第10話 性格は似ていない親子

 「まったく……その様子じゃどうしてわざわざこんな夜の遅い時間に、自分達が呼び出されたのか分かってなさそうだね」


 ノバは首を振りながら、やれやれといった感じで呆れている。

 はいはい、悪かったですね。

 なんにも分かってない人間で。

 余計なことを言ったら、後々酷い目に遭いそうだから黙っておくけど。


 「あのー……ちなみに僕達が呼び出されたのって良いことの方ですか? それとも悪いことの方ですか?」

 「こんな時間に呼ぶんだから、悪いことの方に決まってるじゃない。頭悪いね、アザレンカ」

 「えぇ……やっぱりか……」


 アザレンカは露骨に落ち込む。

 悪いことで呼ばれたためなのか、それともノバに頭が悪いと言われたからなのか。

 どちらで落ち込んでいるは分からないが。


 「……少しは感謝しろよな、ノバも。ホワイトウルフを討伐したのは、ほとんどアザレンカなのに。助けてもらって当たり前とか勘違いしてるんじゃねえか? あいつ?」

 「……ノバさんに愚痴ってるのを聞かれたら、告げ口されちゃうよ? ここは大人しく従っておこう?」


 街を救ったアザレンカに頭が悪いと言ってしまうノバに、腹が立たないわけが無かった。

 ノバには聞こえないように小声で呟くように愚痴ったが、そんな俺をアザレンカは止める。


 「詳しいことは、ママ……じゃなかった。領主から説明があるから」

 「分かった」

 「分かりました」

 「勇者アザレンカとプライスが来たよ」


 ノバが部屋のドアをノックすると、部屋の中からはどうぞという声が聞こえた。


 「じゃ、とりあえず入って」

 「……失礼します」

 「遅くなってすいません」


 部屋に入って、領主へと挨拶をする。

 中では、ノバと同じ緑色のキレイな髪色をした貴婦人……ラウンドフォレスト領主のグリーンさんが俺達を笑顔で待っていた。


 「お久しぶりね、アザレンカさん。それとプライスさん。本当にごめんなさいね、ホワイトウルフの討伐や街の人達の治療で疲れているのに、呼び出してしまって……さ、座って? 二人にはお礼もしたいから」

 「あ、いえ……ホワイトウルフを討伐したのは、ほとんどアザレンカですから」

 「いやいや……街の人達の治療は全てプライスで、僕は何も出来なかったですし……」

 

 グリーンさんに、お礼と謝罪をされた俺達は思わず面食らって、謙遜をしてしまう。

 ……本当にノバはグリーンさんこの人から産まれたのだろうか?

 確か……ノバも俺やアザレンカと同い年だから十九歳だろ?


 十九年間、グリーンさんの何を見て生きていたんだろうな。

 親がお礼とか出来ない人間だから、その子供もお礼とか出来ない人間ってのは分かるけどさ。

 明らかに、グリーンさんはそんなタイプの親ではないのに。


 「……何?」

 「いや、別に。大したことじゃないから」

 「なら、早く座れば?」


 危ない危ない。

 ロクな娘じゃねえなこいつ……とか思いながら、ノバを見ていたのがバレるところだった。

 大人しくさっさとソファーに座ろう。

 変にごまかして、怪しまれるのも嫌だし。


 「本当に助かったわ。この街の冒険者は駆け出しが多いから、ホワイトウルフの群れが街に出現したって聞いた時は、二人を頼るしかないって思ったもの。本当、期待通りだったわ」


 俺達がソファーに座ったのを見て、グリーンさんは改めてお礼を言いながら、頭を下げる。

 ……うん、ノアの母親とは思えないほどのしっかりとした人だな。


 「期待に応えられて良かったです。……ところで、聞いても良いですか? 何故、俺達が呼ばれたのか?」

 「す、すいません……僕もプライスもそれが分からないんですよ」


 ホワイトウルフの討伐なら終わった。

 そこで俺達が何かしくじっていたのなら、こんなことがあったから気をつけろとか、注意するために呼んだとか分かるけど……特に何もしくじったわけじゃないしな。


 かといって、お礼が言いたいだけだったら、別にこんな時間に俺達を呼び出す必要なんてないはずなんだ。


 「実はね……王国騎士団……そして王国魔導士団の力をすぐに借りたい事態が、発生してしまったの。申し訳ないけど、私達から頼むよりも二人から頼んでもらえれば、すぐに動いて貰えるんじゃないかと思って……」

 「……王国騎士団と魔導士団の力を借りたい? 一体何が?」

 「街の南側に進むと、魔物やモンスターが出てくる森があるのは知っていると思うけど……その森の西側に、大きな洞窟があるのは分かる?」

 「洞窟……? プライスは分かる?」

 「ああ、多分」


 ラウンドフォレスト近くの森は、新米冒険者達が金を稼いだり、修行のためにモンスターや魔物を狩ったりする森だが、森の西側を進んだ先には夏でも雪が残っている雪山へと続く、大きな洞窟があるのは知っている。


 ここの雪山を超えると確か、ウェアホワイトって田舎の街に行けるんだよな。

 特に行く意味は無い街だから、よほどのことがない限りは行かないけど。


 「グリーンさん、その洞窟がどうかしたんですか?」

 「……実はね、そこでクラウンホワイトの目撃情報があったの」

 「……え?」


 クラウン……ホワイトだと?

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