第15話 王都での噂

 ブラックウルフを大量討伐した次の日の朝、俺は王都にいた。


 ブラックウルフの牙と皮を売りに出していなかったので、ラウンドフォレストで売るより王都で売った方が高値で買い取って貰えると思い、俺は珍しく朝早く起きて、テレポーテーションを使い、王都の馴染みの武具店に来ていた。

 素材の買い取りもやっているし、何よりお互い知っているというのが安心だ。


 アザレンカはグリーンさんの屋敷に、クラウンホワイト討伐の協力を頼んだが断られたので、これからどうしますか? という相談に行ったみたいだが……ノバに嫌味とか言われてないと良いけど……。

 そんな心配をしながら、武具屋に入る。


 「いらっしゃい! ……って、プライスじゃねえか!  久し振りだな! 素材を売りに来たのか?」

 「久し振りって、先月も来たじゃないですか。ゴンザレスさん」


 店に入るなり、武具店の店主のゴンザレスさんが嬉しそうに話し掛けてくる。

 王都では数少ない、俺が不愉快な思いをせずに話せる人だから貴重ではあるが。


 「で? 今日は何を売りに来たんだ?」

 「ブラックウルフの牙と皮ですね、数十匹分あります」


 俺は店のカウンターにホワイトウルフ数十匹分の牙と皮が入った大きな袋を乗せ、中身をゴンザレスさんへ見せる。

 いや、昨日死体処理マジで大変だったよ。

 日が暮れるまでやってたもん。

 処理し過ぎて、何匹討伐したのか分からなくなったし。


 「凄いな、これ……どうしたんだ?」

 「ラウンドフォレストで大量発生したんですよ。ここで売った方が、高く買い取って貰えるかなと思って、持ってきちゃいました」

 「なるほどな、何匹分あるか奥で数えてくるから少し待っててくれ」


 ゴンザレスさんは俺が渡した大きい袋を抱え、奥の部屋へと入って行ったので、少し待つことにする。




 ◇




 「しかし、本当に凄いな。ブラックウルフ六十五匹分の牙と皮が入っていたぞ? 一日でそんなに討伐したのか?」

 

 ゴンザレスさんは、笑いながら出てきた。

 六十五匹もの、ブラックウルフの死体を処理したのか俺は……そりゃ日が暮れるまでやるハメになるわけだよ。

 まあ、ブラックウルフは全部アザレンカが討伐したんだけどな。


 「討伐したのは俺じゃないですからね。俺はブラックウルフの死体を処理しただけです。ほら、勇者の孫のアレックス・アザレンカっているじゃないですか? 全部彼女が討伐したんですよ」


 俺のこの言葉を聞いたゴンザレスさんは、驚いていた。

 大量のブラックウルフの牙と皮を見せた時も、大して驚かなかったのに、今の俺の言葉に何を驚く要素があったのだろうか。


 「……へえ、意外だな? 王都じゃ全く役に立っていないらしいって噂で、持ち切りだったのに。聖剣を国に返せとか、プライスもすぐに女勇者を見捨てるだろうってレベルには、酷いって言う奴もいたな。客の中に」

 「えっ……本当ですか?」


 完全な間違いじゃないから、そんな噂は嘘ですよ、デマですって言えない。

 いや本当に、ここ数ヶ月のアザレンカの酷さは確かに幼馴染じゃなかったら、見捨てるレベルだったし。


 色々と理由があったとはいえ、確かに酷かった。

 とはいえ、可哀想だな。

 フォローしとくか。


 「いやいや、ラウンドフォレストで大活躍中ですよ。一昨日も街に大量に出没したホワイトウルフの群れを全て討伐していましたし」

 「旅を共にしているプライスが言うんなら、王都で流れている女勇者についての噂はデマだな! 変な噂話なんて聞かせちまって悪かった! これはサービスだ!」


 そう言うと、ゴンザレスさんは店のカウンターから金貨一枚を出し、渡してきた。

 ブラックウルフの割には、結構良い値で売れたな。


 「ブラックウルフって、こんなに価値ありましたっけ?」

 「王都の方にはいないからな。一匹辺り銀貨一枚ぐらいにはなる。六十五匹だから、本当は銀貨六十五枚なんだが、プライスに変な噂を聞かせちまったお詫びだ。受け取ってくれ」

 「良いんですか? ありがとうございます」

 「若者が遠慮なんてすんなよ! おっと、そろそろ予約の客が来るみたいだな……じゃあ、プライス! また、素材を売りに来いよ! お前の持ってくる素材で作る武器は評判が良いんだ!」


 そう言って、ゴンザレスさんはまた奥の部屋へと入っていこうとする。

 だが、少し止まって。


 「そういや、これも噂程度の話なんだが……次の王は、第一王子らしいってことを聞いたか?」

 「……え? い、嫌だなあ! ゴンザレスさん! 変な噂話信じ過ぎですよ! 第一王子なんかが次の王になれるわけないじゃないですか!」

 「ハハッ! そりゃそうだ! じゃ、またな!」

 「はい! ありがとうございました! また来ますね! ……はあ」


 ゴンザレスさんが奥の部屋に入っていったのを確認して、俺はため息を吐いた。

 貴族の派閥の中で、第一王子派最大勢力となっていることが、王都の連中にもバレてるのか?


 なんか、ちょっと色々と面倒くさいことになってきたな。

 とりあえず、ラウンドフォレストへ戻ろう。


 素材を売ってしまえば、もう王都には用がないので、またいつもの宿屋へとテレポーテーションして戻る。

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