第二十九章 色部医師

電話の呼び出し音が、さゆりを現実に戻した。

卓也からの電話かと緊張して受話器をとった。


何と言えばいいのだろう、どうすれば男を引き止められるのだろうか。


「もしもし・・・」

さゆりはかすれた声で言った。


すると、女の想いを打ち破るかのように大きな声がした。


「もしもしー、僕、誰だかわかるー?

そうー、高田のオジ様ですよー・・・。


今、広子たんのマンションに来てるのー・・・。

僕達あれからすぐ籍だけ入れてねー、一緒に住んでるのー・・・。


僕んち汚いし、狭いから広子たんちにずっと居候してるんだー・・・。

まだ雑誌も準備中だから、今日も会社休んでイチャイチャしてるんだー」


(人が緊張しまくって、とったら・・・

こ、このオッサンはー・・・)


一瞬、怒りで顔が引きつったが、すぐ卓也の事が思い出されて力なく答えた。


「そう・・・ですか・・・・」

涙があふれて言葉が出なかった。


高田はさゆりの反応が不審に思い、広子と代わった。


「もしもし、広子です、ごめんなさいね、まだ寝ていた?

ローマから帰ったばかりだし、疲れているのに・・・。

もしもし・・・さゆりちゃん、どうかしたの・・・?」


広子も、さゆりが心配になり声を大きくしている。

受話器を握り締めて聞いていたさゆりは、今まで耐えていたものがセキを切ったように泣き出して叫んでいた。


「広子さんっ・・・

卓也さんが・・・卓也さんが・・・死んじゃうの・・・。


ど・・・どうすればいいの・・・

う・・・うえーん・・・ふえぇーん・・・」


受話器の向こうから絞り出すような悲痛な泣き声が、高田の耳にも聞こえてくる。


「もっ・・もしもし・・・

さゆりちゃん聞こえる・・・・・・?


何があったの・・・?

電話じゃ、よくわからないわ。

すぐそっちへ行くから、待っているのよ。


ここからなら十五分ぐらいで着くから・・・」


二人は、さゆりに書いてもらった住所を頼りに車をとばした。

メモの住所の所にある、ベージュ色のマンションが目に入ってきた。


「ここだわ・・・マンションの名前も合ってるし・・・」


部屋のチャイムを鳴らすと、今も泣いていたのか目を赤く腫らしたさゆりが出てきた。


「さゆりちゃん・・・」

広子がさゆりを抱きしめると、すがりついて泣き出してしまった。


二人でなだめ部屋に入れるとさゆりは泣きながら説明したあと、日記の最後のページを広子達に見せた。

読み終えると、高田が舌打ちして言った。


「あの野郎、一言俺に相談すればいいものを・・・。

それで、あいつの家には連絡したのかい?」


さゆりは広子に渡されたハンカチで涙を拭きながら、咳き込むようにして答えている。


「あれから・・・すぐ、名簿の電話番号を探したの・・・。

でも、使われて・・・いません・・・て・・・

ううっ・・・くぅっ・・・」 


広子はさゆりの髪を優しく撫でて言った。


「そう・・・きっと、全部処分して出ていったのね・・・。

その住所の所も引っ越しているでしょうし・・・」


しばらく沈黙が続いていたが高田が口を開いた。


「でも、とにかく奴が電話をかけてくるまで時間があるんだし・・・。


その住所の所に行ってみよう。

何か分かるかも知れない・・・」


まだ朝の九時だった。

急いでとばせば、十時には帰ってこられるだろう。


そんな遠い住所ではなかった。

とりあえず、二人はさゆりを抱きかかえるようにして車に乗った。


さゆりは日記を抱きしめ、広子の肩にもたれていた。

バックミラー越しに二人を見つめながら運転している高田は、心の中で叫んでいた。


(何だっていうんだ・・・ちきしょうめ・・・・。

だから、あいつ空港であんな事言いやがったんだな・・・

死ぬなよ・・・バカヤロウ) 


