第4話 出会い。−4

 目が覚めた時、俺は知らない場所で寝ていた。

 ここは夢の中…?薄暗い部屋の天井を眺めながら考える。俺は確かに花守と紅茶を飲みながら話をしていた。それからバイトの時間になって生徒会室を出ようとしたら、急に眩暈をする俺の視野がぼやけたことまでは覚えている。


 もしかして俺、気を失ったのか…?


「……」

「よく眠れたかな?」


 薄暗い部屋の中で聞き覚えがある声が聞こえた。

 なぜか、俺の体が思い通りに動かない…。少しずつ息を吐いてあの声に答える。


「誰、ですか…?」

「あら…?やり過ぎたかな…?もしかして体が動かない?」

「…この声は、もしかして?」

「うん…?井上くんがよく知っている声だよ」

「……」


 なんで…?ここに桐藤さんがいるんだ…?

 どうして…?


 俺は腕に力を入れて体を少しずつ起こしていた。それよりこの感覚はやっぱり変だ…、まるで全身が麻痺されたような感覚。息を切らして後ろの壁に寄りかかると、月を眺めている桐藤さんの後ろ姿が見えてきた。


 もう夜なのか、しまった俺のバイトが…。


「いい夜、だよね」

「…桐藤さん」


 そして外を眺めていた桐藤さんが振り向く。

 今薄暗い部屋の中にいるはずなのに、俺は自分が見たことを信じられなかった。


「どうした…?」


 こっちを見ている桐藤さんの真っ赤な瞳が輝いていた。

 それはまるで…、噂の吸血鬼みたいな瞳だった。そんなことはあり得ないと思っていた時、彼女が近づいてきた。幻なんかじゃない、本当に瞳が真っ赤なんだ…。俺はしばらく桐藤さんと目を合わせて、じっとしていた。


「おはよう…?井上くん」

「……」


 右手で俺の顔を触る桐藤さん。触れている間に、俺は体勢を維持するのが精一杯だった。俺には倒れた後の記憶がない、それで今こうやって二人っきりになった状況がとても気になる。桐藤さんにいやらしいこととか、襲ったりしなかったよな…?でも、彼女はそれに対して何も言わなかった。ただ俺を見つめながら微笑んでいる。


 慌てて心が落ち着かない。


「ごめん。なんか変なことをしたら、ごめん。本当にごめん…」

「なんで謝る…?」

「なんか、変なことをしたかもしれないし」

「何もしていないから安心して?」

「そ、そう?」

「井上くん、ちょっと失礼するね」


 頬を触っていた手が首筋のところを触る時、すごい痛みとともにベッドに倒れてしまった。ただ触れただけなのに、なんで体に力が入らないんだ…?何これ、痛いのはともかく体に力が全然入らない。震える体は倒れたまま、俺は桐藤さんの方を見ていた。


 なぜかピリピリした。


「ねえ…」

「今泉くんと話したことを覚えてる…?」

「裕翔…?」

「うん。教室の中で…」


 もしかして「夜になったら吸血鬼が出るかもしれないからさ。気をつけろよ」と言ったのは…、嘘じゃなくて本当のことだったか。血蘭学院には本当に吸血鬼が…、現れるのか…?じゃあ、桐藤さんがそれを俺に聞いた理由は…。もしかして…?


 何かを思い出した星の表情を読む白羽。


「思い出したの?」


 桐藤さんの静かな声が聞こえる。

 その赤い瞳と透き通るような肌、桐藤さんはもしかして吸血鬼なのか…?


「そうだよ」

「えっ?」


 考えを読まれた。


「井上くん、首はまだ痛いかな?」

「ちょっと痛いけど、これくらいなら我慢できる」

「そうなんだ…」

「それより…。もう家に帰りたいんだけど、タクシーを呼んでくれない?時間も遅いし」

「帰りたい…?」


 冷たい顔をした彼女が俺の体に乗る。

 上から見下す彼女の視線に、俺は圧倒されてしまった。その真っ赤な瞳を見るたび、頭の中が真っ白になって何も思い出せない。一体、俺に何をするつもりだ…?


「うん」

「じゃあ、私の願いを叶えてくれたら家まで送ってあげる」

「願い?」

「うん」

「願いって…?」

「私、もっと吸いたい。井上くんの血が吸いたい…」

「……」


 やはり血蘭学院の生徒会長は吸血鬼だった。

 血に飢えている吸血鬼なんか、本当に存在していたのか…。こっちを見つめている桐藤さんの瞳が俺の心臓を握りしめるような気がした。それに体が震えている。


 綺麗な赤色の瞳…。


「でも、俺が寝てる時にもう吸ったんじゃ…?」

「それが美味しすぎて…、もうちょっとだけ吸いたくて、こんなことやはりダメ?」

「……」


 桐藤さんは人差し指を唇に当てて俺を見つめていた。

 まぁ、吸いたいなら1回も2回も結局は同じだろう…。やらせてあげよう。


「分かった。でも、これで終わりにして?」

「うん…」


 そして桐藤さんの顔がますます近づいてきた。

 体をくっつける彼女からいい香りがする。先に噛まれた部分を舌で優しく舐めながら肌の匂いを嗅ぐ、そして左手で俺と指を絡ませる彼女は耳元でこう囁いてくれた。


「私ね。井上くんが可愛い声で喘ぐのが好き…」

「えっ…?」


 と、言った桐藤さんが俺の首筋を噛んだ。


「あっ…っ…!はぁ…っ…!…えぇっ」


 我慢できない、恥ずかしい声を漏らしながら俺は桐藤さんに吸われていた。

 首筋が痛くなるけど、今は痛みよりすごく恥ずかしかった。だって噛まれるんだとしても、これは桐藤さんとのスキンシップじゃないのか。学院最高の美人が俺の首筋を…、そして彼女から伝わるこの温もりがとてもやばかった。


 それを思い出したら後のことが心配になる。


「はあ…、はあ…、おいひい…」


 彼女は血を吸った後に幸せな顔をしていた。

 信じられないけど、これが俺と桐藤さんのだった。

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