世間知らずの魔術師、冒険者ギルドにソロ専門として冒険者契約する

にゃ者丸

ソロ専の冒険者が、また契約しましたよ…

 はい、みなさんどうも。冒険者ギルドで仕事してます、完璧キャリアウーマンで美人な受付嬢です。え?どこら辺が美人だって?そりゃあ文字だけなんだから想像して貰うしかないですよ。

 はい、毛先が赤い桃色金髪の赤目です。全体的に平均的なサイズですが、これでも色々と努力してますからねー。ナチュラルメイクでも周りの視線をかっさらえるよう、顔もスタイルも抜群なよう鍛えてますよ!

 そりゃあもう!ボンッキュボーンな肉体ですよ!ちょっとしたアスリート体系の出来る女!それが私です。


 え?自己愛が強い?あー、これでイラストでも描いて貰えればいいでしょうがねー。何分、この猫イラストは書けないもので(笑)

 メタ発現が多いのはオープニングだからという事で勘弁してください。もーすぐ開園しますから。開店ガラガラピシャーンッてしますから。


 あ、それじゃあ閉まってるか。やっべ。


 あーもう、これだけで380文字ぐらい使っちゃてるじゃないですかもうヤダー。え、誰のせいだって?


 ・・・・・・。


 細かい事は気にしなーい気にしなーい!わははははは!!


 えーゴホン。長々とオープニングやるのも何ですし、そろそろ始めますかね。あそこにいる魔術師さんもソワソワしてるし。


 ではでは、そろそろ幕を開けたいと思います。長々としたタイトルに合わせて、長々としたオープニングから始まります。長々とした短編ストーリーをどうぞよろしくおねげぇいたします。


 私、この後に暫く冒険パートに入ったらお酒飲むんだ………。





◆『え、黒薔薇かよって感じな魔術師さんが入りました』◆


 その日、何故だか妙に私の胸はざわついていた。なにか、また新たなる出会いが始まるような予感がして―――


「イケメン冒険者との玉の輿、狙いてぇ」


 つい、本音が漏れちった。やべ、横で書類整理してる先輩からギョッとした目で見られてる。


「ちょっとリリィちゃん!他の人もいる前でそんなこと言わないの!せめてもう少し声のトーンを落としなさい!(小声)」


 なははー、めっちゃ小声で注意されちった。

 今、小声で私に注意してくる同僚は、キリエ先輩。

 キリリとした切れ長の瞳と、肩幅で切り揃えられたショートカット。たまご顔でツルツルお肌の高身長な女性。はっきり言おう、クール系の美人だ。ゴブ〇レの外伝に出てくるような受付嬢だ。なのに服装はスーツじゃなくて、タイトスカートな制服である。

 裏では男装の麗人とか言われてるけど、こう見えてぬいぐるみ集めが趣味という、女子力たっけぇ先輩だ。ちな、たまにドジっ子。


「あははー、さーせんキリエ先輩。つい、本音が」

「本音が、じゃないの!周りに男の人だっているんだから」


 もう!と腰に手を当ててめっ!と指を突き出してくるキリエ先輩ぐぅかわ。これだけでご飯三杯はいける。最高のオカズだね!卑猥な意味じゃないよ!

 あ、私の自己紹介でもしておきますか。リリィです。受付嬢してます。よろしく。特徴とかは前述のオープニングに詳しく書いてあるよ!めんどくさいからそっち読んでね☆


 ―――っとぉ、色々と思考に没入してたら周囲の視線があたたた………。おい、何見とんねんゴラ。こちとら見せ物ちゃうぞ?

 鉄壁の笑顔で一睨みすれば、ちらちらと私に視線を向けていた人達がいっせいに顔を背ける。ふははは、私の勝ちぃ。


「………リリィちゃん、その顔やめてよぉ。怖いよぉ」

「え?顔は笑ってるじゃないですか」

「目だけ笑ってないのよぉ!ほんっとに怖いんだからぁ!?」

「えー?………じゃあ、これなら良いですか?」


 全力のスマァイル。多分に営業スマイルも入ってるけど、一応スマァイル。ニコッとキリエ先輩に笑いかけると、先輩の顔が固まった。あり?失敗したか?

