第3話 再開

昏い闇の淵。

辺り一面真っ暗な闇の中。幻想なのか、それとも現実なのか、それすら曖昧な景色。

ただか細く、奥に一条の光が差しているのが見える。そこに向けて俺らしきものが走る。

腕には何かを抱えている。その正体を見ている暇はない。

ただその光が頼りとばかりに、がむしゃらに走った。

か細い光は近くなる程、遠近法で段々と太くなる。

もう手が光に届く距離までやってきた。

その瞬間────────、


空が、堕ちてきた。


「おにぃまじで何してんの?」

また頭でもおかしくなった?と心配そうな目で妹は俺の真上を見ている。俺もつられて上を向くと、なぜか俺の腕が天に向かって伸ばされていた。いや、俺が伸ばしていた。

確かに何してんだろ、俺。

「まぁいいや。朝食は作っておいたから、早く食べよ」

莉沙は下の階に降りていった。

「…………」

昨日の記憶は覚えている。

今でもあの化け物の恐ろしさに体が震える。

同時に助けてもらったあの顔も覚えている。

青鬼に殺されそうになったところを大城まひなに助けられた。そのまま疲れた俺は倒れてしまって、それで─────、

「どうやって帰ってきたんだ?」

身体を軽く動かす。ところどころ小さな痛みはあるが、昨日ほどの痛みはない。

上着をまくり上げる。

あばらが何本か折れたと思っていたが、そんな気配はない。

目立った外傷も出血も昨日のことが夢だったかのように、全てなくなっている。

人間の回復能力では、こんなことはあり得ない。

となると、あれはただの夢だったのか。

いや、予知夢以外の夢はここ一年観たことはない。

仮にただの夢だったとしても、夢にしてはあまりに印象的すぎる。

それになにより、身体に少し残った節々の痛みと憂鬱な気分が、現実の出来事だったと物語っている。

「とにかく日常に帰ってきた。戻って来れたんだ」

そう思って安堵したせいか、腹の音がなる。

「………腹減ったな」

腹が減っては戦はできぬ、だっけか。

昨日の昼食以降何も食べてないため、腹が減ってまともに考えることもままならない。

それに学校もある。もたもた考えてる暇はない。

「考えても仕方ないし、朝食食べるか」



食卓を囲う時は、いつだってみんなが心からの笑顔であって欲しい。俺はそう切に願っている。

「ん、で?おにぃは愛しの妹が夕食を作っている間いったい、どこをほっつき歩いていたの?」

愛しの妹はニコッと笑顔で、俺に詰問する。

心なしか目が笑ってないように見えた。

朝食は建前で、本当の目的は問い詰めることだったらしい。別に、やましいことは何一つない。が、あまりの覇気に思わず狼狽えてしてしまう。

「すんません」

「謝罪じゃなくてわたしは理由が聞きたいな」

こわ。やはり我が妹は俺なんかいなくても一人で生きてけそうな気がしてきた。

「ちょっと……その、ね。そう!友達と遊びに行っ────」

「ん?おかしいな?これはなんだろう?」

妹が丁寧に折り畳まれた紙片を机に転がす。

「─────!?」

紙片を開くとそこには、『明日、武道場まで来てくれないかしら』と書かれていた。

場所から察するに果し状ともとれるが、語尾や、筆跡の綺麗さから女性のもの───つまりラブレターともとれる。

こんなもの渡された覚えも、拾った覚えもない。

「ポケットに入ってたけど、これはどういうことかなぁ〜?」

