第24話 室蘭地球岬

楽しかった函館を出発して、本格的に北海道を走る。

基本はお上りさんなので、ひたすら国道を走る。

延々と信号のない道がひたすら真っ直ぐ(いや実際には曲がっているけども)続いている。


テンション高めで道入りしたが、

正直この何もない感は最初こそいいが単調すぎて頭がボーッとしてくる。

それでもすれ違うライダーたちとピースサインを交わしながら

トコトコと北上を続ける。


右手に見えるキラキラと光る海が美しい。


基本的に北海道では制限速度×時間で移動できる。

普通は信号やカーブなど減速要因があるので

平均速度は速めに走っても30~40km/hくらいになるが、

ここではほぼ60km/hで移動できる。

函館から室蘭までは約200kmなので休憩なしなら

3.5時間程度で到着する距離だ。


ちらちらと見えるハスカップ、という看板が気になる。

どうやら果物のようだが今まで聞いたことがない名前だ。

どんな味なのだろう。

看板に描いてある絵を見るにブルーベリーの様な実だが味は描けない。

ジュースなどの加工品もあるようだ。


そんなことを考えながら室蘭入りをした。


室蘭は北九州と同じく鉄の街で、新日鐵の大規模な製鉄所がある。

快適軽快に進んでいた旅程だが、街中に入ると一気に進みが鈍る。


5ステップくらいずつしかマップが頭に入らない上、

知らない地名それも読みにくいものばかりなので、

目的の地球岬の案内が出てくるまで気が抜けない。


室蘭にある地球岬はなぜ「室蘭岬」ではないのだろう。

ここから見る水平線は「地球が丸く見える」という推しであるらしい。

北海道でも室蘭でもなく、日本を飛ばして地球かよ!

と思いながら走っていると、目的の「地球岬」の表示が出た。


地図を見なくてよくなった安心感から少しホッとしながら、

岬に向かう道を下っていく。


駐車場に着くとなんだか人だかりができている。

なんだ?


「こんな綺麗なダブワン、その辺にないっちゅーねん!やろ?ナカジ?」

「はい、その通りで!」


なんだ?こいつら?

威張ってるヤツのバイクだが、たしかにクランクケースが特徴的に美しいバイクである。カワサキW1というらしい、寡聞にして知らなかった。


「おう、またがりたい奴はまたがってええで、特別や!」

「ハマちゃんは太っ腹やな!」

「まあな、はっはっは!」


ん?なんだこいつら?

関西弁はいいとして、明らかに性格がねじ曲がってる感じの小金持ちの息子と

ヨイショの下僕という感じだ。

見てるだけで腹が立つ。

なんでこんな風に育つのか、親の顔が見てみたい。


「なんだろな、あいつら、イラツくつな」


ん?と振り返ると背の高い白黒皮ツナギのライダーがいた。


「俺はショウゴ、千葉から来た。君は熊本からか?」


そうです、と応えてそちらを見ると、

習志野ナンバーで最新GENESISエンジンのFZ750がある。

大学4年生らしい。2歳ほど年上だ。

自分も簡単に自己紹介をした。


つらつらとお互いの現況を話した後、


「地球岬の後はどっちに向かうんだい?俺は知床方面に走るつもりだが」


ショウゴさんは言った。オレは高速なしで北海道の海沿いを左回りに走り、

岬をめぐるつもりです、知床まではほぼ同じコースかと、と応えると


「それはいいな」


とショウゴさんはシンプルに答えた。


そのまま二人で展望台に向かい「地球が丸く見える」という

地球岬の名前の由来を体感しようとしたのだが、

二人とも


「これが?」


という感じで終わってしまった。


まあそういうことも往々にしてあるとは思う、

名物に旨い物なし、と同義かな。


ショウゴさんとは徒然はなして気が合う感じがしたので、

向かう先も一緒だからしばらく二人で同行することにした。


夕方になり宿を探すことにしたが、

夏の北海道にはライダーズハウスというものがある。

格安で素泊まりができるという掘っ立て小屋のようなものである。


個人的には女性がそういうところで襲われたとかいう話も聞くし、

知らない人と一緒に雑魚寝する、

というのはトラブルの元になりそうなのだが、ショウゴさんが


「テントは体力が回復しねえだろ」


というので、まずはいうことを聞くことにした。

個人的にはその意見には賛成しかねるが、

まあ雨風はテントよりもしのげるのは間違いない。

風呂もあったし。


ショウゴさんに先導してもらい、くだんのライダーズハウスに到着すると、

聞いたことのある甲高い声が聞こえた。


「ナカジ!オレの着替え持ってこいや!」


ああ...嫌な予感がする...。

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