 と、不安になって首を傾けると、思いっきりキリエ先輩が仰け反った。いや、はぁ!?ちょいちょい、大丈夫ですか!?情緒不安定なんですか!?


「―――やばい、あの笑顔は反則だわ。しかも、滅多に見れない首コテも付いてくるなんて………ふぅ、こっそり写真でも撮ろうかしら?」


 何か小声でブツブツ喋ってらっしゃる。こわっ。キリエ先輩こわっ。え、なんか怒ってるの?これ、謝っておいた方が良いやつ、なのかな……。不安になってきたんご。キャラぶれしそう。


「あの、せんぱーい?キリエせんぱーい?………私、なにかしました?怒らせるような事したなら、謝りますけど……」

「ブツブツブツ――――はっ!?いえ、何でもないのよ。気にしないで!別に怒ってないから」

「あ、それなら良かったです。急に先輩の様子がおかしくなったから、ちょっと不安になっちゃって」

「ああ!ごめんなさい!ちょっと新作のぬいぐるみについて考えてただけだから」


 おおう、どうやら切り抜けたようだぜ、良かった良かった………って、ん?なんかはぐらかされたような気が?

 うーん、気のせいか!


「あのー」

「あ、はーい!どうぞー」


 おっふぅ、さっそく受付嬢としてのお仕事が。瞬時に営業スマイルに切り替えて、私は笑顔で一般人らしきお客様を出迎えた。


「冒険者ギルドへようこそ!どのようなご用件でしょうか!」





 さてま、ここでいっちょ私の職場と住んでる所について説明でもしましょうかね。

 ここは辺境まで城壁を広げている城塞都市【グランツ州】の第二地区。一応、国家の上層部から派遣されてきた領地運営を任された人材が治めている。顔は知らん。会った事ないからね!

 細かい説明を色々と省くと、ここ第二地区はいわば冒険者を支援する為に造られた都市。区画整理された都市だからか、はっきりと職人街や遊郭、宿場が分かれているのが面白いのよね。


 ちなみに、私の職場である冒険者ギルドは、数々の一流冒険者や国のお偉いさんが拠点を置く居住区画の傍にある。苦情は来ないのかって?はっ、舐めんなよ。そういうマナー違反しか起こさねえ輩は、契約後にしっかりと叩き込んであるから。

 まあ、最低限のマナーを守るように教育してるってだけなんだけどね。一応、冒険者はチンピラ集団じゃなくて【ゲート】に派遣する特殊部隊みたいな扱いだから。


 この【ゲート】、これがそもそもの発端であり元凶。大昔の化石みたいになってた【冒険者】って職業を復活させる原因になったものだ。

 異世界に繋がる扉を開き、この世界に繋がった世界の環境に酷似した異界を形成する。それが【ゲート】、通称は無い。あるかと思った?実は無いんです!


 これのせいで、大きいものから小さいものまで、色んな問題が世界各地で発生してしまい、国家運営も危うい状況までもう少しって所で、各国の国主たちが一同に会し、対策会議を開いた。

 その結果として生まれたのが、私の職場【冒険者ギルド】。各方面のスペシャリストを冒険者として組織に専属契約させ、【ゲート】による問題をクエストとして斡旋する組織。

 各国の資金援助で発足した【冒険者ギルド】は、いわば冒険者をサポートやマネジメント等、支援する事業所のようなものだと理解してもらっておけ。

 ちまたで有名な企業に所属してるVチュ〇バーみたいなものよ。ぶっちゃけ、それがいっちゃん表現としては近い。


 ただ、命が懸かってる仕事もあるから殆ど戦闘員というか、最低限、身を守れるくらいの強さは無いとやっていけないという狭き門ではありますな。

 逆に言えば、家を踏み潰しちゃうようなバケモンと戦えるような実力と、チンピラみたいに問題を起こさないような人材だったら、誰でも入れるという感じ。


 大事な説明だから言っておくけど、何気に死亡率は高い職場なので。いやいや、受付嬢は死の危険とか無いでしょワロタとか言ってるそこの人!

