第6話 ヘッドハンティング、失敗

 オカマのダークエルフでありダンジョンマスターである俺の補佐官兼任秘書でもあるペトラさんや騎士隊長のトリスタンさんと一緒に、ダンジョンマスター用のメニュー画面を見て気付いたことがある。

 それは、メニューを開く者によって内容が変わるということだ。


「あたしは何度もう、他のダンジョンマスターちゃんたちのメニュー画面を見せてもらったけどう、アスカちゃんのメニュー画面みたいな品物は無かったわあ。これって凄いことよう? ただのエロいダンジョンマスターじゃないのねえ、アスカちゃん」


 俺の毒舌秘書、ダークエルフのペトラさんがこう申しております。

 しかし、すっかり俺はこのオカマのオッサンにエロい人間として登録されたようだ。ぶっちゃけ、お前が言うな! と言いたいのだが……


 俺のそばで看護婦型ゴーレムのイゾルデがエッチな肢体をさらすもんだから、ついつい見とれてしまってムラムラしちゃうんだよね。だから、言い返せない。ああ、情けないよホント。


「つまり、これらの品々はこの世界の物ではないと?」


 おっと、騎士隊長のトリスタンからの質問だ。


「あ、はい。俺のもといた国の商品みたいです。日本って言うんですけど知ってますかね?」

「うむ、過去に多くの勇者や賢者がニホンという国の話をしておられたと聞いた事がある」


 トリスタンさんの説明によると、俺以外にも日本からの転生者は何人かいたらしい。

 彼らは世界神の加護を受けて、超人間的な活躍をしてたみたいだ。

 勇者や賢者と呼ばれた者の大半は転生者ではないかと言われている。

 ただ、記憶は曖昧で忘れている事も多い。


「あれ、じゃあ、俺も神様からの加護とかあんの?」

「あらあら、アスカちゃんったら自分のステータスは確認したでしょう? もう、忘れちゃったあ? 若年性ボケ老人ってやつかしらん? でも、安心してえ。神の加護なんて無いけど、アスカちゃんの介護はあたしがしてあげるう! オムツ交換も任せてえ。グフフフ、アスカちゃんのオチンチンが堂々と見れちゃうなんて良いわあ。それにしても、アスカちゃんのステータスは寂しいもんねえ。スキル一つ無いんだからあ。良く言えばボッチ。悪く言えば孤独のダンマスなのねえ。やだ、ちょっと渋くて素敵」


 おい、言い方何とかしろ。あと、良くも悪くも同じ意味になってるぞ?

 あと、あんたに介護されるくらいならイゾルデにお願いするわ!

 俺が心の中で反論してると、イゾルデがしな垂れ掛かってきた。

 ちょっ、オッパイが腕に、息が耳に、あと手が俺のアソコに!


「マイ・マスター。エッチ……する?」

「いやいや、なんか怖いから嫌だ。とりあえず、イゾルデは離れててくれ。ところで、ペトラさんは加護とかあるの?」


 誘惑に流されそうになったので、俺はイゾルデの体を引き剥がし話題を神の加護に戻してみる。


「もちろんよん。あたしは暗黒神様に創られた特別な亜人なのよん。それに、普通のダンマスなら当然加護もあるわあ。どうして、アスカちゃんには無いのかしらん?……あっ! 童貞だから? こんなこと、まさに初体験なのよん!」


 上手いこと言ったって顔しないでペトラさん。そして、普通はあるんだ加護。

 ちょっとショック。

 俺が落ち込んでいるとトリスタンさんが肩を軽く叩いて励ましてくれた。


「加護持ちは騎士にも多くはいないぞ。ガッカリするな」


 なんて優しいんだ。こんな人が上司なら部下は幸せだろう。

 そんなことより、今はエビデンスのための酒選びだ。

 ここが異世界の福祉施設になれることを証明せねば。


「じゃあ、トリスタンさん。王様への献上用にどのお酒が良いですかね?」

「そうだな、このビールとはどんな酒だろうか?」

「ビールはですね、大麦を発酵させて作った酒で、のど越し爽やかで……」


 俺とトリスタンさんは日本の酒について楽しく語り合い、王様献上用の方向性が決まった。


「じゃあ、ビールとウイスキー、それに梅酒をダンジョンポイント(DP)と交換しますね」

「ああ、頼む」


 王様は甘口辛口何でも来いの酒好きみたいだから王道のウイスキー、炭酸は珍しいとの事なのでビール、そして甘口も欲しいとの事で日本が誇る梅酒にした。


「では、交換しましょう。まずはウイスキーのボタンをポチっと……あれ、もう一回ポチ。ええっ、出ないな」


 どうなってんのよ、これ?


「孤独でエッチなダンマスのアスカちゃーん。もう、お忘れ? アイテムは手持ちのDPと交換なのよう。もし、手持ちのDPが足りなければ交換できないのん」

「そ、そうだった。今のDPは9だ。ウイスキーのDPは20。ああ、終わった……」


 そういや、もともと持っていたDPは105。ゴーレムに90使って名付けに10使ったんだった。


「出せないのか、ダンジョンマスター殿?」


 トリスタンさんが心配そうに聞いてきた。

 しかし、ダンジョンマスターって呼ばれるのは何か嫌だな。


「トリスタンさん、ダンジョンマスターは止めてもらって良いですかね? できればアスカと本名の方でお願いします」

「分かった。それでアスカ殿、酒は出せぬのか?」


 そうなんだよね。残りDPは9しかないんだよなあ。

 あれ、何か変だぞ。

 俺はあることに気付いた。


「もともと105のDPでゴーレムに90。イゾルデの名付けに10取られたんだから残りは5のはず。何で今9あるのか?」


 もしかして自動回復するとかかな。

 それなら超ラッキー。


「いいえ、違うわよんアスカちゃん」


 ペトラさんのあきれたような声。

 ていうか、さっきから俺の思考読んでる?

 絶対に読んでるよね!?


「いいえ、アスカちゃん。私は心とか読んでないわあ。それよりもう、DPが増えている理由なんだけどう、犯人はそのイケメン騎士ちゃんよう」


 やっぱり読んでんじゃねえか!

 そして、言い方!

 犯人とか失礼だろうが。


「普通、ダンジョンは人間が死んだ時とう、魔法を使った時とう、強い感情の起伏があった時にい、魔力を吸収するのよん。その代価としてえ、ダンジョンマスターにDPが支給されるのう。でもう、レベルの高い人間の場合はダンジョンにいるだけで魔力が吸収されることがあるのう。その結果、DPも増えるわけえ。つまり、このイケメン騎士ちゃんはアスカちゃんと違ってかなりのレベルじゃないかしら?」


 な、なんですとー!

 今、明かされる衝撃の事実。

 俺はトリスタンさんを見る。

 トリスタンさんは照れくさそうに頭をかくとこう言った。


「レベルは55だね。それにしてもダンジョンとはそういう仕組みになってたんだな。驚いた」

「つまり、トリスタンさんがいればそれだけでDPは溜まり続けるのか……」


 これは我が異世界福祉施設に欠かせない逸材じゃね?

 引き抜きを仕掛けるのはいつが良い?

 今でしょ!


「あ、あのう、トリスタンさんは転職する予定は……」


「うん、ないぞ」


 知ってました。


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