7点目  「袋詰めのコツ」         [3/26(土)]予定分

 これもまた、とある深夜のお話。

 サキちゃんがレジに立っていた時のこと。

 私はこの時レジに背を向けて店内の清掃をしていました。

 「こちらでお預かりしますー」

 しばらくしてそんなサキちゃんの声と、ドスンと買い物カゴをレジ台に置く音が。

 (ん? ドスン?)

 もしやと思いながら作業を続けていると、いつもの会計より明らかにスキャンの音が多く聞こえるので、手を止めてサキちゃんの様子を見に行くことに。

 案の定そこには、買い物カゴに山盛りの商品が。お客様は40ぐらいのご夫婦のようです。

 深夜では珍しい光景ですが、こういう時は二人一組でレジ対応をします。深夜は二人しかシフトに入っていないので、場合によってはできないこともありますが、この時は幸い店内に他のお客様がいらっしゃらない時でした。

 素早く手を洗い、レジに立つサキちゃんの左隣に。小声で状況を確認していきます。

 「袋は?」

 「いる。50でいけるはず」

 50ってのはレジ袋の号数(サイズ)のことです。

 「確認は?」

 「まだ」

 「わかった」

 3秒程で一連のやり取りを終え、ようやく私はお客様にお声がけしました。

 「こちらはレジ袋お二つでご用意しましょうか、それともお一つにおまとめした方がよろしいでしょうか?」

 「二つに分けて」

 「かしこまりました」

 再び小声でサキちゃんに指示を出します。

 「25二つで」

 「わかった」

 レジ台の下からレジ袋を引っ張り出し、湿らせた手で袋を開きつつ、ほんの一瞬目の前の商品とにらめっこをします。

 目の前には1.5Lの丸いペットボトルに1Lの牛乳パック、お弁当に生卵のパックにカップ型のデザートまで。その他にもポテチの大袋などまだ商品があります。曲者ぞろいです。

 とりあえず一つ目の袋を開き、一番下に飲料系二本を横倒しに。断面の形が違う二つですが、倒すとほぼ同じ高さになるのです。その上にお弁当を置こうとした時…、お客様がお一人店内に入ってきました。

 「おーい、タバコくれー」

 「はーい」

 いつの間にかもう一つのレジの前に立っていらっしゃいます。

 こう言われてしまっては袋詰めよりレジが優先です。

 サキちゃんに後を任せて、私はもう一方のレジへ。

 そのお客様のお会計を終えてサキちゃんのところに戻ってくると、もう既にお客様がお帰りになった後でした。

 「サキちゃん大丈夫だった?」

 「うん。何とか」

 「残りの袋詰め分かった?」

 「まぁね。お弁当の上に卵置こうとしたんでしょ?」

 「そう」

 「でもそれだと二つの袋の重さのバランス悪くなるから、卵はもう一つの袋に入れた。代わりにお弁当の上にカップデザート乗っけた」

 私とは違うけどナイス判断です。

 「やっぱこういうの性格出るよね」

 「タカハシ君はいつも卵上に乗っけたがるよね?」 

 さすがサキちゃん。私のこういうクセも把握済みと見えます。あと、最近なぜか私はサキちゃんには君づけで呼ばれてます。

 「まぁそうね。だってそれが一番割れにくいじゃん」

 「私は崩れるのが心配だからなるべく下に置きたい派」

 「なるほどねぇ」

 確かにそれも一理あります。

 「てか、タカハシ君は袋分けるか訊くんだね」

 「あぁ、お客様が二人以上ならね。一つの大きな袋にまとめちゃうと重たくなっちゃうから、お客様の様子見て」

 「私は積極的には訊かない派の人」

 「へぇ」

 「今レジ袋有料になったじゃん? 二つに分けるとその分袋代高くなるから」

 「まぁ、それを気にする人はいるよね。だから俺は必ずその辺確認するようにはしてるかな」

 「てかさ、マジでポテチの大袋入れにくかった」

 「それ。軽いのにムダにスペース取るよね」

 重たくないのにとにかくかさばるポテチ。

 いつも袋詰めのたびに格闘してる憎き曲者です。

 「端のギザギザで私何回か袋破いてるもん」

 「あーそれ俺もやったことあるわー。とりあえずポテチは入れる向きに気をつけて、上の方に入れるかなぁ」

 「まぁそれに限るよね。袋詰めは基本重たい物下にしていけば何とかなるし」

 「それはそう。何か袋にぴったり入る寸法が分かるようになってから大分楽できるようになったかな。ほら、さっきみたいに25の袋は飲み物横倒しに入れてぴったりとかさ」

 「それ。あとラーメンとか丼ものは15の袋でぴったりとかね」

 「あれ分かるようになると楽じゃない?」

 「だね。まぁ忙しいと全て完璧にはできないけど」

 「雑になっちゃうよね」

 「実際レジさばくので精一杯だもん」

 「それなー。とりあえず商品がつぶれないように、弁当とかデザート傾いて崩れないように、ぐらいしか考えてないわ。まぁ俺サラダとかだったら少し斜めに入れちゃうことあるけど」

 「タカハシ君そこ意外と雑だよね」

 「袋の設定ミスるときつくなっちゃうんだよ」

 「タカハシ君ね、基本袋ギリギリを攻めすぎ。何かそのせいで雑に入れざるを得ない時多い気がする」 

 ぐうの音も出ない正論!

 「だってさ、その方がぐらつかないんだもん。何かさ、入れ終わった時にレジ袋がビシッと自立すると『勝った!』って思わん?」

 「それはあなただけです。まぁ、ちょっと分かるけど」

 「はい…」 

 「だってタカハシ君だって、BL買う時そういうの気にするでしょ? 」

 「それは、まぁ、店員さんの手元見ちゃうな。バラ配布の特典折れないよう入れてくれてるかなぁ、とか」

 「それと一緒」

 それを言われるとなぁ…。

 「そう考えると、メイトの店員さんって神だな。何か改めて思った」

 「いや、タカハシ君そこじゃないから……」

 全くもってサキちゃんの仰る通りです。

 タカハシ、気にするとこはそこじゃないんだよ(笑)

 意外と奥が深い袋詰め。

 さて、今日は長くなりましたから、また折を見てお話していくことと致しましょうか。

 それではまた、次のお話で。

 またのご来店、心よりお待ちしております。

 

 




 

 

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