心なしか風景がうっすらにじんでくる。

車は猛スピードで駆け抜け行く。


やがて川沿いの大きな道路の前で止まった。

高田は交差点にある交番に寄って場所を聞き戻ってきて言った。


「この住所だと、あの建物なんだってさ」 

三人が見上げると、病院の看板がかかっている建物だった。


「そうか、あいつめ入院先の病院の住所を書いたんだな。

もしかすると、あいつの病気の事がわかるかもしれないな。

うまくすれば、治療方法とか何か手立てがあるはずだ・・・」 


わらにもすがるような気持ちで三人は病院に入っていった。

受付で大西卓也の名前を告げると、事務員が名簿に見つけてくれた。


ひとまず三人は安心した。

名前は偽名ではなかったのだ。


色々聞こうとしているところへ、一人の医師が近づいてきて卓也の名前を聞くと、三人を不思議そうにながめて言った。


「失礼ですが、大西卓也さんの御親戚の方ですか・・・?」


真面目そうな医師であった。

さゆりは思いつめた顔で言った。


「卓也さんは・・・卓也さんは本当にガンなんですか・・・?」

医師はため息をつくと、困ったような表情で言った。


「やっぱり・・・ご存じでしたか。

では、ちょうどいい、こちらへおいで下さい」


男は背中を向け歩きだした。

三人は慌てて、その後ろをついていく。


病院特有の消毒くさい匂いが三人を重い気持ちにさせていた。

男は診察室の一つの扉を開け、三人をうながして入っていった。


高田が最後に入って扉を閉めるのを見ると男は引き出しからファイルを取り出し、レントゲン写真をはりつけ電気を点けた。

再びやりきれない表情で、ため息をついて説名しはじめた。


「これが大西さんの胃のレントゲン写真です。

ここに影がくっきり写っています・・・」 


さゆりはその写真を見て気が遠くなりそうになり、広子に支えられた。


(や、やっぱりガンだったのね・・・

卓也さん・・・ひどいわ・・こんなのって・・・) 


涙が溢れてくる。

広子は、さゆりの手を強く握ってあげた。


血の気がひいたのか冷たくなっている。

医師は又、困った顔をしてもう一枚写真をはった。


「それで、これが再検査の時の写真です」 

高田が大きな声を出した。


「あれ・・・影がない・・・きれいになってる・・・?」

医師は又ため息をついて言った。


「そうなんです。

あの患者が何を勘違いしたのか想像はつきますが、

さっきあなたから言われてピンときましたよ。


僕が出張でいない間、勝手に退院していたので不思議に思っていたのです。


まあ、胃潰瘍の方もほとんど治っていたし・・・

だいたい、あの男は元々胃潰瘍という程のもんじゃなかったんです。


ちょっと仕事がたまって・・・

あの性格だし、神経性の胃炎だったんですよ。


しかも、あの大食漢だ・・・。


食べ過ぎですよ。

ストレスからくる過食症!


一枚目の写真で影が写っていたのも、検査前に何かつまみ食いしたのでしょう。

一日、食事を抜くのをガマンできなかったんですな・・・。


だいたいの見当はついていたから、脅かすつもりで深刻そうに写真を見せたら案の定、再検査では飯が喉を通らなかったみたいで・・・。

ご覧なさい、きれいなものだ、私の胃なんかよりよっぽど健康だ・・・」


三人は医師の言葉を目を丸くして聞いていたが一瞬の沈黙の後、高田が声を出した。


「じ、じゃあ、あいつのはガンじゃなくて・・・ただの・・・?」

医師が不愉快そうにきっぱりと言った。


「食べ過ぎです」


さゆりは全身の力が抜けて膝をついてしまった。

広子もヘナヘナと座り込んでしまった。 


「とにかく一度本人を連れてきて下さい。

人騒がせもはなはだしいと・・・。


一人で考え込んで、自殺まで考えていたとしたら大迷惑だ。

連絡をとろうにも会社でも分らないと言うし寮にもいないし、こっちはずっとイライラしてたんです。


ええっ・・・・?

