最終章・異界大陸レザリムスよ永遠に……

~暗黒城ゴルゴンゾーラに集結する四方の厄災たち~①

 異界大陸国【レザリムス】中央地域の第一都市『レザリー』にある、暗黒城【ゴルゴンゾーラ城】──その城の甲冑部屋に、首から下を鎧に身を包んだ素顔丸出しの、昆虫騎士『ピクトグ・ラム』はやって来た。


 昆虫頭のかぶとが並んだ棚を、歩き見て回るピクトグ・ラム。

「さて、今日はどの兜にするかな」

 アチの世界〔現世界〕の昆虫に特殊な栄養を与えて巨大化させて、首をちょん切って加工した兜だった。


「今日は、この兜にするか」 

 ピクトグ・ラムが手にしたのは、カブトムシのように黒光りする甲虫の肩から頭までを加工した兜だった。

 五本の角を持つ牛のフンを食べるフンちゅう『ゴホンダイコクコガネ』


 ピクトグ・ラムは、ゴホンダイコクコガネの兜の内側の臭いを確認する。

「よし、しっかり消臭されているな……この間の昆虫の兜は臭かったからな」

 ピクトグ・ラムは、フン虫の兜をかぶって部屋を出る時に、一言ポツリと。

「鎧の中が蒸れて痒い……背中を掻くモノが必要だな」

 と、言った。


 ピクトグ・ラムが向かったのは、ゴルゴンゾーラ城内にある野外円形コロシアムだった。

 玉座に座ったピクトグ・ラムは、虫脚状の孫の手を鎧の隙間に差し込んで背中を掻きながら、空を見上げる。

「頭上やコロシアム外にも移動ゲートを開けば、巨大な厄災や巨大なお客さんも呼び込めそうだな……南方地域のクィーントンパ・トンパとか、北方地域の城巨人エネルゲイアとか」


 ピクトグ・ラムは、玉座横の丸テーブルの上に置かれた大皿に盛られている〝手がさき〟を兜をしたまま食べるのにチャレンジ失敗して〝手がさき〟を食するのを諦めた。


『手がさき』中央地域の名物料理、四脚の鳥の手足を甘辛いダシで煮込んだ料理。

料理名の由来は「食べる時は足より〝手が先〟」


 玉座に座ったピクトグ・ラムは、東西南北のゲートが開くのを待つ。

 すでに、四方の厄災たちにはゲートを開放して、ゴルゴンゾーラに集結する通達は済んでいる。

「大乱闘パーティーのはじまりだ……さて、どの地域の厄災が最初に現れるかな?」


 最初に開いたのは、北方の厄災ゲートだった──北の冷気の中から、北方地域の闇外科医『キリル・キル』と、その後ろに続いて剣を掲げて行進する『デス家兵士』たち。

 ゼンマイ動力の介護用パワーアシスト具を兵器に改良して、人間に装着した非人道兵器『サイバァ兵』

 影武者女王『デス・ウィズ』たちへと続き。

 最後に派遣将軍『フリュ・ギア』が現れた。

 フリュ・ギアが片手でも両手でも使用できる、長剣を掲げて言った。

「母さん、ゴルゴンゾーラ城に到着したピョン」

 ギアの妹の犯罪卿『アルメ・ニア』は北方地域に残っている。

 キリル・キルが、ピクトグ・ラムに向かって、丁重に親しみを込めた会釈をして言った。

「我ら北方の厄災に、このようなアピールの場を与えていただき感謝いたします」


 北の次に開いたのは、西方地域のゲートだった。

 ググレ暗黒教の『ググレ・グレゴール大司教』 を先頭に、真っ赤な目にヒビ割れた皮膚、牙をと鋭い爪を生やし、腕に羽毛を生やした不気味な『真信者』たちと、不気味な『魔猟犬』の群れが現れた。

