関東伊豆編

第13話 南関東、西湘バイパスで

長野で快適な旅館での一夜を過ごした後は、

トコトコと国道20号、甲州街道を新宿経由で池袋へ向かうことにした。


ココからは都会すぎて道端で泊まったりなどは出来ない。

東京に住む友人ヤマちゃんの家に泊めてもらうことになっている。


大分を出て東京で暮らすヤマちゃんと会うのは久しぶりだ。

更にヤマちゃんの家に来るのも初めてである。

しかし今回はヤマちゃんの家で遊ぶのが目的ではない。

今晩は餃子をたらふく食って翌日は美大に進学したカメと自転車で合流するのだ。


もちろんオレは自転車ではなくバイクである。

彼らの荷物を一部引き受け、彼らが自転車で伊豆一周をするのをバックアップする。

先を急ぐ旅ではない。

ゆっくりと楽しむべきだ。


とはいえバイクに載せられるものも限度はあるから、重い工具、着替えは運ぶが、

かさばる寝袋やすぐ使う小物は背負って、

または自転車にくくりつけて自分たちで運んでもらう。


翌日、橋本のカメの家に行き、先月開局したばかりというJ-WAVEというカッコいい洋楽ばかりかけるFM曲を聴きつつ、部屋で酒盛りをし一泊した後、早速出発である。


酒の飲み過ぎで寝坊&二日酔いした我々は、頭痛を抱えつつ、

昼近くになってから灼熱の中、出発をした。

バイクでの移動速度に慣れているので、彼らの前後を走りつつ、

正直かったるいと思いはするものの、彼らも思いの外のスピードで進む。


自転車のヤマとカメは比較的に野宿初心者であるから、

突然の雨でも何とかなるところがいいだろう。

近くの大きな川と大きな高架道路を地図で探すと、

酒匂川と西湘バイパスが見つかった。


比較的平たい砂浜を探し、雨宿りもできそうな場所をみつけた。

テントの設営の仕方を教えて、俺は買い出しに行くことにした。


「ビールは1人3本まで、おかずとツマミは野菜炒めとソーセージとかでいいか…」


適当なメニューを考えながら、来る途中に見つけておいた地元スーパーから戻ると、

ヤマとカメが2人で眉間にシワを寄せている。


「どうした?テント、立派に出来たじゃん。

おぉ、なるほど、1.5人テントに3人寝るため前室にタープを使って

一人分の寝床を確保したと。

やるじゃん。」


「まあな。ところで、この即席の寝床に誰が寝るかっつー問題が残った訳だよ。

テントの中は暑いが虫刺されはない。

テントの外のタープ下即席寝床は涼しいかもしれないが、

露出した肌は虫の餌食だろう。さて…」


3人は顔を見合わせる。


「ジャンケンだな…ジャンケン…ポン!」


負けたのはヤマちゃんである。


「まあ、気を落とすなよ、ビールでも飲んで楽しくやろうぜ!」


勝った2人は気楽なものだ。

調理担当は俺。


いつも通りバーナーで飯盒炊きを開始し、

暗くなってきたのでガスランタンをつけた。

そして宴会開始である。


「このランタンいいなぁ、ホワッと明るいこの感じが和むよな」


ジャンケンに負けたヤマちゃんも男3人野宿に気分がアガッてきた様子だ。


「俺はなキャンプには焚き火がマストだと思うわけよ。

ガスランタンは合理的だが、雰囲気は絶対に焚き火が上だ。」


カメが熱弁する。


「異論はないけど、焚き木集めたり火をつけたり面倒じゃねえかよ。」


ふふふ…釣りを趣味とするカメが、

釣りの際に頭につけるライトを点けて、

笑いながら何処かに消えた。


残ったヤマちゃんと俺は、プロ野球ナイターを聞きつつ、

バイクの話をしながら楽しくビールを飲んでいた。

不意に後ろでドサッという音がして、


「どうよ!」


という声とともに、大量の流木が砂浜に集められていた。


「おっ、マジで集めてきたんか。んで、どうすんのこれ?」


まあ任せとけ、と言ってカメは流木を器用に組み上げ始めた。

火つけのボロ雑誌まで拾ってきている。

自分がやりたいことは徹底してやる奴だ。

自分のライターを使ってあっという間に立派な焚き火ができた。


「すげぇな、才能じゃん、これ」


見事な手際に驚いたので、奮発してソーセージを2本焼いてやった。


「な?ちょっとガスランタン消してみろよ、雰囲気出るぜ。」


消してみると、確かに素晴らしい。

男3人が焚き火を真ん中に野宿しながら、

野菜炒めとソーセージをつつきつつ、

飯を食いビールを飲む。椎名誠の世界である。


しかし…


「打った〜!原辰徳、ホームラーーン!」


ラジオは消した方がよさそうだった…。

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