これはいけない。なんなら、昨日よりヤバい鬼がいる。

キャバクラに行ったことがバレた夫の気分だ。

もし生き残れたら、これを入れた犯人をしばき倒そう。

だが、まずは生き残る方法を模索するしかない。とりあえず…………本当のことを話そう。

「実は……青い化け物に襲われてそれどころじゃなかったんだ」

「もうちょっとマシな言い訳あったよね」

心外だ。事実なのに。

「そもそもなんでそんなに怒ってるんだよ。夕食なら冷凍保存しとけば保つだろ」

このままではまずいと少し逆上して、思ったことを口にしたが、その一言で莉沙の雰囲気が変わった。

「…………はぁ、馬鹿なのかな。心配はするでしょ。それに、ごはんは一緒に食べた方が美味しいでしょ」

そう言うと、莉沙は寂しそうな顔をした。

……確かに、これは全面的に俺が悪いな。

心配させた上、一緒に食べるのを楽しみにしながらごはんを作ってくれた人の気持ちを、蔑ろにしてしまった。

「………すまん」

「まったく、おにぃは。………昨日の麻婆豆腐のあまりなら、朝食のパンに挟んであるから」

「あぁ、いただく」

トレイに乗せられサンドイッチに、せっかちにかぶり付く。

昨日から待ち望んでいた念願が叶った。

口の中で辛味と旨味がバランスよく絡みついて、その後段々と辛さが増していき…………て、

「辛ぁぁ!!」

何だこれ!?辛味が増え続ける一方で、止まる気配がないぞ!

「ぷぷぷ!」

さっきまでの顔が演技とばかりにコロッと笑顔になり、笑いを堪えながらこちらを見つめている。

「こいつ!」

ヤバい。喉が焼ける。辛い物は大体いけるクチだったが、これはダメだ。何を入れたんだよ!

「これで昨日の件は帳消しにしてあげる。あ、わたしもう家出るから。今日は早くかえってきてね〜」

わざとらしく家を抜けていく。そんなことより水を飲まねば。このままでは本当に救急搬送されそうだ。

「覚えてろよ!!」

それから喉の痛みが治まるのに、本格的に薬とのど飴を服用してから三時間かかった。




「昨日は助かった。よくやってくれた」

「ほんとですよ。マジで疲れました」

放課後の生徒会室。この日大城まひなは授業に出なかった。

大城まひなは病弱という理由で学校をたびたび休んでいる。

仕方なく、これがおわったら武道館に向かうことにした。

現在俺は昨日の残業の件で、会長から労われていた。

「礼としてはなんだが、これからラーメンでも食いに行くか?奢るぞ」

見かけによらず、意外と人付き合いはいいのだ、この人。

「あー、ありがたいですけど、これからちょっと用事があるんですよね」

「何だ?彼女か?」

会長が冗談めかして聞いてくる。割と的を射てていて困る。

「まぁ、そんな感じですね」

「嘘は良くねぇぞ」

「決めつけも良くないですよ」

今日は朝から疑われる続ける厄日なのだろうか。

「とりあえず俺もう行くんで」

「清峰」

ドアノブに手をかけた瞬間呼び止められる。隠していることがバレたかとびくりと体が震えた。

「無理はすんなよ」

どうやら杞憂だったらしい。

「全然、大丈夫ですよ」

「そうか。昨日の寝不足の件もあるからな。生徒会にこれ以上迷惑かけるなよ」

「了解です」

今度こそ出ようとした時─────、

「あ待て。もう一つ」

なんだ?やっぱり見抜かれたか!?

