第39話 ストーム王国の夢

 ストーンが目を覚ますと、冷たい大理石の床の上だった。


「気分はどうだ?」黒衣の魔道師が聞く。


「元来、寝起きは悪くってな。なぜ、殺さなかった? 」不機嫌そうなストーン。


「私にとっては、ただの暇つぶしゲームだ。命まではとらんよ」淡々と言う魔道師。「おもしろそうな人間だ。私のコレクションにならんか? 」


「ちっ、なめやがって」上体を起こして魔道師に殴り掛かろうとする。

さらりと避けては、ふわりと空中に浮く魔道師。


「おいっ。ローゼはどうした? 無事なんだろうな」


「あの女か。眠らせて、牢に戻した。私はこれでも紳士なのだよ。女に傷を付けたり、殺したりはしない。美しい女は、観賞用に飼っておくだけだ。私は退屈しのぎにいろんなものを集めている。この館は、私のコレクションルームなのだ」


「いかれた野郎だな。女の子は、人形やペットではない。すぐに返してやれ」

ストーンは、水筒の中のエレメンタルを解放した。

水飛沫をあげて、ラウザナに襲い掛かろうとする水のエレメンタル。しかし、一瞬にして、蒸気に変えられて消え去ってしまう。


「無駄だ。君も少しは魔道をするようだが、私にとっては子供騙しも甚だしい。大人の目の前で、赤ん坊が暴れているに過ぎんよ。言っておくが、私は、元は、かのデュンケルシュヴェールト教の導師だった、ラウザナだ。観念すれば命までは取らぬが?」


「そんな宗教は知らんな。降りてきて勝負しろ」下から怒鳴るストーン。


「それとも、こちらから行くまでだ!!」ストーンは跳ねた。人間離れした跳躍力、空中での見事なアクロバット。腕に巻き付けた籠手に収納しているナイフを使う。繰り出した高速の剣先は魔法使いの黒いマントを切り裂いた。だが、ラウザナは残像移動によって既に実体を回避させていた。


「見事な技だ。若き剣士よ。私を本気にさせてしまったようだ」

まったく別の方角に姿を現す闇の魔導師。


「本気になってくれたか。俺もマジの魔道、見せてやるよ。能ある鷹は何とやらっていうだろ。俺は実は使なんだぜ。俺から見れば、お前など赤子同然だ。本気で来いよ、赤ちゃん魔導師。

こいつをくらえ!! EJQ@Tz WQ@;M GEQBS T@UED@(MY~! 」

ストーンは、今だかつて誰も聞いたことのないような呪文を唱えると、勢いよく腕を振りきった。


 魔導に長けた魔導師でさえ、初めて耳にする謎の呪文。ラウザナの顔に動揺が走る、慌てて呪文を唱えた。「どんな強力な魔法でも跳ね返せば、どうということはない。ゆけカウンター・スペルよ、奴の呪文を跳ね返せ!!」


 二人の魔道がぶつかり合う。


 次の瞬間、ストーンの動きが光の如く速くなった。さすがのラウザナも対

応しきれず、ストーンの猛烈な蹴りをくらって倒れこんだ。

「やったか。すまんな、あれは嘘だ。俺は世界最強のだ。やつが本気でデススペルあたりを唱えてこないか、冷や冷やしたが」


 ストーンが使った呪文は、速さを向上させるだけのだった。

凄い魔法を使うふりをしただけのはったり。唱えた呪文の前半部分は思い付きの出鱈目でたらめだ。そんな呪文などない。


「貴様、はね返させるつもりで高速移動の呪文を投げていたのか。まんまと騙された」しばらくして、ラウザナは意識を取り戻した。「完敗だ。何が目的で侵入したのかは知らぬが、宝でも何でも持ってゆくがいい」


「俺はただの傭兵だ。依頼されて女を救出に来た。ローゼは返してもらうぞ」ストーンはそう答えた。


「地下に何人も女が居たな。連れ去った人たちを返してやれ。それと、何でもいいのだな」念を押すストーン。


「ああ、好きにせよ」


「では、この魔法使いを連れて返ろうかな。俺は変わった友達を集めるのが好きなんだ。コレクターのお前にならわかるだろ」と、ストーンはラウザナを指差す。


「私をか?このラウザナを持ち去ろうとは、おもしろい。くれてやるぞ……はっはっはっ。飾って置くもよし、番犬の代わりに使うもよし、好きにしてくれ」


「そうか、ならば話は早い。魔導師をやっているくらいだ、頭はいいんだろ? じゃあ、宰相とかやってくれないか。王国をひとつ、作りたい」


 これが、のちのストーム王国、初代宰相を務めるラウザナと、その王・ストーンとの出会いであった。


 ストーム王国。そのはじまりは子供のごっこ遊びと大した差はなかった。

「俺、王様をやるから、お前は宰相な」ガキ大将が言った。

「わたし、王妃様になる」と女の子が名乗り出た。

「おれっち、諜報部隊の隊長やりてぇ」男の子が叫んだ。

砂場で山をつくって、城の名前を考えた。そんなままごとみたいな彼らの行動がこの半島の歴史を大きく変えていこうとは、まだ誰も思ってもいなかった。


 『ストーム王国』を名乗るが現れた。ちょっとした社会問題が起きたと世間の認識はその程度だった。

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