第4話 周りからの評価

 「やっぱりそれに関しては疑問なんだ? 先代勇者……おじいちゃんが僕じゃなくて、プライスを次の勇者に選んだこと……それと聖剣がプライスを選んだことも?」

 「……まあな」


 表情に全て出ていたのだろうか。

 俺が口に出していないことまで、アザレンカに見透かされる。


 しかし、随分と嬉しそうだな。

 アザレンカのこんな満面の笑み、久し振りに見た気がするし、なんなら勇者になったアザレンカのサポートを命じられて、アザレンカと一緒に行動するようになってからは一度も見たことのない表情だ。


 ……どんだけ勇者やるの嫌だったんだよ。


 「んー……プライスを次の勇者にしようかって話は、実を言うと結構昔からあったんだよね。ほら、プライスって火属性魔法は得意だったじゃん」

 「……得意というか……普通の人間、凡人よりは凄いよねって評価なだけだぞ。……結局、でも騎士王と大賢者の息子にしては物足りなくない? という評価に落ち着くんだ」

 「ああ……なるほどね。僕もそれは分かる。勇者の孫なのに剣術が……とか、えっ? 火属性魔法じゃなくて氷属性魔法が得意なの? って初対面の人にはよく言われていたし」


 はあ……と俺もアザレンカも二人揃って、深くて長いため息を吐く。


 自分で言ってて本当に悲しくなるな。

 周囲の正直な評価というのは。


 本当、なんでもないある日なんだよな。

 周囲が自分へ期待する理想の実力と現実の自分の実力の差に気付いてしまうのって。

 それでもやっぱり、俺は両親達や姉二人のように、アザレンカは先代勇者で祖父のマルクのような勇者となることを求められて。


 こればっかりは、仕方ないのかもしれない。


 アザレンカが、イーグリット王国先代勇者マルク・アザレンカの孫で、イーグリット王国現勇者のアレックス・アザレンカであるように、俺も騎士王ロイと大賢者マリーナの間に産まれた息子で、長男のプライス・ベッツなのだから。


 同い年の、普通の家で育ってきた人達よりは上ってレベルじゃ、周囲が納得しないのは受け入れるしかない。

 

 俺達二人が育った家の地位は、決して安くはない。

 だからといって別に、普通の家で育った人達をバカにしてるわけじゃない。

 でも俺やアザレンカは、普通の家で育った人達よりも実力を付けられるチャンスが沢山あったし、与えられてきたのだから、実力が上で当たり前だし上じゃなきゃダメなんだ。


 その点に関しては、アザレンカも理解しているだろう。

 ……いや、理解しているからこそ辛いんだよな。

 周囲が期待するレベルの実力にまで、自分の実力が到達していないという厳し過ぎる現実が。


 「……あれ? それなら尚更、先代勇者のマルクや聖剣が俺を選んだんだ?」


 周囲からの自分の評価を思い出してしまった俺は、ますます先代勇者と聖剣が俺を次の勇者へ選んだことが、理解出来なくなる。

 しかしアザレンカはまた笑って。


 「簡単な話だよ。一生聖剣を持つことが出来ない人達は、プライスを評価しなかったけど、先代勇者と聖剣はプライスを評価した。ただそれだけの話だから自信を持っていいよ」

 「いや、だから……それが分からないって話で……」

 「もう……度が過ぎる謙遜は嫌味だよ? よくおじいちゃんがプライスに聖剣を触らせたりしていたでしょ? あれがプライスを評価していた証拠なんだから」


 アザレンカは呆れながら、ちゃんと思い出してみろと俺の疑問に答える。


 ……そういえば確かに、先代勇者は俺に聖剣をよく触らせてくれたな。

 ただ、このことを家族や周囲の人間に言うと……。


 (「勇者や選ばれた人間以外が触ると、聖剣に宿る聖なる炎の力で火傷するのだから、お前が聖剣を触れるわけがないし、勇者マルクがお前に聖剣を触らせるわけが無いだろう? そんな戯れ言を言っている暇があったら、もう少しまともな実力を付けるために修行しろ! このベッツ家の恥晒しが!」)


 と罵倒されるので、誰にも話すことは無くなっていったが。


 「……確かに触らせて貰ってたよ。周りにはそんなわけないだろって否定されたけどな」

 「どうせそれって、主にプライスのお父さんか上のお姉さんのセリーナさんでしょ?」

 「よく分かったな」

 「おじいちゃんがかなり気を使って、遠回しにプライスは聖剣を持てるかもしれないみたいな話をしたら、二人とも大笑いで否定しながらバカにしてきたらしくて呆れてたから」

 「…………」


 あのクソ親父とクソ姉め……先代勇者にまで、俺の悪口を言ってやがったのか。

 そのくせプライドは高いからな。


 どんなことであれ、少しでも俺の方が上な面があると、俺の五歳年上の姉である長女のセリーナは認めることが出来ず、練習と称して得意の剣術でボコボコにしてくるし、親父のロイはセリーナを溺愛しているので、すぐに周囲のその評価を否定し、セリーナにボコボコにされている俺を見て、ほらやっぱりな? そんなわけが無いんだよと再確認して、俺の悪評を広める奴だった。


 ……こんな奴らだから親父のロイは騎士王、姉のセリーナはエリート! なんて持て囃されても勇者候補にすらなれなかったんだろうな。

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