「昨日出版社と話し合って新本の出版が決まってな。今度原本のコピーを渡す。気が向いたら軽く一読しろ」

「わ、わかりました。では失礼しますね」

隠し事はあまり良くない。それを精神的疲労という出費で経験した。



俺はそのまま武道場に向かった。

化け物に遭遇した話はしなかった。

理由は信じてもらえないからではない。

むしろ会長なら、おそらく俺の話を信じてくれるし、より適した判断も下せる。

だが─────、

「何か引っかかるんだ」

今日の朝のことを思い出す。

教室のドアをくぐった時は、目を見開いた。


"何も起きていなかった"のだ。


いつも通り。なんのへんてつもない日常。

崩された机のバリケードもなければ、歪にひしゃげたロッカーも存在しない。

まるで昨日のことが夢だったかの如くだった。

一応職員室にも向かった。

しかし、教室と同じく、特にこれといった破損は見られなかった。昨日会った小林先生にも尋ねた。

すると、

「昨日はあのまま9時まで仕事をしていた」

そう言われた。嘘をついているようではなかった。

つまり、一般人にも公共にも、俺以外にまだ被害が出ていない。

被害が出てから、と言うつもりはないが、待ち合わせ場所に行ってからでも遅くはないと俺は踏んだ。

ポケットの中にある紙切れを握る。

昨日あれをポケットに入れる隙を見せたとしたら、大城まひなぐらいしかいないだろう。

とにかく大城まひなと会って、青い鬼の謎を聞いて、それからどうするか考えることにしよう。


   ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


武道場は体育館並みに広い。

しかし、建て替えは開校以来一度もされてなく、設備も古いし、何よりオンボロだ。

そのせいで生徒会は、そこで部活をやっている生徒からの建て替え所望が後を絶えない。

沢山の声が中から聞こえる。

「確か、剣道、柔道、フェンシング部なんかが利用してるんだっけ」

中を覗いてみる。熱気が立ち込めていて蒸し暑い。

下手したら外より暑いかもしれない。

奥で柔道や剣道が稽古に勤しんでいる。手前では、白いユニフォームを着込んだ部員が練習試合に励んでいる。

「うへぇー。暑い中よくやるなぁ」

「だろぉ。今の室内温度は38度もあるんだよぉ!」

独り言に、背後からうんうんと声が返ってきた。

後ろを振り向く。

熱い光の灯った目。ひとつ結びにした栗色の髪。身長は俺よりも高い。三年の先輩だろうか。

夏で先輩方は全員引退を済ましているはずだから、おそらく顔を出しに来た形だろう。白いユニフォームを着こなし、ヘルメット大のマスクを抱えているその姿は、なかなかサマになっている。

