下さい。繰り返します……』


「このクエスト、相手はいつものキャベツだろうな」

「そんな収穫の時期ですもんね」

「はっ、お前ら、今キャベツって言ったよな?」


 緊急クエストにも関わらず、冷静な素振りを見せるめぐみんとダクネス。


 俺との取っ組み合いを止めたアクアに至っては『またとないボーナスクエストだ!!』と大喜びをしている。


「冒険者の皆さん、今年もキャベツの収穫の時期がやって来ました」


 俺の担当で、将来嫁候補の美人店員(嘘つけ)を中心にギルド内の店員たちが辺りに散らばり、大きな木製のザルの山を冒険者たちに手渡していく。


「今年は出来がよくて一玉一万エリスになります。沢山収穫してジャンジャン稼ぎましょう!」


 冒険者たちが群れとなり、急ぎ足で外へと向かう。


「おっしゃ、この季節がやってきたわ。私たちも行きましょう」

「私も行こう」

「本当? 助かるわ。ダクネス」


 まさか、冒険者なのに異世界農業をするはめになるとはな……。


****


「カズマ、この世界のキャベツは美味しいのよ……」


 アクアは遥か彼方から来る無数の進軍たちに指をさし、心底真面目な顔で語りだす。


 芳醇で濃厚、しゃきしゃきとした歯応えで体にも優しい無農薬のキャベツ。 

 そんな魅了される味で私も好きなんだけど、彼らは強き魔力で大空を飛び立ってね。

 大地を進み、海を進み、誰も知らない場所でその命を終わらせるの。


「……そういうわけで簡単に食べられてしまうものか! と言わんばかりにキャベツが大空を羽ばたいているのよ」

「クソッタレ、とんでもなく阿呆あほうな世界だな‼」


 虫取り網を装備した俺は空飛ぶキャベツに向かって愚痴を吐く。

 だが、キャベツたちは予想外の動きで俺を翻弄ほんろうする。


「このキャベツども、俺様から逃げられると思っているのか? ガキンチョの頃につちかった虫取り小僧の異名を教えてやる!」


 俺は虫取り網を凧のようにぶん回し、次々とキャベツを収穫していく。

 この世は弱肉定食(強食では?)の世の中だ。


 キャベツごときが人間様にかなうと思ってるのかよ!


****


「ウマイな。あの空飛ぶキャベツがこんなにも美味だったとはな」


 皿にこんもりと盛られたキャベツ炒めに食欲をそそり、次々と平らげる俺たち一同。


「ダクネス凄いわ。流石さすがクルセイダーよね。あの頑丈な守りのお陰でキャベツたちを狙いやすかったわ」

「いいや。私の攻撃は全然当たらないから、みんなの盾になることしかできない。真に誉めて欲しいのはめぐみんが強力な魔法でモンスターを退治した部分であろう」

「まあ、私の爆裂魔法は最強ですからね。カズマも盗賊のスキルで色々と助けてくれましたし」


 あの三人の女子、いつの間にか仲良しになってやがる。

 ダクネスも俺たちの仲間の輪に入ってるみたいだし……。


「カズマ、礼を言わせてもらう」


 友好のお近づきか、ダクネスが俺に握手を求めてくる。


「私がキャベツやモンスターにボコボコにやられるがままの状態でも懸命に助けてくれたな。まあ、もう少しだけ痛みの快楽を味わいたかったが」


 美人なんだけど、やっぱり変な美人だ。

 クルセイダーなのに攻撃力がからっきしゼロの部分からして、俺のパーティーには不向きだけどな。


「ウチのパーティーも素敵なメンバーになったわよね。これからもよろしくね、ダクネス!」

「ふざけんな、こんなデコボコメンバーで冒険がやっていけるか!」


 アクアの発言に苛立った俺はテーブルを拳で叩き、ガツンと反論する。


「何よ、みんなでクリアしたクエストなのよ? ダクネスを仲間にしないのならキャベツ収穫の報酬はいらないわよね?」

「何だと、この女は。いいから俺にもよこせ‼」

「おいおい、仲間同士でケンカはよくないぞ」

「ダクネスはそこを退いてろ!」


『スティール!』


 俺は渾身のスキルをアクアの持つ金貨の入った布袋に集中させた。


「あれ?」


 だが、手に握っているのは白い包帯のようなほんのりと温かいおび

 ……というかサラシに近い。  


 ダクネスが胸元を押さえながら顔を真っ赤に染めていた。 

 どうやらダクネスの身に付けていた物らしい。 


「あんた、真性のクズよね」

「今度からクズマ三世と呼びましょう」

「違う、これは誤解だぞ。そんな冷たい目で俺を見るな!」


 アクアとめぐみんのクズのような瞳から目を背ける俺。

 一方でサラシを盗られたダクネスは一人、荒い息遣いで興奮していた。


「あははっ。やっぱりこのパーティーは最高だ。攻撃が全く当たらないクルセイダーだが、これからもよろしく頼む。

モンスターが出たらジャンジャン私を盾がわりにしていいからな♪」


 こうして、俺のパーティーにマゾっ気の強いドMなクルセイダーが加わった。


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