第17話 領主の娘の護衛

 俺達三人は、テレポーテーションで転移し、農園まで数百メートルの場所に着いていた。


 「便利だね、テレポーテーション。私も覚えようかな」

 「めちゃくちゃ魔力消費するから、魔力量に自信ないなら辞めとけ。アザレンカ、魔力くれ」

 「はい、どうぞ」


 朝から数回ほど、テレポーテーションを使っていたので、魔力消費が激しい。

 いつものように、アブソープションを使い、アザレンカから魔力を貰う。


 「ずっと、二人が魔力回復のポーション持たないの不思議だったんだけど、そういうことね。魔力量が凄いアザレンカはそもそもポーションいらないし、プライスはアザレンカから魔力を貰うからいらないってわけね」

 「はは……僕はそれしか取り柄ないですから」


 立派な才能だと思うんだけどな。

 色々、アザレンカに求め過ぎなんだよ。

 この国の人間は。


 「さてと……回復も終わったし、農園に行くか。ちゃんと、ノバは説明してくれよ?」

 「分かってるって。頼んだのは、こっちなんだからそれぐらいやるよ」


 ノバを先頭にして、農園へと向かう。




 ◇




 「しかし、凄いな。噂には聞いていたけど、ここまでかよ」


 目的の農園へと入ってすぐ、俺は周囲をキョロキョロと見ながら、驚いていた。

 噂というのは、この農園の従業員がわざわざ魔法を使って畑を障壁で守っている……という類の噂で、流石にそこまではしないだろ……と疑っていたが、本当だったんだな。


 「この広大な畑を、魔法を使った障壁で絶えず交代制で守っているんだから、そりゃここの果物や野菜も高くなるよね。人件費どんだけ掛けてるの? って話だよ」

 「交代制!? 今いる人達だけで、百人超えてますよね!?」

 「朝から夕方までの日勤は新しい障壁を張るのと、次の日の朝までその障壁が持つように強化するのが仕事だって話だから、日勤の方が人多いんだって。夜勤は、日勤が畑に張った障壁を守るのとモンスター駆除がメインだから、もうちょっと人は少ないみたいだよ?」

 「……流石、貴族や王家が食べる物は違いますね。手間もお金も掛かってますね」

 「でも、障壁のような防御魔法と、モンスターを退治できる程の威力を持つ、攻撃魔法を兼ね備えている人はいないから、一人あたりの人件費はそこまで高くないんだって」

 「ちょっ、ノバさん……農園の人に聞こえないように言ってくださいよ……」


 防御魔法と攻撃魔法を兼ね備えている奴がいたら、まず大体の奴は魔法使いになって、王国魔導士団に入ることを目指すだろうからな。

 ……だとしても、アザレンカの言う通り、ノバは聞こえないように言うか、もう少しオブラートに包んで言えよ。


 兼ね備えている人はいないとか、一人あたりの人件費はそんなに高くないとか言うなよ。


 「ノバ様、お待ちしておりました。そちらのお二人は?」

 「あ、どうも。お久しぶり。この二人は、勇者アザレンカとベッツ家の長男プライス。今日は、私の護衛」

 「なるほど、分かりました。すぐに園長をお呼びしますので、客間でお待ち下さい。ご案内いたします」


 農園の奥にある園長の家の前で、ノバはメイドに話し掛けられる。

 流石、お得意様と言うだけあって、顔をちょっと見ただけで客間に案内されるのか。


 それに比べて……俺達二人は……メイドにスルーされる人間かよ。

 ここは、王都じゃないから仕方ないといえば、仕方ないが。

 ……いや、俺はまだ良いけどさ。

 アザレンカはマズいな。

 一応、勇者なんだからさ。


 「二人とも、もうちょっと頑張ったら? あのメイドさん、全く二人を凄いと思ってないよ?」

 「あ、やっぱり?」

 「……はい」


 ノバの手厳しい意見に、俺達二人は反省するしかなかった。





 ◇




 「相変わらず、ここのお茶は美味しい〜」

 「本当だ……高いだけあって、美味いなやっぱ……」

 「渋い……僕はこの味ダメだ……」


 出されたお茶を飲みながら、客間のソファーに座りながら、園長を待つ。


 「お待たせしました、ノバ様」

 「全然大丈夫だよ。ここの美味しいお茶を飲んでいたから、待ち時間も苦にならないよ」

 「ハハッ……それは、良かった」


 農園の畑で、障壁を張っている現場の人間とは違い、紳士服を着た初老の男性が入って来た。

 この人が、この農園の園長か。


 「やあ、プライス君。そして、勇者アザレンカ。私はこの農園の園長のニールだ。二人が、ノバ様の護衛で来るとは驚いたよ」

 「……あれ? アザレンカはまだしも、なぜ俺のことを?」

 「何を言っているんだい? ベッツ家は、この農園のお得意様だよ。お得意様の長男くんを忘れるほど、私は不出来な人間じゃないさ」

 「あ、ああ……そうでしたね」


 言えない、言えないよ。

 多分この農園の野菜や果物食べてるのは、俺以外の家族で、俺は食べていないだなんて。


 「……え? その割には、さっきのメイドさんは……グフッ!?」

 「……少し黙ってろ」

 「? どうしたのかな?」

 「いいえ、何でもないです。どうやら、お茶が美味しすぎて勢いよく飲んだら、むせたみたいです。な? アザレンカ?」

 「は、はい……」


 アザレンカが、また余計なことを言いそうだったので、思わずみぞおち辺りに肘打ちを食らわせてしまった。

 なんとか、笑ってごまかし本題へと入る。

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