第6話 子供の頃に見たあいつ

 ドラッケン師は剣術の修行の面では、とても厳しい人だったが、普段は子供の冗談にも乗り気で聞いてくれるという優しい面も持ち合わせていて、ストーンにとって何よりの心の支えになっていた。


 ストーンには、師匠とピティのほかにもうひとり親しい仲間がいる、

名前は、レパルと言った。

ちびヒョウとあだ名されている小柄な少年で歳もストーンよりも幼い子供だ。

しかし、あだ名のとおり小さいけれど運動神経がばつぐんで木登り、水泳なんでも上手で、おまけに喧嘩けんかも強かった。

 

 ストーンが港町に住んでいた頃からの知り合いで近所に住んでいたのでよく遊んだものだ。

本物の短剣を投げたり、上手になってきたころには山の中に入って実際に小動物や鳥をたおして食糧にしたこともあった。


 時には、港に泊まっている外国の船に忍び込んで積み荷の中を荒らしたり、いたずらという限度をこえていて大人たちに叱られた。まるで、兄弟のように一緒に行動していた。今でも時々、遊びにやってくる。

レパルは戦災孤児で家族がいないこともストーンとよく似ていた。レパルが普段どのように暮らしているのかはよく知らない。子供ながらに盗賊のまねごとをしているといううわさもあった。


「レパル。あまり危険なことばかりするなよ」


「わかっているよ、ストーンにいちゃん。でも、最近はこのスコル公国も不景気でさ、こんな子供が道端で困っていても銀貨はおろか銅貨一枚もくれないし、ひと月くらいなにも食べるものがないことも多いよ。働くにも雇ってもらえる歳でもないし」


「もう少しがんばっていてくれ。俺がもっと強い剣士になったら、いっしょに仕事をしよう」


「なんの仕事をするの?」


「傭兵剣士だ。剣術の腕前で仕事をするんだ。悪いやつらをやっつけたり、荷物を運んだりする護衛をしたりして、たくさんお金をもらえるんだ」


「じゃあ、俺ももっと投げナイフの腕前をみがいといたほうがいいね」


「それはよいけど。人や動物に投げつけたりするなよ、よいな……」


「わかっているよ!」

そういうとレパルはすっとどこかへ行ってしまった。野生の猫みたいな少年だ。



 ある日のこと、ストーンが剣の練習をしていると、一羽の伝書鳩が飛んできた。

ストーンはその鳩が運んできた手紙がドラッケン宛てであることを知るとさっそく先生のもとに届けに行った。


 その手紙の内容を見て、ドラッケンは顔を少しほころばせた。


「どうしたのですか、先生。何か良いことでも書いてあるのですか?」

ストーンはたずねてみた。


剣術組合ギルドからの紹介じゃ、うちに新しい仲間が入ってくることになった。お前と同じ年齢ぐらいのお坊ちゃんだ、剣術を習いたいんじゃと。

わしも、その少年の親には世話になったこともある。仲良くやってくれ!」


「へぇ、おぼっちゃんかよ。なんか俺とは合いそうにないな。それにもし美少年イケメンなやつだったら、ピティちゃんを取られないかどうかも心配だしなぁ」

ストーンは少し不安げに答えた。


「ストーンよ、お前でもそんな心配をするとは意外だな」

ドラッケンは笑った。

「ひどいなぁ、先生」

ストーンも照れながら自分の頭をかいて笑った。



「久しぶりですね、ストーン」

いつものように剣術の練習をしていたストーンの前にふいに少年が姿をあらわした。繊細な体つきに見事な金髪の巻き毛、深いあおい瞳が印象的だった。背はストーンよりも少し高かったが、年齢はほぼ同じだろう。


「おまえは……」

子供の頃に見たあいつだ。

ストーンの脳裏に遠い日の浜辺でみたきらびやかな商人の親子の記憶が浮かびあがった。


「なんと言ったかなあ。たしかモンち~とかいう名前だったような」

ストーンは、自分よりもあきらかに容姿端麗ハンサムで、気品ただよう美少年になんともいえないような不安を感じた。


「モンスーンですよ。今日から、こちらでお世話になります」


「俺は、おまえの世話なんてまっぴらだぜ」


「はははっ。ドラッケン師匠のもとで、いっしょに剣術を学ぶことになりました。もっとも、君には剣術よりも、人としての礼儀作法マナーというものを学んでほしい気がしますよ」

モンスーンはフンと鼻をならしてあごを斜めに振った。


「はいはいっ、ふたりともケンカはしないの。お茶の時間にしましょう」

ピティが仲裁した。かごに入れて持っていたお菓子をひとつずつ手渡してくれる。


 ここに来たばかりの頃は、よそよそしい態度をしていたモンスーンも、先生やピティたちとのわきあいあいとした暮らしになじみつつあった。

 ストーンとモンスーンも少しずつではあったが打ち解けてきたようだ。

ただ、モンスーンがあまりにもピティのことをじろじろ見ていることが気になった。

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