古い蔵から出てきた、戦争の話

ひさと

箪笥の中で眠ってた、小さな戦争


私の家には、古い蔵がある。

戦時中に建てられた古い蔵。

夜な夜な空襲にやってくるB29に見つからないように、ひいじいちゃんは壁を真っ黒に塗りつぶした。


真っ黒な蔵は異彩を放っていて少し怖かったし、別段用事もなかったから入ったことは数えるほどしかない。


でも、最近、地震が多い。

蔵の耐震工事なんてしてないし、グラッときたら中のもの全部壊れちゃうよね。

だから整理のために(つまり中身を物色しに)蔵の中へ踏み入った。


裸電球がたったひとつ。

ずらっと並んだ桐箪笥。

もれなく埃の化粧付き。


いつか火事になりそう、と思いながら開けた桐箪笥の引き出しの中に、それはあった。


糸みたいに細い、金の指輪がみっつ。


引き出しの中まで埃がたまってる。

でも光物には目がないので、うへえ、と思いながらつまみ出した。


思わぬ収穫。

これ、本物かな?


家族に言わずにもらっちゃおうかなとも思ったけど、

手柄を黙っておけるタチではない。

大急ぎで報告に行った。



祖母が、その指輪の正体を知っていた。

本物?と聞いたら、本物だわさ、と笑った。


「戦争中にね、お父さんが子供たちに作ってくれたんだよ。家財道具を売り払ってね」


祖母は、お兄さんが二人とお姉さんが五人。

八人の子どもに八個の指輪。


「疎開先から二度と帰れなくなっても、

空襲から散り散りに逃げてはぐれても、

派遣された南の島で一人生き残っても、

指輪さえ売れば子供たちが生きていけるように。」


祖母は、私の手にあった三つの指輪から、一番小さなひとつをつまみ出した。


「これは、私の。その二つは、お嫁に行った姉さんたちがおいてったの。」


ちいさなちいさな指輪は、もうその指には

はまらない。


「他の三人の姉さんは、嫁ぎ先にそのまま指輪を持っていった。」


彼女は第一関節で止まってしまった指輪を抜いて、手のひらにおいてじっとながめた。




「残りの二つは、

南の島のどこかに埋まってる。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

古い蔵から出てきた、戦争の話 ひさと @hisato_monokaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