第26話

 ドォォォン!

 再び轟音が空気を震わせる。伊375潜の乗組員たちは周囲の警戒と艦砲、機銃の発射準備で忙しく立ち回り、叶槻とナンシーは一時的に置き去りにされる状況になった。ナンシーの様子が変わったことを見た叶槻が彼女の傍に寄る。

「どうした?大丈夫か?」

 叶槻のやや心配げな声には答えず、ナンシーは島の丘、その向こうをぼんやりと見ながら呟く。

「目覚めてしまった……」

 そして3回目の轟音が聞こえた。その音は大砲の発砲音ではないことに叶槻は気付いた。島にある火山は噴煙を上げてはいるが噴火はしていない。これは、大きく重い何かが地面を叩きつける音だ。

 島から逃げるようにボートに乗った上陸隊が伊375潜に到着した。彼らは我先に甲板に上がるとその場にへたり込み、肩で息をしている。怒りの形相をした愛工が、一番先に甲板に上がった兵の胸ぐらを掴んだ。

「貴様ら何をやっている!金塊はどうした!」

 問われた兵は真っ青な顔をして取り乱した声で答えた。

「それどころじゃありません!島に何かがいます!」

「何か?何かとは何だ?敵なのか?」

「わかりません。遺跡で金塊を集めていたら、大きな石を引きずるような音が聞こえたんで、そっちに行ってみたんです。薄暗い中、広場の向こうにあった一際大きな建物の扉が、ゆっくりと開いて行くのを見ました。そして、その扉の向こう側から何かが出て来たんです!とてつもなく大きな何かが!少なくともあれは米軍なんかじゃない!」

 それだけ言うと兵は悲鳴を上げて踞ってしまった。上陸隊の他の兵も、立つこともできずに頭を抱えてがたがたと震えている。

 彼らの異様な姿に愛工はそれ以上のことはできなかった。

 ドォォォン!

 4回目の轟音だ。その音は次第に大きく、間隔が短くなっている。

「副長、周囲に敵らしいものが見えません。ソナーにも反応がありません。ただ、レーダーには島の方で何かが動いているとのことです」

 兵の1人が愛工に報告する。

「島で?何がいるって言うんだ?あれは無人島じゃないのか?」

 艦内にいた者達がハッチからぞろぞろと出てきた。戦闘配置が出てからしばらく経つが大きな音がするだけで敵からの攻撃はない、甲板で騒ぎが起きている、その上悲鳴まで聞こえるというので何事かと思ったのだろう。引馬機関長が愛工に声をかけた。

「愛工、何が起きているんだ?誰も敵を発見していない。じゃあこの音は何だ?」

「わからん!」

 5回目の轟音が響く。それは島の方、丘の向こうから聞こえてくる。間もなく夜が明ける。辺りが徐々に明るさを増していく中で、伊375潜の全員が嫌な予感を抱えたまま、何も言えずに音のする方を見つめていた。

 ドォォォン!

 6回目。

 ドォォォン!

 7回目。間隔は今や1秒おきになっていた。

 8回目の音で、その場の全員は、これが足音であることに気づいた。とてつもなく大きく、とてつもなく重い存在が出している足音だと。そしてそれがこちらに近付いていることを。

 そして9回目。丘の上に何かが見えた。

 朝日が水平線から昇る。それと同時に10回目の轟音が響き、丘の上に巨大な何かが立ち上がった。

 それは伊375潜の全員がこの数日間嫌と言うほど見てきた、あの金色の彫像を数百倍の大きさにした姿をしていた。

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