「この時期に新入部員かい?」

「いえ、そういうわけでは」

「なんだい照れるなよぉ。別に恥ずかしいことではないぜぇ」

ぐいぐいくるなこの人。それはそれとして、なんで俺の言葉はそんなに信用されないんだろう。そろそろ人間不信になりそうだ。

「不躾ながらお聞きしますけど、女性ですよね?」

「女性に性別を聞くなって習わなかったかい?」

「すいませんなんでもないです」

身の危険を感じたので即座に謝罪した。そろそろ本題に入ろう。

「えっと、美人で金髪の可愛い女子生徒はいらっしゃいますか?」

「そんな男の夢想の女性がいるわけ……ああ、いるいる。いるわ。それ多分まひなんのことだろ。あの子なら……ほらあそこ」

指を差した方向に顔を向ける。

丁度試合中のようだ。

左側の選手は肩幅や身長などから察するに男性だろう。鍛えられた肉体が服の上からでもわかるいい体つきだ。

対して、右側にいた選手が目にも止まらぬ速さで動く。

「速い!」

思わず言葉が漏れた。

間もなく間合いが縮みきり、突き出した剣先が相手に触れた。

それと同時に、機械音がピーと鳴り響く。

おそらく今ので点が入ったのだろう。

突かれた男は呆気に囚われていた。

無理もない。

あのスピードでは、素人目線だが、防ぎようがないと感じた。

今のでゲームセットらしく、剣を交わしながら、被っていたフェンシングマスクを取り外した。

「………」

絶句した。改めて見ても、凄い別嬪さんだ。

昨日も見たその顔は、湿気のせいかさらに髪と肌に艶が掛かってるように見える。

「負けた方はあれでも校内の男子の中で一番の実力者だったんだけどなぁ」

左側の選手がトボトボと、うな垂れながらレーンから外れる。悲壮感が漂っていた。

「おーい!まひなん!お客さん!」

先輩が少女を大声で呼び出す。

呼ばれたまひなはびくりと体を震わせこちらを振り向くと、そそくさと早歩きで近づいてきた。

「あまり武道場で大きな声を出さないでください。それとその呼び方はやめて下さい。恥ずかしいです美咲先輩」

「むー、いいじゃない。減るもんじゃないし」

美咲先輩と呼ばれた先輩がまひなに抱きつく。

「あっこら、やめてください!まったく。元部長としての威厳がなくなってしまいますよ」

「え、先輩部長だったんすか」

「キミ、アタシをなんだと思ってたのさ」

てっきり引退後後輩を茶化しに部活に顔を出した嫌な先輩とばかり思っていた。

「名前は夢沢美咲。フェンシング12代目部長だよ!今後ともよろしくだぜ!あ、ちなみに13代目部長はさっき負けちゃった子だよ!」

その部長さんこそ、さっきの試合で威厳がなくなってしまったのではないのだろうか。

まひなに目線を向ける。こちらに気づいて、

「ん、来てくれたね」

そう言って目を細めた。いつもと同じ聞き心地の良い声だ。

「ああ、言われた通り来たぞ」

「………ん?言われた通り?」

まひなが不可解な顔をする。

「手紙だよ。お前じゃないのか?これをポケットに入れたのは」

ポケットから手紙を取り出す。

「いえ、私のものじゃないけど……」

どういうことだ?この子じゃないとなると、残るのはあの保健室の子だ。

………あの子が入れた?なぜ?

「清峰氏、清峰氏」

突然美咲先輩が声をかけてくる。

「その呼び方やめて下さい。で、なんでしょう?」

「私ってお邪魔虫っぽい?」

まひなが少しそわそわしている。

流石にこの場ではあの話はできまい。

「まぁ、包み隠さず言えばその通りですね」

「………!!ついにまひなんに彼氏さんが………!イエス・マム!あとはごゆっくり!赤飯炊いて待ってるぜ!あ、清峰氏。入部届、待ってるぜ!」

何か察したのか、そう告げると美咲先輩はその場から立ち去る。多分、いや絶対何か勘違いしてる。

嵐の後の静けさとはこのことだろう。

………まさに嵐のような先輩だった。



「ここではなんだし、場所を少し変えましょう」

そうまひなに言われて教室に場を移した。

教室には誰もおらず、二人きりとなった。

「今日は何で授業を休んだんだ?」

「たまたま都合が合わなかったのよ」

そう言って、はぁとため息を吐いた。

とりあえず適当な席に向かい合うように座った。

「じゃあ、まひなん」

「それは………流石にやめてほしいわ」

少し顔を赤くして懇願してくる。

やはりこの呼び方は恥ずかしいようだ。

何より自分もこれを公然で呼ぶのは憚られるので、今後とも今まで通り大城と呼ぶ。

「それじゃあ単刀直入に言うわ」

まひなはさっきまでとは違う、昨日のような真面目な顔に切り替えて、

「私に手を貸してくれないかしら?」

と真剣そうに問いかけてきた。

まさかの頼みに衝撃を覚える。

「……それはあの青い鬼と戦えってことか?死ぬぞ、俺」

「勿論直接戦わせたりなんてしないわ」

「なんで俺なんだ?昨日見た通りだが、俺は非力だぞ。できるのはせいぜい囮とかだぞ」

「清峰くん。あなたを選んだのはグゼンと遭遇してしまったから。あの怪物──グゼンは一度会った人間に執着する習性があるの。あ、ちなみにお願いしたいのはその囮よ」

本当に囮かよ。

しかし、それなら理にかなっている。

俺を囮にすれば、あの化け物は俺に釘付けになる。

おそらくその隙をつくのだろう。

「それにしても、本当に俺なんかでいいのか?学校に残った人が襲われると知りながら、逃げたんだぞ」

「人間そんなものよ。正義感だけでリスクを冒すのは難しいわ。だから、わたしもタダでとは言わない」

まひなが一拍置く。

「危険な役割なのだから、勿論報酬ははずむわ。私のできる範囲で、なんでもするつもりよ」

「なんでもって………」

あんまり健全な男子相手になんでもするとか言わないでほしい。妄想が膨らんでしまう。

「手伝う手伝わない以前に、いくつか質問をしていいか?まだ状況が飲み込めてないんだ」

まひなは構わない、と質問を促した。

「じゃあまず、あの化け物はグゼン……だったか、アイツはなんなんだ?」

「そうね、まずはそこから説明しましょう。ヤツら───グゼンは玉手箱を追い求めてこの街で人に害を及ぼす怪よ。基本的にはあの怪域からは出れないんだけど、誘い込むことは出来る。その被害に遭ったのがまさにあなたよ」

