第6話 距離感。−2

 体育の授業はこの前にやってたバレーボールの続きをすることになった。

 二人一組で練習をして、来週にあるバレーボールのテストに備える。あんまりやったことないけど、裕翔に教わってるから悪くはないと思う。そして体育館に集まった俺たちはボールを持って、それぞれのパートナーを探していた。


「おい!星」


 すると、裕翔が俺を呼ぶ。


「あ、うん…」

「あの、井上くん」


 裕翔の方に向かう時、後ろから桐藤さんが声をかけてくれた。


「あ、桐藤さん。どうした?」

「一緒にやらない?練習」

「あ、練習か?えっ?桐藤さんのパートナーは?」

「今日は井上くんと組みたい」

「うん…、桐藤さんがそう言うなら。ちょっと待ってて!」

「分かった…」


 こっちにくる裕翔に、俺は桐藤さんと組むことになったと素直に話した。すると、笑いながら背中を叩いてくれる裕翔は嬉しそうな顔をしていた。なんか、裕翔のやつに気遣われてるような気がする。そして後ろから自分を呼ぶクラスメイトに裕翔は「頑張れ!」と言ってからそっちに向かった。


「もしかして、私が邪魔したのかな」

「うん…、大丈夫。裕翔は友達多いから」

「そう?じゃあ、井上くんが私に教えてくれる?バレーボール」

「何か難しいこととかある?」


 なんでもできるみたいに見えたけど、桐藤さんは運動が苦手だったかも。

 そして俺たちはレシーブから始めてボールのやりとりをする。個人的に悪くないと思う、桐藤さん体勢もいいしボールを取るのもけっこう上手かった。どうして、俺に「教えてくれない」とか言ったんだろう…?この人はやっぱりよく分からない…。


 と、思っていた時に桐藤さんが俺に声をかけてくれた。


「井上くん、首筋はどう?まだ痛い?」

「……」


 首筋って言ったら噛まれたところだよな…。

 なんか、桐藤さんに言われただけで首筋がピリピリする。


「あ、うん。大分よくなった」

「そう?よかった」

「それ、昨日送ってくれてありがとう」

「ううん…。ごめん、私のわがままに付き合ってくれてありがとう」

「あ、うん。誰にも言わないから心配しないで」

「優しいね。井上くんは…」


 やりとりをしながら俺たちは昨日のことに対して話をしていた。

 それで意外と桐藤さんが優しい人ってことに気づく、普段には他人に声をかけないから俺は外見で人を判断していたのだ。桐藤さんは声も綺麗し、大人しくてたまに微笑むその顔を可愛く見える。そんな桐藤さんと俺は二人っきりの秘密を作ったのだ。


「あ、桐藤さん。そのお菓子と紅茶、美味かった。ありがとう」

「どういたしまして」


 なんか桐藤さん、穏やかな性格だからな…。

 実際こうやって話してみたら心が楽になる気がした。


「はいー!」


 高くボールを上げて桐藤さんに叫ぶ。


「あっ…!高い」

「桐藤さん!スパイクしてみて!」

「え?うん…!」


 高さに合わせて、その場から飛ぶ桐藤さんは美しかった。

 彼女を姿を見るたび、俺の首筋がピリピしてあの時の痛みを思い出してしまう。


「星!」


 白羽がスパイクを打った瞬間、隣で声をかける裕翔をちらっと見る星。


「いやいやいやいや!前を見ろ!前!」


 桐藤さんがボールを打つ音が聞こえた時、もうボールは目の前にあった。避ける暇もなく、ボールがそのまま顔に当たって俺は床に倒れてしまう。痛みはともかく床に落ちる鼻血が止まらなくて、一応手で止めようとしたけど、鼻血が出過ぎてもう無理だった。


「ご、ごめん。井上くん…、大丈夫?」

「あ、うん。ほ、保健室に行ってくるから…」

「私がついて行くから…、あの、ハンカチで鼻血を止めてみて…」

「星!ごめん…!俺が話をかけて…」

「いや…、大丈夫。保健室に行ってくるから気にしなくていい」

「……」


 桐藤さんからもらったハンカチで鼻血を止めながら保健室に来た。

 椅子に座った俺はハンカチを隣のテーブルに置いて、保健先生に状態を見せる。すると、鼻血が出過ぎて口の中から血の味がした。その時、俺は昨日の桐藤さんが「美味しい」って呟いたことを思い出してしまう。


 吸血鬼は…、そうだろうな…?

 血の味か…。


 それから保健先生に適切な措置をしてもらった。


「はい。これでいいと思うけど、次は気をつけて井上くん」

「あの、少し眩暈がして保健室で休んでもいいですか?」

「うん。そうした方がいいと思う。あそこにベッドがあるからね。じゃあー、先生は今から授業ー。」

「は、はい。」


 そう言ってから保健室を出る先生。

 これを待っていたのか…?そばにいる桐藤さんがいきなり俺の手を持ち上げて、鼻血を拭いたところを舐める。瞳の色が真っ赤になって手のひらを舐めている桐藤さんを見ると、俺も恥ずかしくなってきて、また鼻血が出てしまうような気がした。


「桐藤さん…?」

「あっ…!私、何を…?」

「もしかして、えーと…。血がほしいかな?」


 俺の口で言ったけど、この発言はやばくない?

 すると、その話を聞いた桐藤さんがこっちを見て静かに頷いていた。

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