ブルーハワイとメロンソーダ

白咲夢彩

ブルーハワイとメロンソーダ


 ブルーハワイとはハワイで考案されたカクテルで、ハワイの美しい海と空を表現している飲み物らしい。メロンソーダとは、日本の喫茶店で生まれた綺麗なグリーンの飲み物だ。

 ふたつの飲み物は、見た目は似ているものの、ちゃんと違う飲み物だ。色だって味だって、歴史だってちゃんと違う。

 そんなふたつをそれぞれ片手に、私たちは今、最後の青春を味わっている。今目の前にいる私の親友さっちゃんは、寂しそうな顔をして、綺麗な色のメロンソーダを片手に持ち、しゅわしゅわとストローで吸いながら私に言うのだ。

「お互い全然違う道に進むなあ。私は農家を継いで、みっちゃんは東京で海の研究するんでしょ?全然違う……寂しくなるわ」

「そうだね、寂しいね……」

 大学の卒業式を終えて、今日東京へ旅立つ私は、就職先で海の研究をすることになっている。大学では海洋学を勉強していたので、それを活かせる仕事に就くのだ。対するさっちゃんは、家業を継ぐためにこの地に残る選択をした。だから、私たちは今日でお別れ。

 そんで、そんな私たちをさっちゃんは全然違うって言って寂しそうにしている。私の青く透明なブルーハワイを見つめながら。

「そういえばさ、好きなタイプも違ったよね」

「ああ、そうだそうだ。さっちゃんは野球部三年の熱血系のイケメン先輩が好きで、私はサッカーサークル四年の爽やか系イケメンの先輩が好きだったやつね」

「ちゃんと覚えてるじゃん。ふふ。出会ったばかりの一年生の頃、言い合いになったのが懐かしい。私が野球部の先輩が一番だって言ったらみっちゃんすごい顔で怒ったもん。あれは忘れないかも」

 さっちゃんはふふっと笑いながら、昔、私が怒った時の顔マネをして、出会ったばかりの頃の口論を思い出させる。

 さっちゃんと出会ったのは、大学一年生の時に入った旅サークルだった。学部は全然違ったけれど、同じサークルに入ったことで出会うことができたのだ。サークルのメンバーでいろんな地へ旅をしているうちに、さっちゃんとは気が付けば親友と呼べるくらいの仲になっていた。育った地も、好きな勉強も、趣味も全然違うのにいつも気が合ってしまい、ふたりで喫茶店に行っては恋バナをしたり、嫌なことがあればストレス発散に遠くへ遊びに行くこともあった。

「違うとこばっかだったね。育った場所も違うのに、仲いいよね。私たち」

「そうだね。でも、ひとつだけ同じ好きな場所があったじゃん」

「あ!瀬戸内海」

「そ、ブルーハワイとメロンソーダを混ぜたみたいなそんな場所がお気に入りだったね。ふたりの好きなものを混ぜました!みたいな」

「ふふ、面白いこと言うね」

 さっちゃんに言われて思い出した。全然違う私たちには、唯一の同じがあるんだった。エメラルドブルーが広がる瀬戸内海が好きだという同じが。

 海がエメラルドの宝石のように輝くきらきらした場所。そこがずっと私たちは好きで、大学終わりの喫茶店の後、ふたりでとにかく通う毎日を繰り返した。さっちゃんが車を出してくれて、何度も明るく眩しい瀬戸の海へ通ったのだ。

「ねえ、今日も行こうよ。この後」

 そう私が提案すると、嬉しそうにさっちゃんは言った。

「もちろん。なんか運命を感じるわ。違う二人がこうやってちゃんと出会えたこと」

「うん。私もそれは思うよ」

 まさか、こんな場所で出会えるなんて思ってもなかった。最初は戸惑ったけれど、戸惑いよりもお互い嬉しかった。だから、気が付かないうちに親友になれた。

 すると、さっちゃんは「しばらく会えないだろうからさ、言いたいこと言っておく」と真剣に私に話を始めた。

「みっちゃんは母子家庭でしょ?今まで沢山悩んだでしょ。言葉に表せないような複雑な悩みがたくさんあったでしょ?」

「うん……まあね」

「私も、両親と血が繋がってないから悩んだ。たくさん悩んできたし、辛いこともあったけれど……別にそれが悪かったとは思ってない。理解するのには時間がかかったけれど今は幸せ」

「さっちゃん……」

「ねえ、そう考えると私たちって似てるよね?育った環境も育てられた親も違うし、悩んできたことも違うけれど。お互い辛いことがちゃんとあって、乗り越えてきた」

「そうだね」

「もしさ、東京に戻ってお母さんに会ったら伝えといてよ。みちことさちこはブルーハワイとメロンソーダくらい似ていて違うってさ」

 そう言うさっちゃんの目には少し涙が溜まっているように見えた。私の飲んでいるブルーハワイよりも透明で綺麗な涙が。

 だから言ってやった。

「気が向いたら東京来てよ。お母さん喜ぶよ。まあ気が向いたらだけど。さっちゃんは私のお姉ちゃんなんだし。まあ、私は会いたいしさ……」

「そか。じゃあ、気が向いたらにする。でも、こっちにも来てよね。東京に憧れはするけれど、こっちもいいところあるんだから」

「じゃあ、お互い通うってことで」

「んで、気が向いたらお母さん連れてきてね」

「わかった。気が向いたらね」

 そう喋り終わった後には、私のブルーハワイもさっちゃんのメロンソーダも綺麗になくなっていて、ふたりの青春の終わりを感じてしまった。

 でも、この青春の次はきっと今とは違う青春が待っているだろう。

 私たち生き別れの双子は、また別々になるけれど、きっとこれからの道もブルーハワイとメロンソーダくらい似ていて違うと思う。

 好きな勉強も、好きな人も。過ごす環境も、地域も。私たちが抱える悩みも、辛いと嘆くことも。

 きっと全部違うけれど、同じように出会って、同じように乗り越えるんだと思う。

 だって、同じお母さんから同じ日に産まれたんだから。

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