 有事の際は受付嬢も戦闘要員として扱われる事もあるのよ……。仕事量は多いし、一般人からのクレームの対応やら冒険者の対応やら、クエストの整理やら冒険者の身元を証明する書類の発行やら………やる事は多いんだよ!

 でも金はうめぇ!給料は良いからな!慣れちゃえば仕事はそんなに苦じゃないし!仕事仲間に恵まれてるし!!


 慣れって怖いわね………あ、今の私、大人な雰囲気出てたでしょ!ねえ!大人なお姉さんな雰囲気あったでしょ!ねえ、そうでしょ!ねえってば!!

 あ、待てこらぁああああああ!!逃げんじゃねえええ!!


(本編に戻る)





 あい~、未報告の【ゲート】情報をまとめて~、クエスト達成した冒険者の名前をリストに登録してファイリングしておいて~。

 ほいほいほほいのほいっと~。よし、お仕事お~わりっと!


「相変わらずリリィちゃんの仕事って早いわね………これだけのスピードで、完璧な仕上がりだし」

「ふふんっ、これが出来る女ってやつですね!」


 褒められて嬉しくてどや顔決めちゃう。


「(うん、安定の可愛さね)ところで、リリィちゃん」

「はい?なんですかキリエ先輩」

「今度の月曜日、冒険者の新人が入るの。リリィちゃん、暫くその冒険者の子の専属になってくれないかな……?」

「新人?この時期にですか?」


 はー珍しい。もう引退した冒険者と新人ラッシュの入れ替わり過渡期は過ぎたってーのに。訳アリかな?訳アリなのかな?どーしよっかなー???


「お願い!専属で対応しても大丈夫そうなの、リリィちゃんしかいないの!」

「えー……でもぉ、私もぉ忙しいって言うかぁ」


 玉の輿を狙う為、ついでに趣味の美味しいパンケーキ巡りの為の時間を割かれるのは惜しいので。ならば!私は仕事より趣味を取る!


「今度『季節限定いちご尽くしの桜パンケーキ』奢ってあげるから!」

「受けましょう」


 即答でした。パンケーキには勝てなかったよ………だって、キリエ先輩が言ってた奢ってくれるパンケーキ。何気に美味しいって有名だけど、高いやつなんだもん。

 そりゃあ、引き受けるしかねえって。好物には勝てねえ。


 どんな冒険者が来ようとも!私はくじけずに頑張る!美味しいパンケーキの為に!ついでに玉の輿を狙う為に!!

 やるぞぉ!しゃおらぁぁぁぁぁぁ!!!!





 ………で、来た冒険者がこちらでございまーす。


 はい、見事な全身を覆い隠す格好ですねぇ。肌に張り付くようなローブに、軽装のプレートメイルを纏ってらっしゃる。見事に急所しか守らねえ軽装も軽装。

 動きやすさなら他の追随を許さねえぜ!ましましな装備でした。

 右手に持った骨みたいな棍棒は、まさかの杖。先端に魔術を発動する為の触媒と言われる特殊な宝石を装飾してるし、まちがいねぇ。


 この人、後衛や。しかも、結構キワモノの。顔、見えねえもん。頭すっぽり覆い隠す仮面つけてるもん。どこのライダーだよ。明らかに敵側に居たけど後々仲間になるタイプのライダーにしか見えねえよ。


 うん、顔には出さんとこ。営業スマイルを張り付けるんや。やればできる娘!それが私なんだから!!


「えーっと、まずは自己紹介から始めましょうか。この度、専属受付嬢となりました。リリィと申します。短期間ではありますが、どうぞよろしくお願いしますね!」


 どうだ!まずはジャブだ!これに対する返答やいかに!!


