第3話 出会い。−3

 外は薄暗いのにこんな時間まで残っているのか、桐藤さんと花守は…。

 廊下を歩きながら俺は窓の外を眺めていた。血蘭学院の生徒会室は本館の4階に位置しているせいで、別館からは時間がかかる。その間、花守が静寂を破って俺に声をかけてくれた。


「井上も勉強熱心だよね?」

「俺は…、まぁ…。でも、桐藤さんには勝てないから…」

「うちの会長強いでしょう?1年の時からずっと1位を維持してるの」

「そう。本当にすごい人だ」


 階段を上って4階に着いた俺たちは、ちょうど生徒会室に向かっていた桐藤さんとばったり会う。冷たい表情、背筋が凍るような瞳、俺は桐藤さんと目を合わせてしまった。彼女は黒髪のロングで身長は俺より少し低くて、透き通るような白い肌をしている美人だった。言葉でできないほど、クールなイメージが俺に伝わる。


「ひなちゃん…?どうしてここに二人が…?」

「会長!井上があの資料を手伝ってくれたの!へへ…、だからお礼をしたくて!」

「そう…?なるべく略してみたのに、やはり量が多かったよね。ごめんね、ひなちゃん。そして井上さん、ありがとう」


 こっちを向いて頭を下げる桐藤さんに慌てて体が固まる。


「いいいい、いいえ…。だ、だ、大丈夫でふ…」


 しまった…、舌を噛んちゃった。


「あははっ、緊張しないで井上!うちの会長は怖くないからね?」

「あ、うん…」


 ちらっと桐藤さんのところを見た時、彼女は微笑んでいた。今更なんだけど、なぜ彼女が恐怖とともに憧れの対象になったのか分かる気がする。大人しくて、頭もよくて、そして日本の財閥…。俺には桐藤さんが世の中の全てを手に入れた人に見えた。


「入ろう。」

「うん!」

「お邪魔します…」

「ようこそー!血蘭学院生徒会室へ!」


 生徒会室の中はまるでお金持ちの邸宅みたいな雰囲気を出していた。ここが血蘭学院の生徒会室、目に入るもの全てが高そうに見えた。生徒会長の席、その後ろは全面ガラスになって血蘭学院を眺められるように造られた。その席に着いた桐藤さんが机の書類を片付けながら、花守に声をかける。


「ひなちゃん…。昨日イギリスから届いたお菓子もあるから持っていって」

「あ、本当に?ありがとうー、会長!」


 それから席で生徒会の仕事をする桐藤さん、その間に花守が紅茶と先もらったお菓子をテーブルに用意してくれた。見た目で高そうな紅茶とお菓子、ここにいる二人は本当に大富豪なんだ。凡人がこんな場所にいてもいいのかと、いじけてしまう。


「はいはい。飲んでみて!これ本当に美味しいからね!」


 真っ赤の紅茶。

 本当の血に見える赤い紅茶を、俺は一口飲んでみた。


「おっ…?ウッソ。何この味?」

「でしょう?」


 一口飲んだだけなのに、すごく甘くていじけていた俺の心を癒してくれるような気がした。高い紅茶ってこんなもんか、すごい…。すると、花守が桐藤さんからもらったお菓子を俺に食べさせてくれた。


「これも食べてみてー」

「紅茶もお菓子もすごい…」

「でしょう?いつも会長が用意してくれるの!へへ…」

「あ、ありがとうございます!桐藤さん」


 と、桐藤さんに声をかけたら彼女は笑みを浮かべて「どういたしまして」を言う。

 

 それからは花守との雑談をしていた。20分くらいが過ぎた後、俺はバイトがあってその場から立ち上がる。最初は怯えていたけど、実際こうやって話してみたら全部いい人でけっこう楽しかった。


「え、帰るの?」

「うん…、バイトがあって」


 したら、前に座っている花守が惜しむ表情をしていた。


「また、機会があったら…。今日はありがとう、花守」


 二人にあいさつをして生徒会室を出る時、俺の中から何が動いているような気がした。眩暈なのか、視界が全体的にぼやけている。そして歩くのも難しい、一歩を踏み出した時の体がゆらゆらしていた。もしかして、最近無理しすぎてこうなったのか。


 なんか、胸元が熱くなる…。

 それから体もますます熱くなってきた。


「あれ…?井上?」

「……」


 意識が…。飛んでいく…、ような。

 最後まで俺はこっちに近づいてくる二人の姿を見つめていた。そして目を閉じる。


「よく効くよね。本当に倒れた…!でも、これ人間に飲ませてもいいの?白羽ちゃん」


 星の背中を叩くひなが隣の白羽に声をかける。


「うん。人間にはただの睡眠薬、なんの害もないから心配しないで」

「ここからどうするつもり?」

「うん、まずは運んでくれない?」

「特室に…?」

「うん」


 倒れている星を軽く持ち上げて、生徒会室の奥まで運ぶひな。

 特室のベッドに寝かせて、星の顔を見つめていたひながこっそり唾を飲み込む。すると、それに気づく白羽が彼女の口にお菓子を噛ませてこう話した。


「これはダメ…、ひなちゃんはいい子でしょう?」

「あ、うん…。ごめん、白羽ちゃん」

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