第8話 ダンジョンポイント増えました

 トリスタンさんとオカマダークエルフがダンジョンポイント(DP)を増やすため、俺のダンジョンで魔法を使ってくれることになった。

 場所はここ。

 俺たちが今いる部屋。

 でも大丈夫なんだろうか?

 この部屋、六畳間なんすけど……


「あらん、心配性ねん。大丈夫よん、アスカちゃん」


 またしてもキモいオッサンが俺の思考を読みやがった。

 で、何が大丈夫なんだ?


「ダンジョンの壁はねえ、偉大な暗黒神の加護のおかげで大抵の魔法を吸収するのよん。だからあ、ダンジョンが壊れないのか? なんてえ、愚かなアスカちゃんの愚かな心配なんて愚かしいにもほどがあるのよん」


 はい、愚か三連発いただきました。

 知るか、そんなこと!

 ダンジョンマスターになって、数時間しか経ってねえんだ。

 普通の会社ならまだ入社式が終わってねえぞ。

 新入社員が社長の話を聞かされてる時間帯じゃね?

 そんな人間にいきなり社長が『君、私のペットの名前を言ってみたまえ』なんて言い出したらどう思う?

 知るか! ってなるだろ。それと同じだ。


「あらん、あたしなら即答よん」

「あんたはストーカーかよ? もういい。それで、本当にここの壁は壊れたりしないんだな?」


 すると、毒舌秘書の代わりに騎士隊長のトリスタンさんが答えてくれた。


「私もダンジョンに何度も潜ったことはあるが、ダンジョンの壁は魔法を打ってもびくともしなかった」


 あ、本当だったんだ。

 良かった。これで安心できる。


「もう、アスカちゃんったら、あたしの言葉が信じられないのう? ひどいわあ、こんなにも尽くしているのにい!」


 なんかオカマダークエルフがジト目でこっち見てますけど……

 当たり前でしょうが。

 大事なこと言わなかったり、毒を吐きまくったり、エッチなイタズラしたり。


 もちろん、助けてもらってる事も多いけどさ。エッチなイタズラさえ止めてくれればギり許せる。

 いや、でも、完全には信頼できないな。

 しかし、まあ、これ以上くだらんことで時間を潰したくない。

 とりあえず無視だ、無視。


「で、では、トリスタンさん。魔法をお願いできるでしょうか?」

「あらん、お姉さんを無視するなんて、アスカちゃんは相変わらずのイケずねん」

「ククク、仲が良いのは羨ましいな。分かった。では、私の得意魔法をお見せしよう」


 俺達の口論を苦笑して見学するトリスタンさん。いや、仲良くはないですよ?

 どちらかと言うと、職場にいるお局様を相手にしているような……

 地雷を踏まないように気を付けてる新入社員って感じ。


「では、アスカ殿に秘書殿。念のため私の後ろに下がっていてくれ」

「は、はい」


 親切なトリスタンさんの言葉に従って俺は彼の後ろに立つ。

 オカマダークエルフも黙って俺の横に。


「では、参る!」


 トリスタンさんが部屋の中央に進むと、俺たちがいる場所とは正反対の壁に向かって右手をかざす。

 おお、いよいよ魔法が見られるのか。

 初めてのリアルマジック。

 最近のゲームみたいに格好いいのかな?

 ワクワクするよ。


 異世界に来てからの急展開についていけない気もしてたけど、これは楽しみだわマジで。

 期待を込めて俺が見つめてると、トリスタンさんが魔法の呪文を唱え始めた。


「我が内なるマナよ、百の炎となりて敵を燃やしつくせ。ケントゥリア・イグニス!」


 詠唱の完了と同時にトリスタンさんの周囲に真っ赤な炎の玉(野球のボールくらい)がいくつも現れ、凄い勢いで壁に向かって飛んでいく。

 なんだこれ、超キレイじゃん!


 ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン……


 連続して重低音が響く室内は凄く暑くなった。

 多分、トリスタンさんが放った炎魔法の熱が室温を上げてるんだろう。

 ダンジョンの壁は確かに魔法を吸収するようで、炎の玉が壁に当たるたびに掻き消えていく。


 ただ、壁に当たるまでは燃えてるわけで、その熱が空気を暖めているようだ。

 しかし、本当に綺麗だな。

 打ち上げ花火を至近距離で見ているみたい。


 ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドゴーン!


 おお、終わったようだ。

 時間にして十秒ちょっとくらいか?