「………ゲオルグ・ファーデン、です。こんな成りをしていますが、魔術師をしています」


 普通だぁぁぁぁ!そして、ちょっと中性的!書類には男性って書いてあるけど、声だけなら女性でも通るぞこれえぇ!?ぱっと見、線細いから!身体だけでも女装させてみてぇなぁ。

 見えてる肌、超キレイだし。何したらあんなん何の?なんかお手入れしてるなら、どんな化粧水使ってるのか教えて欲しいわ。

 なんて考えはおくびにも出さず、私はスーパー受付嬢モードで対応していく。

 

「魔術師ですか、失礼を承知でお聞きしますが、パーティーかツーマンセルで組んでいる仲間はいらっしゃらないんですか?」

「………はい、ずっと世俗から離れた場所で、魔術の探求をしてきたもので。仲間と呼べる人はいないんですよ。まだ、人里に降りてきてから日も浅くて」

「そうなんですね、無粋なことをお聞きして申し訳ございません」

「………いえ、気にしてませんよ」


 ………。めちゃくちゃ丁寧な対応だし、いや、不愛想とも取れるけど声色から私を気遣ってるのが伝わってくるの分かるからすげー嬉しい。

 というか、この人たぶん良い人だ。まだ分からんけども、世俗から離れて暮らしてたって言ってた割りには、コミュ症な感じは全くないし。いやぁ、見極めの段階だしなぁ。猫被ってる可能性あるしなぁ。

 これで猫被ってるなら才能ねえけど。いや、猫被る才能とは。

 まあいいや、取り敢えず仕事すっか。


「ゲオルグさんは、魔術師という事ですが、どのような事を得意とされているのですか?具体的には、何が出来るのか教えていただけると幸いです」

「………主に遠距離からの奇襲、それと周辺に潜む生物の探査、護衛を守る為の結界、あと治癒魔術が使えます」

「治癒魔術が使えるんですか?それは、どれぐらいの範囲まで治癒できるんですか?」

「………だいたい、腕が取れてもくっつけられます。致死量の毒も、全身に回り切る前なら解毒できますし、常時回復系の魔術も習得してます」

「それは………相当優秀じゃないですか!?それだけで治癒系の専門魔術師の免許取れますよ!」

「………そんなのあるんですか」

「はい!あるんです………っと、コホン。すみません、取り乱しました。それでは、今回ゲオルグさんに受けていただくクエストは、こちらになります。ご確認ください」

「………はい」


 やべえ、マジで優秀じゃねえかこの人。戦時中なら普通に前線に在中するレベルの治癒魔術の使い手。しかも、提出された書類を見る限り、万能型の魔術師って感じだ。まさに、1人で完結された存在って感じ。

 試験の時に戦闘能力は申し分なしの太鼓判を押されてるし、索敵も問題なし。仕事の成果を見てないから分からない部分は多いけど……うわぁ、何かすぐにソロとして普通にやっていけそう。

 こういう時の私の勘ってよく当たるのよね。さて、と。クエストに関するなんやかんやの手続きの書類をしゅばばばばーん!


「それでは、ゲオルグさんは新人冒険者のため、一週間は私共の方で選定したクエストを受けていただきます。初めは研修期間という事なので、それほど気負わなくても大丈夫ですよ!」


 さあ、見よ!この必殺悩殺スマイルを!!自分の可愛い部分を前面に押し出して利用したテクニックとも言える、美形ぱぅわー!!

 この笑顔にやられなかった冒険者はいな……い………。


「………はい、わかりました。じゃあ、最初はこのラディックホーンの討伐からなんですね」


 なん……だと………こやつ、全く動揺していない!?馬鹿な!この笑顔にタジタジにならなかった者など、男女含めても実家の家族ぐらいしかいなかったのに!!

 自信なくすでぇ、鋼のメンタルにヒビが入っちまったよ。

 今の気分はorzって感じだよ。


「………あの」

「はっ!申し訳ございません。はい、そうですね。こちらの平原に出没するはぐれのラディックホーンを討伐していただくクエストから受けていただきます」

「………じゃあ、今から行ってきますね」

「え、あ、ちょ!!」


 おいおい待てーい!まだ話は終わってねぇぞ!てやんでぇべらぼうめぇ!立ち上がろうとしたゲオルグさんの肩をがしっと掴む。

 振り向くゲオルグさん。あ、ちょっといい匂い………じゃなくて。


「最初のクエストには、専属の受付嬢も同行するんです。なので、もう少し待ってください。私も準備をしてきますので」

「………はあ、そうなんですね」

「そうなんですよ。なので待っててください。勝手に行くのは無しですよ?そんな事したらクエスト失敗扱いにして大幅にポイントを減点してやりますからね」

「………わかりました」

「では、ちゃちゃっと終わらせて来ますね!二分もかからないんで!」


 受付からすぐ横に併設されてる専用更衣室にびゅん!あらかじめ用意しておいた装備を装着!見た目は完全に戦乙女!残念だったな野郎共!ビキニアーマーは着ない主義だ!

