第4話 エビデンス? ねえよ、そんなもん!

 騎士さんの剣が振り上げられ、一瞬覚悟を決めそうになったが……

 まだ何も話し合って無いことに気付いた俺は、一縷の望みをかけて叫んだ。


「あなたはダンジョンとは何か、どんな目的があって創られたのか知りたくありませんか?」

「……何┅┅だと?」


 騎士さんの手が止まる。

 チャンスだ。


「俺も転生したばかりで全部の事を知っているわけではありません。でも、ダンジョンが存在する理由は教えてもらいました。このオッサン……もとい、秘書のダークエルフから」


 届け、俺の思い。

 あと、オカマに一矢報いたい。


「ダンジョンとは人間を誘き寄せ、苦しみもがいて転げ回らせた後、殺すのが目的ではないのか?」


 騎士さんの説明に俺はギクリとした。

 だいたい合ってるんじゃね?

 で、でも、ペトラさんは何か他にも小難しい事を言ってたよな。

 それにかける!

 俺はオッサンダークエルフを見て軽く頷く。無言の催促である。


「詳しくは俺の秘書のダークエルフから説明させましょう」


 俺が騎士さんにそう言うと、黒と銀色のエロい鎧を着たオカマダークエルフがヤレヤレといった表情で首を横に振る。そして、俺を見てこう言った。


「もう、アスカちゃんったら仕方ないわねえ。一応、これってトップシークレットなのよん。でも、愛する殿方のためにお姉さんが一肌ぬぐわん」


 そして、ペトラさんが騎士さんに顔を向ける。ちょっとビクッて反応した騎士さん。ちょっと親近感を抱いたよ。


「あらん、けっこうイケメンじゃなあい。どこかであったかしら? あら、ごめんなさあい。今はダンジョンの説明が先ねえ。オホンッ、ただいまダンジョンマスターのアスカちゃんから紹介されたペトラよん。ダンジョンマスターに代わりダンジョンの役割について説明するわん。お礼にあなたの童貞もいただくわよん」


 言い方! ホントに何言ってんだこのオカマダークエルフは?

 いちいちエロを絡めるんじゃない。


「す、すいません騎士さん。この人、ちょっと頭に変な虫がわいてるみたいで」


 一応、フォローしておいた。


「あ、ああ」


 良かった。騎士さん、結構いい人そうだ。


「では、イケメンちゃん。よくお聞きなさあい。ダンジョンはもともとはねえ、世界神様が地上の魔力枯渇現象を憂いてえ、暗黒神様に解決を依頼したのが始まりなのよん。暗黒神様は生物が持つ魔力に注目されてえ、これらから魔力を回収してえ、強制的に世界へ循環させるためのシステムを考案したのう。それがダンジョンよう。方法としては生物を殺すことねえ。または魔法を使わせることもあるわん。強い感情にも魔力が発散されるからあ、生き物を恐れ戦かせることも一つの方法ねえ」

「世界神様の依頼だと? いや……まさか┅┅信じられん」


 ええっ、そうだったのか。

 ビックリだよ。

 ところで世界神様って誰?

 いや、今はいいか。気にしない気にしない。


「まあ、イケメンちゃんが勘違いするのも無理はないわあ。世界神様は人間を依怙贔屓してるんだもん。もう、プンプンよプンプーン。だけどう、暗黒神様は全ての生き物を平等に扱う素晴らしいお方なのう。ダンジョンで死んでえ、魔力を回収されるのは人間だけじゃないわあ。生きとし生けるもの全てよん。だからこそ世界神様も暗黒神様に依頼したのねえ」


 なるほど、自分じゃ甘くなっちゃうから他の神様に頼んだのか。

 何か母親が俺を叱るとき「お父さんに言い付けるわよ!」って言ってたの思い出した。


「だが、スタンピードはどう説明する。ダンジョンから溢れだしたモンスターはダンジョンから離れ、人間の村や町を襲い皆殺しにするではないか。魔力を回収する事がダンジョンの役目なら、これはどう説明するのか?」


 おお、モンスターのスタンピードとかリアルにあるんだ。


「さあねえ、あたしはただのダンジョンマスターの補佐官なのよう。暗黒神様の崇高なるお考えを完全に理解することなんてできないわあ」


 あ、逃げやがった。

 まあ、いいや。あとは俺が引き継ごう。


「それはおそらくダンジョンマスターの管理能力が無かったんじゃないですかね?」

「まあ、アスカちゃんったら言うよねえ。後でお仕置きフェラしてあげるう!」


 おっと、何故かオカマのダークエルフが怒っております。

 ていうか、お仕置きフェラとか死んでも嫌だからな!


 まあ、いい。オカマの気持ちも分かる。ペトラさんは暗黒神に創られた亜人。そして、他のダンジョンマスターは暗黒神の腹心って事だから思い入れがあるんだろうね。

 でも、俺にはない!