 ググレ・グレゴール大司教と神官のジドラたちが、ピクトグ・ラムに向かって片手を挙げると。

 真信者と魔猟犬から、不気味な唸り声が聞こえてきた。


 東のゲートが開くと、魔勇者の娘『甲骨こうこつ』と魔獣軍団を除く六大軍団。

『リーダー軍団』

『術師軍団』

『遊び人軍団』

『盗賊軍団』

『回復軍団』

『援護軍団』が現れ。

 最後に狂剣士化していない『ワオ・ン』が、ゆっくりと現れた。

 どうやら魔法少女『シドレ』と『ナニ・ヌネ野』は、参戦を見送ったらしい。

 成人年齢から、少女年齢に変わった甲骨がピクトグ・ラムに向かって言った。

「ラム! 大変! 赤いガイコツ傭兵が追ってくる。あっ、変なのがたくさんいる」


 最後に上空に開いた南方ゲートから、巨大な『クィーントンパ・トンパ』と『食魔獣トンパ・トンパ』の大群が出現した。

 空中で赤、青、黄の三匹のトンパ・トンパを蹴散らして逃げて、背中からトンパ・トンパの羽を出して地面に着地した『霧崎牙美』が言った。

「クィーントンパ・トンパの、エグい孔を見せられた! ここはどこだ?」


 東西南北の厄災に続いて、四方の守護者たちも現れる。

 西のゲートを通って現れた。

 西の大魔導師『ナックラ・ビィビィ』

 ラブラド種の女性忍者剣士、ラブラド1号こと『リャリャ・ナンシー』

 手癖が悪い従者『ギャン・カナッハ』

 身代わり泥土人形の『ダジィ』が現れる。

 ナックラ・ビィビィが言った。

「ずいぶんと、賑やかじゃな」


 東のゲートから、赤いガイコツ傭兵『カキ・クケ子』

 反射魔法の邪魔魔女『レミファ』

 エルフ狩人『ヌル・ヲワカ』

 魔獣『アリャパンゴラァ』

 魔法戦士『YAZAヤザ』が現れた。

 レミファが言った。

「まるで、祭りだぜら」


 南のゲートが開き、アルマジロのように丸くなった蛮族料理人『カリュード』が飛び出してきて。

 続いて左右非対称の角を頭に生やした、ハーフデーモンのファースト料理人『風紋』

 炎の鳥から人型の女性剣士に変わった、セカンド料理人『炎樹』

 鍋などの台所道具の器物獣ライト料理人の『水犬すいけん』が現れた。

 水犬が牙美を見つけて言った。

「早くこっちに来るワン」


 最後に北のゲートから現れたのは──『ディライト』が操作する、カギ爪金属アームを動かして。人力動力走行する装甲車に乗った北方の者たちだった。

 装甲車の上部から防寒具を着込んで、上半身を覗かせた単眼ラブラド種の、ラブラド2号こと『スターライト』

 その近くで超科学の錫杖しゃくじょうを持って装甲車の縁に座る魔女皇女『イザーヤ・ペンライト』

 ペンライトの肩には、褐色肌で銀髪のフェアリー『エンジェライト』が腰かけている。

 装甲車の覗き窓から、外の様子を見ながら、尖り耳でワシ鼻のディライトが呟く。

「ふんっ、外に城巨人『エネルゲイア』を置いてきたから……遅くなってしまったわい」


 ピクトグ・ラムの思惑おもわくのもとに東西南北すべての厄災と、守護者がゴルゴンゾーラ城に集結した。

 ピクトグ・ラムが片手を挙げると、場外で花火が打ち上がり。

 それが合図となって、厄災と守護者が激突する。

 皮を脱いで虎柄模様のトンパ・トンパ姿に変わった、霧崎牙美が脱いだ人間皮を丁寧に折り畳んで水犬に渡し。水犬が体の中に牙美の皮を保管する。


 金属アームで次々と、デス家兵士を蹴散らす走る装甲車。

 スターライトの単眼から発射される光線を浴びた、デス家兵士やサイバァ兵が次々とパズルのように崩れて散らばる。

 スターライトが言った。

「パズル光線……これが、あたしの能力です、時間が経過すれば元にもどります……たぶん」

 影武者女王たちの片目から発射された、ビームをペンライトは超重力波の壁を作り屈折させて、床に落とす。 


 魔矢を飛ばして、敵に命中させて便意を発生させるヲワカ。

 命中した各種軍団の者たちの体から《当たりぃ♪》の音声とドンドンという太鼓の音が聞こえてきた。

 カキ・クケ子は、肉盛りと鳥ガラの能力を交互に使って、敵を粉砕していく。

 魔獣アリャパンゴラァも、アリ、カンガルー、ゴリラの『アリャカンゴラァ』に変わって敵をブッ飛ばしていく。


 遊び人軍団の踊り子は踊っている。


 カリュードが戦斧を振り回し。

 風紋の竜巻と雷。

 炎樹の炎をまとった剣。

 水犬のスプラッシュ酔拳が炸裂して。

 酸性の液体霧をトンパ・トンパ姿の牙美が、敵に向かって吹きかける。 


 遊び人軍団の踊り子は踊っている。


 ナックラ・ビィビィは魔導で作り出した、石の竜に「暴れろ」と命じて、魔猟犬を次々と塵に変えている。

 頭が膨らんだギャン・カナッハは「オットトト」と歌舞伎かぶきの見栄跳びをした後に、真信者の皮を次々と剥ぐ。


 戦闘が苦手な、派遣将軍フリュ・ギアは、昆虫騎士ピクトグ・ラムの隣に座って談話する。

「兵士には侵攻理由を知らせて誇りを持たせ、十分な食料を与えて略奪を防いでいたピョン」

 相づちを打つピクトグ・ラム。

「ほうほう、なるほど」


 ナックラ・ビィビィの魔導力と、イザーヤ・ペンライトの超科学を見たワ・オンが狂剣士化して。

「あひひゃひゃあぁ」

 と、奇声の笑いを発しながら、剣を振り回して東方地域のゲートにUターンしてもどっていく。

 東方地域に帰っていったワ・オンを見て、フリュ・ギアが呟く。

「あの男、何しにゲートから出てきたんだピョン」

 その時、フリュ・ギアの額にヲワカが放った流れ魔矢が命中する。

《当たりぃ♪》の音声が聞こえ、フリュ・ギアは下腹部を押さえる。

「うっ、急に便意が……トイレを貸して欲しいピョン」

「あの入り口から出て、右側の通路です」

 フリュ・ギアがトイレへと足早に直行する。


 遊び人の踊り子は踊っている。

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