 後ろから見ている分には綺麗だけど……


 あれが当たったら死ぬよね。

 ほんと、ペトラさんに言われるがまま防衛戦をしなくて良かったよ。

 すると、俺の思考を読みやがったであろうオカマダークエルフがこっちを睨み付けてるのに気付いた。


 べ、べ、別に怖くねえし。

 事実だし。

 俺、間違ってねえし。

 ぜってえ、あやまんねえし。


「アスカちゃんを守るために頑張ったのにい! 酷いわ、アスカちゃん! こうなったら、お仕置きよん。お姉さんの愛の魔法を食らうがいいわあ!」

「何でそうなるんだよ?」

「問答無用よん!」


 何故かオカマダークエルフが俺のもとを離れてトリスタンさんがいる部屋の中央までいくと呪文を詠唱し始めた。

 おい、まさか本気じゃねえよな……


「我が内なるマナよ、全てを焼き尽くす煉獄の炎になってえ。イグニス・アウルム・プロバト・ミセリア・フォルテース・ウィロース」


 煉獄の炎?

 なにそれ、怖いよ。

 ちょ、おま、この至近距離で変な色のでけえ炎がこっちに飛んで……


「あんぎゃーーーーーーーー!」


 ペトラさんの魔法が俺にクリティカルヒット。

 死んだ。

 短い異世界人生だったな。

 俺の着ているパジャマが燃え尽きて、俺自身も焼かれて……

 え、熱くない?

 あれ、パジャマ燃えたのにどうしてだろ。


 オカマがドヤ顔で俺を見てるしトリスタンさんも彼女の横で苦笑いだ。

 俺の怪訝な表情に気付いた騎士隊長が答えてくれた。


「アスカ殿、今のは勇者選別の魔法だ。体に害はないだろ?」


 勇者選別?

 もしかして体が熱くない俺は勇者なのか?


「あらん、違うわよんアスカちゃん。これはただのビックリ魔法よん。勇者はねえ、みんな世界神の加護持ちなのう。加護無しのアスカちゃんは絶対に勇者じゃないのよう。ぷうっ、くすくすくす」


 やかましいわ!

 この性悪ダークエルフはいつかギャフンと言わせてやる。


「あらん、アスカちゃんったらオジサマ~? ギャフンとか古いわあ。もう死語よ死語」


 文句あっか? 俺はじいちゃんっ子だよ。けっこう昔のことも教えられたんだよ。エッチスケッチワンタッチとかな。


「まあ、これが噂の三文安? スゴいわあ、アスカちゃん! 甘やかされて育ったのねえ。ウフッ」


 何でそんな言葉まで知ってんだよ。

 ていうか、思考を読むな!

 もういい。それよりも魔法のことだ。


「で、ありゃ何なの?」

「ああ、あれはな……」


 ここでトリスタンさんが詳しく説明してくれた。

 何でもこの魔法はとある神様の教会で開発されたもので、本来は浮かぶ大きな特殊な火の玉に自ら踏み込み勇気を示す儀式的なものらしい。

 もちろん、人間に害はないとか。


「さっき秘書殿は違う詠唱してたが、本来は『炎は黄金を証明し、苦難は勇者を証明する』と言った後で発動させる魔法だ。かなり魔力を使うから初級レベルの魔法使いには無理な高位儀式魔法だね」


 おお、そうなんだ。

 おい、そこのオカマ。ドヤ顔すんな。

 別にお前を誉めたりしねえから。


「そんなことよりい、アスカちゃん。そろそろダンジョンポイント(DP)がたまったんじゃなあい?」


 少ししょぼんとした顔でペトラさんが言った。

 俺の思考を読んでるから悪口が直に伝わるわけね。それで凹んでしまったと。うん、オッサンちょっと可愛いな。

 おっと、余計な事を考えるとまた読まれてしまう。

 今はDPだ。どうなったかな。

 俺はメニューをオープンして確認した。


 DP109!


 やった……やったぞ。

 これで、献上品が交換できる。

 俺の野望にまた一歩近づいたぞ。


「異世界転生した主人公の野望が老人介護とか……ぷっ」


 笑ったな?

 ぜってえ、許さん。

 お前、全国の介護従事者に謝れ!

 あの人たちは本当に頑張ってくれてるんだ。皆の幸せのために身を削る。大変な仕事をしてくれてるんだ。

 介護を馬鹿にするなんて許さん。

 そして、異世界に来て福祉の仕事を目指す俺にも謝罪しろ!


「あらん、ごめんなさあい。あたしのマスターであるイシダカイゴ様。あなたを心から愛し尊敬してますわあ。出会って数時間ですが、あなたの事は絶対に忘れません」


 もう、忘れてるぞ。

 俺の名前は石井飛鳥(イシイアスカ)だ、バカヤロー。

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