 日帰り用のバックパックを背負い、腰には短剣を差す!そんでもって、


「よっこいしょい」


 剣というより鉈が格納された大盾を持って、裏口から受付を出る。


「お待たせしましたー。さあ!行きましょう!」


 ん?なんかぎょっとしたような目で見られたような気がしたが………気のせいだよね!うん、キットキノセイ。

 今時、女の子がタワーシールド並みにでかい大盾を装備するなんて普通普通♪という訳で、めんどうなやり取りはさくっとカットカット!文字数をあまり稼がない為とも言う。

 いや、この先にあまり面白い展開とか無いからね。ずっと無言タイム。たまに説明するぐらい?まあ、このままジャンプして次の場面までジャンプしちゃいましょう。

 というわけで、ジャーンプ!





 はい、付きました。城門を抜けて平原エリアでござい。少し歩けばうじゃうじゃと野生動物がいますが、威圧でさっさと追い払います。無駄な戦闘、めんどい。

 ただまあ、ここまでの道中。ゲオルグさんの事を見ていましたが、中々どうして優秀ですね。索敵範囲が広いのか、すぐに得物に手をかけていましたし、自分の役割をきちんと理解しているのか、私より後ろの方に移動してくれましたし。

 ていうか、ちょっと慣らしてみるのも良いかも。この人の実力、ちょっと見てみたいし………と、おやおや?そんな事を考えていたら都合の良い事に今回のターゲットが一匹。


 地面に口をつけて、草を食み食みしてるのは今回のターゲットこと【ラディックホーン】。誰が名付けたのかは知らん。けどまあ、名前の由来は知ってます。

 硬い外皮で身を守り、いざという時は障害物を破壊しながら逃走する重機モンスター。

 見た目はサイっぽいのに、角はネジくれて山羊っぽく、足は完全に牛。はちゃめちゃに見えるけど、これでもれっきとした生物として成り立ってるんだから不思議だよねぇ。


 よし、戦闘準備じゃ!まずはお手並み拝見ですね。


「ここから先は、ゲオルグさん一人でお願いします。万が一の場合、私が助けますが、その時はクエスト失敗扱いになってしまいますので、頑張ってくださいね」

「………了解した」


 あー、もう声だけ聞いてるとほんっとに男なのかどうか疑いたくなっちゃうわ。中性的な声っていうのも考えものだね~。

 まあ、ゲオルグさんは明らかに後衛タイプだし、どう戦うのか興味がつきないね。

 ゲオルグさんは突っ立ったまま、ただじっと杖を構えてラディックホーンを見据えている。ここから狙い撃つのかな?

 一方、肝心のラディックホーンはのほほんと狙われている事にも気づかないで、草を食んでいる。おい、少しは警戒しろや。


「………〝土よ、捲れ上がれアス・ロンド・ミデス〟」


 ゲオルグさんが呪文を唱える。うん、聞いた事ねぇ。オリジナルの魔術かな?

 杖の先にある宝石が淡く輝く。その瞬間、小さな文字が螺旋を描きながらラディックホーンの立っている地面に吸い込まれるように伸びていった。


「ぶもっ?」


 地面が揺れる。ラディックホーンは揺れに気づいたようで、不思議そうに地面を見ている。その次の瞬間、一気に地面がめくれ上がった。

 わぁお、まるでバナナの皮みたぁい。


「ぶもおぉぉ!?」


 ラディックホーンは慌ててその場から逃げ出そうと、めくれ上がった地面に抗うように走り続ける。ああ、違うな。これ、抗ってるだけだわ。

 今、ラディックホーンは滑り台のように地面を落ちないよう、必死に走っている。その行き先は、こちら側―――というか、ゲオルグさんの方向だ。

 面白い事するなー。獲物の方から自分に近づいて貰うなんて。

 そうこうしている間にも、ラディックホーンが走る地面はめくれあがっている。見た目は完全に波そのもの。しかも、放射状じゃなくて包み込みような感じでめくれ上がってるから、実質ラディックホーンに逃げ場はない。