「おそらく、ダンジョンマスターの中には魔力の回収を焦ったり私欲や力に溺れた奴らがいたんじゃないですかね? それでモンスターを召喚しすぎて制御できなくなったと」

「あらん、アスカちゃんったら酷いわん。それじゃあ、他のダンジョンマスターが馬鹿みたいではなあい!」


 お、おい、ペトラさん。あんまり詰め寄るな。あんたの股間が俺に触れそうでキモい。騎士さんとの話に集中できねえよ。今、大事な所だから離れてろ。永遠に!


「ほ、他のダンジョンマスターのこと知らないから断言はできないけど、スタンピードを起こすようなダンジョンマスターは馬鹿だと思うよ、ペトラさん。だってさ、ダンマスの仕事はダンジョン内で魔力を回収する事なのに」


 俺の発言に「ぐぬぬっ!」と唇を噛みしめ悔しがるオカマのペトラさん。

 一方、騎士さんは振り上げていた剣を下ろし俺にこう尋ねてきた。


「君はダンジョンマスターなのに他のダンジョンマスターを非難して良いのか?」

「いいわけないわあ! これは暗黒神様に対する反逆よう!」


 あの、ペトラさん。ちょっと黙ってていただけませんかね?


「もちろん、非難しますよ。だって、俺は人間ですから。人間のダンジョンマスターなんです。スタンピードどころか人間を殺すことだってしたくありません」


 騎士さん、ついでにペトラさんまで黙ってしまった。

 一方は凶悪としか思ってなかったダンジョンマスターが普通の人間だった事に驚いたため。


 もう一方はダンジョンマスターらしからぬ行動に驚いたためだろう。

 やべ、オッサンの目が怖い。

 先に話を進めよう。


「では、君はどうする? このままじっと、息を潜めて暮らすのか? それならば交渉の余地有りだろうが」


 ちょうどいいタイミングで騎士さんが話しかけてくれた。

 乗るしかない、このビックウェーブ。


「ええ、敵対するつもりはありません。ただ、ダンジョンの目的を考えますとじっとしてるのもダメなのかなと」

「そ、そうよん。アスカちゃん良いこと言ったわあ。ダンジョンマスターは人間の命を刈り取ってこそなのよん。それでこそ真の童貞マスターだわあ!」


 うん、黙っててペトラさん。今、一番大事なところだから。そして、童貞マスターはやめろ。なんか、童貞を極めちゃったみたいで嫌だ。

 あっ!

 ほら、騎士さんが剣を構え直したじゃないか。

 あんたのせいだぞ!

 ヤバイヤバイ、急げ、俺。


「だから、俺は新しいダンジョンを始めたいんです」

「新しい……」

「……ダンジョン?」


 俺の言葉に二人は興味を持ってくれたようだ。よし、ここを上手くプレゼンすれば助かるかもしれない。

 俺は気合いを入れ直す。


「ご覧ください。このマリオネット型ゴーレムを」


 俺はさっき作り出したエロナース服姿のイゾルデに注目させる。


「俺はここに福祉施設を作りたいんです。このゴーレムたちと共に!」


 騎士さんは不思議そうな顔をして聞いてきた。


「福祉とはなんだね?」


 やべえ、そこからか。ていうか、今更だけど俺の日本語が何で通じているんだろう?

 いや、今は説明だ。そういうのは後回しだ。


「福祉とは全ての人の幸せを意味する言葉です。特に身寄りの無いお年寄りや障害者。孤児になった子供たちの世話を引き受けようという活動です。死を目前にした人たちの最後の拠り所。子供たちが早死にしないよう、手を差し伸べる孤児院。このダンジョンはそういう場所となれるはず」

「あらん、アスカちゃんったらそんな事を考えてたのねん。ふむふむ、なるほど。殺すのではなく死にそうな人間をダンジョンに集めて魔力を回収するわけねん。手間いらずの魅力的な提案だわん。それに子供は感情の爆発が多いのねん。人数を揃えれば一定数の魔力を回収する事ができるわあ。うん、孤児院も素晴らしい発想よん。アスカちゃん、これは確かに新しいダンジョンだわあ!」


 よし、いい合いの手だぞオカマ秘書。

 もう一息だ。


「もちろん、ご心配な事もありましょう。ここは常に一般解放する予定です。モンスターなどが発生しないか常に見張っていただきたい。このダンジョンには何の害も及ぼさないゴーレムしか作りません。彼女たちは文句ひとつ言わず子供やお年寄り、怪我人の世話もやってくれます。この話を騎士さんの上役の方、最終的には王様の所にまで持っていっていただけないでしょうか?」


 さあ、どうだ?

 俺の提案を受け入れてくれ。

 すると騎士さんは剣を鞘に戻し俺に手を差し出してくれた。

 やった、これは商談成立の握手だな。


「自分は騎士隊長をしているトリスタンという者だ。各部隊の視察を終えて王宮に帰る途中でこのダンジョンに出くわした。興味深い話が聞けて良かったよ」

「こちらこそ、俺の話を聞いていただいてありがとうございます」

「ところで先程の話だが、何か裏付けや物的証拠となるものはあるだろうか? 王宮に話を上げるには必要な事だ」


 騎士のトリスタンさんが握手する手の握力を増して尋ねてきた。

 つまり、エビデンスってことだな?

 もちろん、ねえよ、そんなもん!

 やべえ、どうしよう……

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