第6話 再生能力

 刀を突き刺した瞬間、小太郎の体が文字となりゆっくりと霧散していく。


その様を静観していたピエトロが「なるほど」と唇に人差し指を当てながら呟いた。堂本が振り返る。


「でも隊長、人を再生させたことあるのですか?」

「ない」

「でも可能性に賭ける、と?」


俺はそれに答えなかった。


小太郎の体がほとんど消え去り、残るは頭部のみ。その顔を静かに見つめる。


「いい賭けですね。私、嫌いじゃありませんよ?」


「……黙れ」


いよいよ頭部も完全に消えた。


体内に、再生できそうな何かが新しく芽生えたのを確かに感じる。俺は瞳を閉じ、小太郎の笑顔を思い返した。全身に力を籠める。


再生させてくれ。


「ほお」


ピエトロの声が耳に入り、俺は目を開けた。そこには、



骸骨。



佐々木が繰り出していた、あの骸骨が俺を見据えて立っていた。


「これは佐々木君の能力、ですね? 再生できたのは能力だけということでしょうか」


ピエトロが骸骨に近づき、それを眺めまわす。


「つまり、本人を再生することは隊長にも不可能という……」


途端、ピエトロが後方に吹っ飛んでいった。俺の息はいつの間にか上がっていた。突き出た拳がじんじんと痛む。


「何するんですか隊長~? 事実を確認していただけでしょう?」


ピエトロは頬をさすりながらこちらに顔を上げた。その顔は「本当になぜなのかわからない」という純粋な疑問を表していた。


「黙れ!!」


怒鳴った自分の声が辺りを震わせた。


「隊員同士の暴力は厳罰対象です、古財隊長。お収めください」


堂本の凛とした声が俺を制する。収める? 何を? 脳内には、小太郎の顔が溢れかえっていた。たった数日の付き合いのくせに、いくつも顔が浮かんでくる。初めて会った時の輝くような顔、入隊パーティーでのはじける笑顔、キキの武器説明を真剣に聞く顔、ピエトロとのカジノゲームに負け悔しがる顔、訓練時の集中している顔、俺の名を呼ぶときの、期待にあふれた顔……


俺は地面を殴った。何度も殴った。もはや痛みは意識外へ消えていた。地面に雫がこぼれる。のどが震える。誰かの叫びを、遠くで聞いた。




 1か月が経った。麒麟隊との面談はなかなか取り付けられず、こんなに遅くなってしまった。俺はまたあの会議室の円卓の、佐々木が座っていた席に座っていた。目の前には真っ黒なモニター。


「それで? 聞きたい事とは何かな、古財君?」


新藤隊長の声が問う。俺はまっすぐモニターを見据えた。


「なぜボツキャラを殺さないといけない?」


「なぜ、とは?」


「被害出す奴もいるが、全員じゃないだろ。それなのに、なぜ『全員殺せ』と命令する?」


「君が入隊した時に説明したと記憶しているが? 我々はボツキャラの全てを知り得ない。誰が有害かわからんのだ。なんの能力も持たないふりして、人類の虐殺を狙う者がいてもおかしくない。それを未然に防ぐための命令だ」


「……でも、何か方法があるだろ。奴らだって生きてるんだぜ?」


ハッ、と新藤隊長の笑いが漏れる。


「ボツキャラのくせに何が生きている、だ? ボツキャラは生みの親にさえ捨てられた者だぞ」


途端、耳鳴りがした。


新藤隊長への、麒麟隊への不信感が高まっていく。一つ空気を呑み、吐き出してから口を開く。


「だいたい、あんたら麒麟隊はなぜ俺たち隊員にも姿さえ見せない? 秘匿情報が多すぎやしないか?」


「我々麒麟隊が崩壊すれば、塵芥会もまた崩壊する。そうなれば、三次元への被害も発生する。いくら隊員といえど、力を持つ君たちには尊敬と畏怖の念があるのだよ」


「俺たちのことを信用してねえってことか」


「人聞きが悪いな」


「……あんたら、俺たちに何かもっとでかいこと隠してるだろ?」


「なぜそう思う」


「『天才』の勘さ。俺もあんたらを信用してないんでね」


「嘆かわしいな」


全く感情の読み取れない、平坦な声だった。


「何か俺たちを信用させられるようなこと出来んのかよ? 出来ねえだろ」


「ふむ。隊員からの信頼確保は確かに要懸案事項だな。しかし、我々もなにかと多忙でね。期待に応えられるかは明言できない」


「ああ。いい、いい。麒麟隊様はいつだって御多忙さ」


「だが、これは約束できる。我々麒麟隊、塵芥会は三次元にとっても、君たちにとっても有用な存在だ。そしてその隊員として働く君の行動は決して間違いなどではない」


今度は俺がハンッ、と鼻で笑う番だった。


「そりゃ光栄なこった」


「……言いたいことはそれだけかな? 時間は有限なものでね」


「ああ、もう充分だ。貴重なお時間をいただきまして、ありがとーございました」


ぺこり、と馬鹿らしい礼をする。モニターの電源が切れる音がした。


顔を上げる。ぼんやりと宙に視線をやる。会議室は静寂に沈んでいた。




あとがき

今回は短めになりました。このくらいだと読みやすいのでしょうか。


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