希望 まだ見ぬ英雄たちへ
竜の
ロックスは、アルメリアと再会した。
「おいっ、こいつを出すぞ」
「しかし、ロックス……その子は」
「
ロックスは眠っている
「アルメリア、眠りは
「ええ、もうすぐ目覚めますよ。ただ、出撃させたとしても少しの時間しか飛ぶことも戦うこともできないでしょう」
「どれくらい飛べる? ブレス攻撃は使えるのか?」
「ロックス、貴方ならわかっているはずですが、なぜ
「知っている。俺は長年やっていたのだからな、竜騎士ってやつを……」
「ならば知っていますよね。竜は自らの命を燃料として魔力を発動します。その魔力を浮力に変換して空を飛んでいるのです。だから、十分に魔力を貯めこんでいないこの竜が長い時間活動するとどうなるかわかりますね」
「もと竜騎士のこの俺が出撃するんだ。その子が命を削るような時間はとらせない。あっという間に敵を落として帰って来るさ」
「もういい、貴方に質問した私が馬鹿でした。さあ、行きなさい、竜を出します」
「ありがてぇ。そうこないとな!
ロックスの持つ剣に閃光がきらめく。剣は、眠りから
この竜に乗って戦うときは、べつの武器が必要になる。
たいていの場合、
ロックスは、
眠りから醒めた幼竜は、大人の竜でないとはいえロックスよりもかなり大きく、ふつうの
「こちらも竜を出すぞ……洞窟の門をあけろ!」ロックスが叫んだ。
島の住人たちは、洞窟の門を開く作業に入った。
大きな岩がふたつに開いていく。自動で開くような文明は無い、ざんねんながら動力源は人力である。
洞窟の向こう側に長く続く水平な道が開けて滑走路のようだ。
巨大な竜がゆっくりと動き出した。
その背には、ロックスが騎乗し、手綱を握っている。「出るぞ !!」
ヒュン、ヒュン、ヒュルルルルルル、ゴゴゴ ゴォォォォォォオオオオオオオ!!!!!!
浮いた!! 巨体が浮かび上がっていく。そして、加速していく。
青い空が曇って
光り輝く夕陽の色をした鋼のような鱗に覆われた幼き竜。
その美しさは神のようとも悪魔のようとも言えた。鋭い爪はこの世のものとは思えぬ七色の金属のような輝きを放ち、尻尾は長く独立した生き物のように優雅にしなっていた。
(
本物の竜の気配を感じただけで、逃げだす
「よし、いい子だ。無理はいらない、半分も力を出してくれれば……お前は強い、プチ」
( 前方に8騎、ワイバーンです…… )
「ああ、俺にも見えた。行くぞ、すれ違いざまに半数は
「拡散ブレスだ……
「のこり……四匹だ。いけるか、プチ?」
( 後方にも騎影あります、新たに三騎です。気をつけて、
「よしっ、前に出させる……」
ロックスが
慣性がはたらくので空中で制止とまではいかないがぐっと動きは遅くなった。
後ろから迫っていた
あわてて急旋回しようする
その隙を見のがすロックスではない。
「あばよ! オッサンをなめるとこうなるんだぜ……連射で行くぞ!」
少しずつ角度をつけながら単発のブレス攻撃を3回、連続して放った。
すべて命中、
しかし、ロックスの駆る
「エネルギーを使いすぎたか……まずいな、ここまでか」
(
「
ロックスはくやしそうにつぶやくと
しかし、幼竜はまだ戦うことをあきらめていない。
ブレスを放つ! しかし、その吐息は弱々しく噴射されただけで大気の流れによってかき消されてしまった。「まだです。まだ……戦えます」
「もう限界だな。ここでお前が死んじまったら、元も子もない。降りるぞ!!」
ロックスは
自由落下にまかせて空を漂う
ほんの少し夢をみる……それは、何年も前のこの島で暮らしていた頃の記憶。
ロックスたちも島に居た。水道を整備したり、牧畜を始めたりして楽しそうだ。
( そうだ、なかよく遊んでいた人間の男の子がいたっけ。
名前は……シュトローム?
