第25話

「あの、あなたは……?」

「はっ! 自己紹介が遅れました。私、聖騎士のライリー・ゲイルと申します!」

「そ、そう。ごめんなさい、聖騎士団員の顔と名前は、全員覚えてるつもりだったんだけど……」


 言いよどむ私に対し、ライリーは快活に笑った。


「私、聖騎士団に入団してまだ二週間の新参者ですので、ローレッタ様がご存じないのも無理はありません! 以後、お見知りおきくださいますよう、お願い申し上げます!」


 そっか。

 私と入れ違いに、聖騎士団に入った人だったのね。でも、それじゃ、ライリーはどうして私のことを知ってるのかしら?


 頭に浮かんだ疑問を読みとったかのように、ライリーは大きな声で語り続ける。


「聖女ローレッタ様のことは、聖騎士団に入る以前より、存じ上げております! あなた様は、我がヘンリアム聖王国の誇る、守護の象徴ですから!」


 それまで黙っていた兄さんが、ポツリと言う。


「その『守護の象徴』を、よくもまあ、容赦なく追放したもんだな」

「兄さん!」

「だって、勝手すぎるじゃないか。『出て行け』だの、『帰ってこい』だの」

「それは……」


 確かにその通りなのだが、この、目の前の新米聖騎士が決定したことではないので、彼を責めても仕方ない。兄さんも内心では充分それを理解しているようで、小さく息を吐くと、馬を降り、ライリーに対して頭を下げた。


「すまない、嫌味なことを言った。あんたが決めたわけじゃないのにな。故郷に戻って来た時のローレッタの疲れ切った顔を思い出して、つい、頭に血が上ってしまった。許してくれ」


 ライリーは首を左右に振り、先程までより声のトーンを一段階落とし、語り始める。


「いえ、お怒り、ごもっともです。聖騎士団の先輩方も、結局のところ、エグバート長官に睨まれるのを恐れ、誰もローレッタ様を庇わなかったのですから」


 追放されてすぐの時を思い出し、少しだけ胸が痛んだが、私は努めて笑顔を作った。


「無理もないわ。誰しも、権力を持った者にたてつきたくはないもの。自分の家族と、生活を守らなきゃいけないしね。私は別に怒ってないし、仲間だった聖騎士たちを恨んだりもしてないわよ。ところで、他の団員はどうしたの?」


 聖騎士団員は基本的に三人一組で行動する。

 しかし、ライリーはどう見ても一人だ。


 しばしの間の後、ライリーは絞り出すように、言う。


「ローレッタ様、落ち着いて聞いてください。聖騎士団は、ほぼ壊滅状態です。経験豊富なベテランの騎士たちは、ほとんどが戦死。現在は、私と同じ新米の聖騎士が都の各所に分散し、モンスターを各個撃破して、魔物たちの侵攻をなんとか食い止めている状態なのです……」

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