第5話 商店街の人々

「どう? そろそろ落ち着いた?」 

「……すいません……なんか、ほんとに、ごめんなさい……」

「ええよ、ええよ。泣く行為には、浄化作用もあるし、泣きたい時はなかなあかんねん。海早紀ちゃんは、泣いたり感情を出す機能が、ちょっと麻痺してたもんね。上手く動くようになってよかった」

「……浄化作用……?」

「そう、泣いたり怒ったり笑ったりして、感情を心と体をつかって、外に出すの。人間って、考えてる事と外からみえる行動が、一致してない事ってあるやん? 嬉しくないのに笑顔をつくったり、本当は腹がたってるのに全然問題ないみたいに装ったり。そやし、心と体が一つになって、素直に感じるままに表す時間って、必要やと思う」

「……私、最近ずっと、心と体が一致してなかった気がします……」


 本当に、ちょっと浄化された気がした。

 身体に溜まっていた膿が、外に流れ出たような。


「ありがとうございます。なんか、浄化できて良かったです」


 私は涙を手で拭いながら、精一杯笑顔でそう言うと、魔女さんも嬉しそうに微笑んだ。


「うん、海早紀みさきちゃん、今ええ顔してる。よし、じゃあ洗面で顔洗ってこよか。カゴに入ってるタオルは綺麗やし、それ使ってな。準備が整ったら、ご近所さんを探検しよ」

「は、はい……!」


 私は慌てて、顔を洗った。


 鏡にうつる自分の顔は、少し目が腫れぼったいけれど、スッキリしているように見えた。


「ほな出発しましょ。小さい商店街やけど、ご案内します」

「宜しくお願いします」


 魔女さんはお店の鍵をかけた。今更だけど、営業中なのに留守にしていいのかなあと、ちょっと思った。


 お店を出て、商店街を南向きに歩き出すと、向こうから歩いてきた人が声をかけてきた。


 丸顔に、少し白髪が混じったストレートボブ、パンツ姿の50歳位の女性だ。


「上田さん、お疲れ様です。会えてちょうどよかった。今月号の商店街ニュースです」

「なつこさん、ありがとうございます。あ、紹介しますね。こちら、昨日から3か月間限定で弟子になった海早紀ちゃんです。海早紀ちゃん、こちらは商店街の事務局みたいな事もしてくれたはる、まちづくりの会社のなつこさん。いつもお世話になってます」

「こんにちは、はじめまして。戸田なつこです。宜しくお願いします」

「あ、はい。宮谷海早紀みやたにみさきです。どうぞ宜しくお願いします」

「お弟子さんって、何してるの? 薬草を煮込んだり?」

「え、いえ……。まだ弟子として何をするのか、実はよくわかってなくて……」

「なるほどね。上田さんに無理難題言われて困ったら、事務所に逃げてきたらいいよ」

「ちょっと、なつこさん。変なこと言わんといて。真面目な子やから、本気にするやん」


 そう言いながらも、魔女さんもなつこさんも、とっても楽しそうにしている。


 仲がいいんだなあと感じた。


「ちょっと商店街のお店を案内しようと思ってるねん」

「今ちょうど、岩真さんとひいるさん、そこでしゃべってはるよ」

「ほな、挨拶してこよかな。なつこさん、ニュースおおきに」

「いえいえ。宮谷さん、ほな、またね」

「あ、はい。ありがとうございます。」


 なつこさんと別れてしばらく進むと、男の人が2人、話しているのが見えてきた。


 一人は眼鏡に短髪、長身で作務衣を着ている、穏やかそうな男性。

 もう一人は長い髪の毛を一つに束ねた、Tシャツに雪駄の、自由な感じの人。


「岩真さん、ひいるさん、お疲れ様です」


 魔女さんが話しかける。


「お疲れ様です」

「上田さん、お疲れ様です。こちらは?」

「紹介します。こちら、昨日から3か月間限定で、うちの弟子になった海早紀ちゃん。こちらは包丁研ぎ職人の岩真さんと、ひいるインさん。岩真さんは研ぎと包丁販売のお店のオーナーで、ひいるさんは町家の宿を経営してはるねん」

「宮谷海早紀です。宜しくお願いします」

「岩真の岩川です。よろしく」

ひいるです。え、上田さん、弟子って何? どういうことですか? 魔女修行?」

「それは企業秘密で言えへんわあ」

「え、なんすか、それ。めっちゃ気になるなあ」

「ひいるも、上田さんに弟子入りして、一緒に修行させてもらったらええやん」


 ポンポンと会話が進んでいく。

 本当に、みんな仲がいいんだなあ。


「そうや、上田さん。 川掃除の日、来月の第二日曜に決まったのでよろしく」

「了解です。ひいるさんとこの王子もきはるん?」

「勿論です。うちは家族みんなで参加しますよ。あ、お弟子さんも、川掃除どうですか? 楽しいですよ」

「うん、そやね! 海早紀ちゃんもおいで。めっちゃ楽しくて、地域貢献できて、修行にもなるしなぁ」

「ほな、上田さんとこは、2名参加で山さんに言うとこか」

「おおきに。それでお願いします」


 私は、話に加わるタイミングをつかめないまま、返事もしないうちに、なんか川掃除に参加する事が決まった。

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白川町商店街の魔女 高瀬 八鳳 @yahotakase

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