「待て。"ヤツら"ということはグゼンはあの青い鬼だけではないのか?」

「その通りよ。鳴りを潜めているだけで、グゼンは他にもこの街にいるわ」

バッサリと言い切った。

正気か?あんな化け物がこの街に何体も?

冷や汗が出てきたが、とりあえずは質問することに集中する。

「じゃあ、次。怪域ってなんだ?」

「怪域は現実世界の一部を模倣したグゼンが巣食う領域──今回だと校内を模倣して切り取った、世界から外れた領域よ。人を神隠しに誘う常識から外れた絶対領域。それが怪域よ」

なるほど。

現実の教室が壊れていなかったことに説明がつく。

そして、あの時模倣しているのは校内だけだったからこそ、外に出れば現実に帰ってこれたのか。

「そういえば内側からグラウンドが見えたんだが、あれはどういう事だ?」

「見えたのは錯覚よ。それはただ内側に映しだされた光景だわ」

なんとなくは理解できた。

「あとは……人に害をなす、って言ったがそれは、もしかして喰ったりとか?」

思い出したくない、ヤツに喰われそうになった事を思い出す。正直忘れたい。

「その通りよ。グゼンは食事を目的に人間を襲う。おそらく人間と同じで食べなければ衰弱死しちゃうんでしょうね」

喰われそうになった瞬間の青い鬼の顔を思い出す。

いまいち表情を読み取れなかったが、少し痩せ細っていた気もする。

「そして一番厄介なのが、喰われた時よ。グゼンに喰われたら、"その人に関する記憶がみんなからなくなる"のよ」

「──────!」

ぞっとした。

記憶がなくなるということは、それは本当の無であり、その人の人生という物語の否定だ。

到底許されることではない。

つまり、もしあの時喰われていたら、誰もかれもが俺のことを忘れてしまったのか。

それは─────なんとも虚しい。

「そのせいで、この街が危機的状況だということを誰も察知できない。本当に、タチが悪いわ」

まひなが眉を傾けている。怒っているのが見て取れる。

なるほど。今まで行方不明事件が表に出てないのは、"もう誰も被害者のことなんて覚えていない"からだ。

なんて報われないんだろう。

俺たちは被害者を悼むことさえ出来ないのか。

「じゃあ、気を取り直して、次。一番気になった単語。グゼンが追い求めてる……玉手箱っだったけか。そいつはなんだ?」

……………玉手箱。

子供の頃に聞いた御伽噺の浦島太郎を思い出す。

───────亀を助けた太郎は竜宮城に招待され、夢のような素晴らしい月日を重ねた。

しかし、ふと陸に住んでいるお爺さんとお婆さんが心配になった。

その旨を姫に伝えたところ、玉手箱を渡された。

それを手に帰った太郎は、変わり果てた陸を見て、絶望した。

びっくり仰天竜宮城の1日は、陸の数年間に値するものだったのだ。

当然お爺さんもお婆さんもこの世にはもういなかった。

孤独になった太郎は受け取った玉手箱の紐を解いて開けた途端、白い煙に包まれた。

煙が消え去ると太郎は白い髭を蓄えたおじいさんに変身してしまったていた。これでこの物語は幕を閉じる──────。

「玉手箱が欲しいなんてあの化け物、おじいさんにでもなりたいのか?」

「え?………あ!言葉足らずだったわね。わたしが知ってるソレは、あなたの想像より幾分か違う代物よ」






























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