ちがう、ストーム? ストーン? そうだ……ストーンくん、風の名前の少年だ。
男の子は父親につれられて海を渡っていった。
あの男の子は、今頃どうしているのだろう。また、会えるかなぁ……)
幼竜は何年も昔のことを夢に見ながら、しだいに意識が薄れていった。
ロックスが、空から見ているとよくわかった。
船がいくつも近寄って来る、ギルガンド軍の船だろう。
大型ではないが小型の船で一隻にだいたい二十人くらいの兵が乗れるだろう。
ざっと五十隻はくだらない、千人近くは来るのか。
このまま竜が動いてもすべての船を沈めるのはむずかしい。
「いままで世話になっちまったなあ……ゆっくり眠るといい。
ありがとな……プチ、いや、
ロックスが呼んだその名前がこの
力尽きた竜は、意識がほとんどないまま、ゆっくりと大地に着地する。
着地した竜は翼を広げたまま地面にぐったりとひれ伏すと動かなくなった。
「いい子だ、よく頑張ってくれたな。お前とはこの島でおわかれだ。あいつに会ったらよろしく頼む、俺に似て馬鹿な
ロックスは
竜の
ほぼ透明になった竜の姿は人間くらいの大きさに縮まると、ロックスの持つ剣のなかに吸いこまれるようにして消滅した。
剣を背中に背負っていた
上空からいくつもの矢が降りそそいだ。
「あとは……竜なしでどこまでやれるかだ」
「申し訳ない。結局、あんたらには迷惑ばかりかけちまった」
ロックスは島民たちに頭を下げた。
「いまさら、しかたのないことです。どのみち、この島はほろびゆく運命の島、遅かれ早かれそういうことです。あなたも早くお逃げなさい、その剣をもって」アルメリアは言った。
「逃げると思うか、この俺が!!」
「
「やつらはもう上陸している。陸の上にいる敵は
「方法がひとつだけあります。だから、早くここから……」
水の大精霊は海でしか力をふるえない。
陸上にまで上がっている敵の集団を倒す方法は、この島ごと破壊することであった。
「アルメリア、おまえ……」
「さあ、早く行きなさい。あの子によろしくね」
「いいや、俺も付き合うさ。ギルガンドの狙いはあくまでもこの
アルメリア、俺はもうどこにも行かない。この島で、一緒だ」
ロックスは精霊使いの女をギュッと抱きしめた。
そして、ロックスはもう振り向くこともなく、懸命に駆けていった。
ロックスは島の高台に上って行こうとする。そこはすでにギルガンドに占拠されていた。
突然、肩をつかまれて立ち止まるロックス。
「待ちな、そこのオッサン。状況は不利すぎる、わかってるだろ」
親友にして長年の相棒でもある剣士ドラッケンが止める。
彼もそうとう傷だらけだ。上陸してきた兵士たちと斬り合っていたのだろう。
「不利は承知だが、逃げるわけにも行かんよ……もうこれ以上は。
そうだ、ドラッケン。ひとつだけ頼みがある、聞いてくれるか?」
「ふん、友の最後の頼みか。このドラッケン、命に代えてもこたえよう」
「こいつを……頼む。俺が高台に向かったら、裏手にある小舟でここを出ろ」
「こっ、これは? ロックス、おまえ……まさか」
竜騎士とよばれた男は、友に何かを託し、決死の戦いに
「竜騎士も竜がいなけりゃただの騎士ってか?」
高笑いしながら長身の男が待ち構えていた。ギルガンド王国の将軍・キィル・ギィースだ。
「甘くみるなよ。竜がいなくとも、この俺にはまだこいつがある。
この騎竜剣が!!」
ロックスは高らかに右手に持った剣をかざした。
「ちょうどいい、そいつがほしかったんだ。そちらから、ノコノコと来たか」
キィル・ギィースの武器は剣や槍ではない。大きな鎌だった。刃わたりだけで子供の背丈くらいあるだろう。その鎌の柄の部分に長い鉄の鎖が付いていて、もう一方の手に持っている棒状の持ち手とつながっていた。
(いったい、やつはどんな攻撃をしてくるつもりだ?)
見慣れない武器にロックスは不安を感じた。
キィル・ギィースが振りかぶった。ロックスをめがけてするどい刃が飛ぶ、鎖につながった大きな鎌だ。
「あぶねえ、あぶねえ!予想以上に鋭い
ロックスは必死でそれをよけたが転倒してしまう。かすっただけなのに足から血しぶきが飛び散った。
休む暇もあたえることなく、鎖鎌がおそいかかった……。ゴオォォォと響く風切り音。ロックスの頭のすぐ横を通りすぎた。
( いつまでもよけきれないぞ。このままでは首や手足を落とされちまう……)
苦しまぎれに投げナイフをはなつロックス。一本、二本、三本。
しかし、キィル・ギィースの鎖鎌は攻撃してくるだけでなく、投げたナイフもすべて払いのけてしまう。
( まったく歯が立たない。攻防一体というわけか、こいつ……)
飛んでくる鎌をなんとかよけることで精一杯で、ロックスは剣の届く範囲までは近寄れずにいた。
キィル・ギィースが少しずつ前へ出てくる。反対にロックスは後ずさりした。
ビュッ、するどい音が空気を
次の攻撃が来れば、もう逃げることはできない。
「残念だったな、オッサン」
キィル・ギィースは、手元にまいもどった鎖鎌をかまえていたが、それを捨てる。
代わりに背中に収めていた長刀を抜いた。
ただの刀ではない異常なオーラを放っている。妖刀という表現が適切だろう。
「鎖鎌は、ただのお遊びだ。とどめはこいつ、
素早い動きで斬りかかってくる。
ロックスはその攻撃を剣で受けた。
しかし、受けたはずのロックスの剣は砕けてしまい、
いくら鍛え上げられた肉体をもつロックスでも生き延びることは出来ない。
だが、ロックスは笑っていた。「かかったな……」
「なんだと、いくらこの妖刀がすぐれているとはいえ、竜剣がこうも簡単に壊れるはずはない、まさか……それはただの剣なのか」
「もう、遅いぜ。お前たちの狙いのものは、すでにここにない」
「こいつ、自分を
「それだけだと思うな。ギルガンド、お前たちももう終わりだ……この島は沈む、いや世界から消え去る。もうすぐ水の大精霊がこの島もろともに爆発するって寸法さ。おまえらの悪事も一巻の終わりだぜ!」オッサンは満足げに笑っていた。
嵐、豪雨、聞いたこともないような海鳴り、島が
精霊の島は、ギルガンドの軍勢を道ずれにして大海原へと消えた。
小舟が浜辺に漂着した。
乗っていたのは疲れきったひとりの剣士だけだった。
古びた大きな剣をしっかりと抱きかかえていた。
「たいへんなものを預かっちまったな。今頃、あいつも、あの島も海の底か。いっそうのこと、この剣もいっしょに沈んで消えたほうが余計な争いや野望なんかも生まれなくっていいのかもしれんが。
やれやれ、そんな大そうなことより、とりあえず……。あいつの息子になんて伝えりゃいいのだ、たしかストーンとか言ったけ。
ロックス、俺はなんていえばいいのだよ……まったく!」
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