第9話 白の先頭に立つ者


「なんでこれをスルーできるのよ!」


私、白虎隊隊長・桐ケ谷志希は思わず驚嘆の声を上げた。


「あの古財さん直々のお申し出よ!? しかも内容は麒麟隊への謀反!」


「それはもうわかってるってば~」


隊員のエマは会議室の机に両腕を伸ばし、大きなあくびをする。


「わかった上で、俺たちは隊長に任せると言っているんだ。好きに決めてくれ」


エマの隣で、ダガーを手入れしながらそう言い放ったのはもう一人の隊員・柊。


 場所は白虎隊キャンプ地内にある、小さなリビング兼会議室。その室内の机に私たちは座っていた。というのも、私が2人を緊急招集したためである。なぜって、あの古財さんが私に会いに来てくださったのだから! しかも、


「君は戦術・策略に長けている。我々に君の力を貸してほしい」


とまでおっしゃってくれたのだ! 私は一生あの御言葉を忘れないだろう……ああ、至福。


……とはいっても、相手はあの麒麟隊だ。古財さんの頼みとあらばなんだって引き受けたいし、実際、白虎隊が私だけの隊ならあの場で承諾していた。そうしなかったのはエマと柊がいるからだ。隊長として、2人の安全は確保せねばならないし、彼らの意思も尊重したい。そう思って招集したのに……


「なんで2人ともそんなに無関心なのよ……」


その言葉にエマは首を傾げる。


「ひー君も今言ったでしょ? 僕たちは隊長を信頼してるの。だから、そういう大事なことは隊長が決めて?」


「ああ。俺はエマと戦えるなら相手が誰だって構わない。それが麒麟隊であってもな」


柊はダガーにふう、と息を吹きかける。


「わあ、ひー君ったら嬉しいこと言ってくれるなあ! 僕だって、ひー君となら誰にも負けない自信あるんだからね!」


心底嬉しそうに、エマは上体を横にゆすりながら答える。


「ちょっと、もっと真剣に考えてよ。……死ぬかもしれないのよ?」


「僕たちなら負けないよ?」


「エマの言うとおりだ」


2人の顔には恐怖も不安も一切見えない。


それは、お互いが隣に座る者を信頼しているから……


 エマが机上の作戦書の山をぺらぺらとめくりながら口を開く。


「それより、今日のボツキャラさんもなんてことなかったねえ。僕、そろそろまたひー君の『リンク』、されたいんだけどなあ」


彼がちらりと柊を見ると、柊は「俺も『スカイハイ』使いたいぜ」と頬杖をつく。それが様になっていた。


 普段、敵がそれほど強くない場合は2人の能力を共有する必要はない。共有するとできることは増えるが、特に柊の集中が散漫になってしまうためである。


エマの能力・スカイハイは彼に一度触れられさえすれば、その人物も空中を自分の意志で自由に動ける。


それに対して、柊の能力・リンクは彼の視界に入っているもののみがテレポートできる対象となる。その代わり、テレポート先に制限はない。


つまり、目の前にいるエマをブラジルにリンクさせることは可能だが、ブラジル人を目の前にリンクさせることは不可能、柊の背後にいる人にリンクを使うことも不可能、というわけだ。戦闘中、常にエマを視界に入れ続けるのはなかなか難しい。



「リンク」はあくまで柊が使うものであり、エマは自分の意思と関係なく戦闘中に「リンク」されていることになる。自分の意思で行っているわけではない「リンク」に合わせた動きができるのは、柊の思考をよくわかっており、また彼を信頼しているからこそである。


そのため能力の共有は非常に強力だが、先ほど述べた理由から強大な敵以外に対しては能力の共有はしない。各々が各々の能力で戦うのだ。


私は無線を使って2人それぞれに指揮を送る。聞いてくれない時もあるが……


それが白虎隊の戦闘スタイルだ。


「任務と訓練時以外の能力使用は禁止されているの。何回も言っているでしょ? 2人ともそういうところ気にしないんだもん。いつか痛い目見るわよ」


柊がキッと睨んでくる。


「俺たちはへまはしない」


「でも、今日の任務だって私の指揮通り動いてくれなかったじゃない?」


申し訳なさそうな顔でエマが口をはさむ。


「それは本当にごめん。戦ってると楽しくなっちゃって……」


それをさらにたしなめようと私が口を開くより先に、柊が割って入った。


「別に謝ることじゃないだろ。結果上手くいったんだ。隊長の戦略がすごいことはわかるが、俺たちだって戦闘には慣れている。ある程度自分でも考えられる」


そのまま立ち上がり、柊は


「戦闘は俺たちが請け負うから、代わりに難しい決断なんかは隊長に任せる。それでイーブンだろ」


と言い残し、部屋を出ていった。


「ちょっと、ひー君! 隊長の話は最後まで聞かなきゃ!」


エマも彼を追って部屋を去る。


私は一人、部屋に取り残された。



いつも、こうだ。



信頼されているような、されていないような。ただ利用されているだけのような。


膝の上の拳をぎゅっと握りしめる。




私、隊長なのに。



あとがき

最近、1話当たりの文字数を減らしてみてます。ですので、終了日に間に合わせるために、今後一日に複数話アップすることもありそうです。これからもよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る