 けど、意外と粘りますね~。こっちはこっちで面白いから良いけど。


「………ちっ。〝彼の者の足を奪えイド・レグ・リード〟」


 またしても呪文が紡がれる。今度のは、地面じゃなくてラディックホーンの足に向けて伸びていく。それは、まるで鎖のように巻き付き、枷の如くラディックホーンの四つの脚に張り付いた。


「ぶ、ぶもっ!?」


 すると、今度はラディックホーンの足が滑った。急にラディックホーンがまともに走れなくなったのだ。え、マジ?

 地面のとっかかりを失ったように、ラディックホーンは訳が分からないと困惑した鳴き声を上げて、ゲオルグさんの方へと滑っていく。

 ………ラディックホーンの足を奪った、というより、意図的に転ばせたのかな?この距離で?どんだけ射程あんのよ。


 まるで重力を失ったように、ラディックホーンはゲオルグさんへと勢いよく滑り落ちていく。うわぁ、あれ楽しそう……頼んだらやってくれるかな?

 っと、ラディックホーンが迫る瞬間、ゲオルグさんは杖を腰だめに構える。まるで、居合を放つような恰好だ。


「………〝断てゼト〟」


 宝石とは逆の先端部分に、呪文が巻き付き、宝石と同様に淡く輝く。そのままゲオルグさんが杖を振り抜くと―――ごとり、とラディックホーンの首が落ちた。

 私はそれを、ただポカーンと眺めていた。


「………終わりました」


 ゲオルグさんは自然体に戻って、私に声をかける。それに対し、私はただこう呟く事しか出来なかった。


「どこが後衛やねん」





 それから一週間、ゲオルグさんは順調にクエストをクリアしていった。イレギュラーな状況にも即座に対応し、最後のクエストで、初の【ゲート】の内部での討伐クエストでも、何ら危なげなくクリアしてしまった。

 私の助力は何もいらず、マジで優秀な所を見せつけられただけの一週間て感じだ。おいおい、普通、専属での研修期間ってわりと順調に終わる事なんて滅多にないんやで?どんだけ優秀な人材やねんて。よく国家に抱え込まれずに生きてきたな。

 それとも、よほど世俗と離れ切った所で生活してたのかな?それにしては、人と話すのに慣れているって感じだったけど。


 うーむ、わかんにゃい。わかんにゃいけど、ゲオルグさんのお蔭で私は楽してお金を稼げたって事は事実だ。これは、結構な優良物件を手に入れたのでは?

 これで私好みの顔だったら、マジで最高。そんでもって、仕事に熱中せずに家庭も大事にするっていうなら、もう完璧よ。

 子育てと家事は私がやるので。こんな私、どうですかいゲオルグさん!まあ、ふとちらっと見えた鼻から下の顔はすんごい整ってたし。意外とあの仮面の下はイケメンだったりして。


 なははー!そうだと良いな~!そしたら玉の輿だね!絶対にめちゃくちゃ稼ぐだろうし。優秀な稼ぎ頭と知り合いになっちまったぜ……うへへへ。

 ただ、ちょいと世間知らずな所はあるのよね~。お金は持っていても、宿泊の仕方とか諸々の住民登録の手続きとか。

 ご飯を食べるのに狩りに行っちゃうようなワイルドな一面もあったし。さすがに吹いたよね。


 まあ、これで私のお仕事は終了。普通の受付嬢としての日常に戻るんや。びしっと制服を着こなして、とびっきりの営業スマイルでお出迎えしまっせ!


「いらっしゃいませ、冒険者ギルドへようこそ!」


 ああ~それでも玉の輿、狙いてぇな~。良い男いないかしらん?

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世間知らずの魔術師、冒険者ギルドにソロ専門として冒険者契約する にゃ者丸 @Nyashamaru2

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