わかりますか、私の気持ちを・・・」 


医師は興奮気味に、高田に向かって叫ぶようにして話している。

高田は男の手をとり、強く握り締めて大きな声で言った。


「そ、そいつあー何とも・・・

ええ・・・約束しましょう・・・あの人騒がせ野郎を。


きっとここへ連れてきて謝らせますよ・・・。

ちきしょうめ・・・心配かけやがって・・・。


食い過ぎだとぉ?


ハッハッハッ・・・・

そういやあ、あいつ胃が痛いとか言って、

スパゲッティ、バクバク食ってやがったなあ・・・」


高田はよほどうれしいのか、医師の手をブンブン振り回している。

さゆりは広子に支えられながら空ろな瞳で微笑んだまま、涙を流していた。


広子もさゆりの髪に頬をあてて、顔をくしゃくしゃにしている。

窓の外では太陽が高く昇り、強い日差しを部屋におとしている。


ツバメが一羽まった。

これが神様の返事なのかと、さゆりは小さな手を胸にあてた。


何にせよ、卓也は死なないのだ。

男は、生きられるのである。


空の向こうのローマに男はいる。

さゆりは再び男を待つ事ができるのだ。


さゆりは神に感謝した。

これからは神様を信じるとことにしようと思った。


卓也の勘違いにせよ、男を女の元へ返してくれるのだ。

にじんだ目を大きく開いてさゆりは空を見上げている。


ツバメが又一羽、飛んでいった。


   ※※※※※※※※※※※※    


「まったく、人を死ぬ程心配させて・・・。

もう、帰ってきたら許さないんだから・・・」


マンションに帰った三人は軽い食事を取っていた。

さゆりはふくれ顔で、おにぎりをほお張っている。

広子も安堵の表情で聞いていたが、ふと気がついて不安そうに言った。


「でも・・・もし大西さんが連絡もしてこないで、自殺しちゃったら・・・」

「ど、どうしよう広子さん。こっちからは連絡とれないし・・・」


「おいおい忙しいな、さゆりちゃんも・・・

食べるか、泣くかどっちかにしろよ・・・」 


高田はそう言って笑うと、真面目な顔になって優しく言った。


「大丈夫だよ・・・あいつは約束を守る男さ。

きっと電話してくるよ」


さゆりは高田になぐさめられると瞳を潤ませながら、うなずいた。

静かな、じれったくなるような時間が流れていく。

高田は卓也の日記を読みながら、時々声をたてて笑っている。


「いやー、しかしガンが勘違いだと思うと、

深刻な文章が全部コメディーに見えてくるな。

いやぁ・・・中々文章がうまいよ、あいつ・・・」


さゆりも広子も少し笑ったが、2時を過ぎたのにかかってこない電話を見つめたまま、深刻な顔をしている。


「大丈夫だよ、おおかたサッカーが延長戦にでも、

もつれ込んで見入ってるんだよ」 


高田が必死にその場をなごませようとしている。

だが内心ではハラハラしている。


(バカヤロウ、早く電話してこいよ・・・

俺までビビッチマウじゃねえか・・・)


広子が、さゆりを心配して見つめている。

高田が又軽口を言おうと口を開いた瞬間、電話が鳴った。


三人は固唾を飲んで見つめている。


     ※※※※※※※※


男はある場末のバーの電話ボックスで、呼び出し音を聞いていた。


一時間程前にサッカーの試合は終わっていた。

地元のイタリアが勝ったせいもあって、熱狂した観客の声で電話がかけられず、ホテルのそばのバーに来てウイスキーを一杯飲んだ後、迷いつつ国際電話をかけたのだ。


このまま、さゆりに電話せず死のうかとも思った。

エキサイティングな試合であったにもかかわらず、卓也の耳には何も聞こえず終始、さゆりの事ばかり考えていた。


生きていたかった。

日本に帰りたい。


もう一度、さゆりを抱きしめたかった。

だが、もしさゆりが日記を読んでいるかと思うと気が重い。


さゆりの泣く声が、表情が目に浮かんだ。

自分はなにを言おうか、自信がなかった。


それでも・・・と卓也は思った。

それでも、もう一度だけ天使の声が聞きたかった。


別れてみて改めて、狂おしい程さゆりを愛していることがわかった。


もう一度、せめて一言でも良かった。

呼び出し音が鳴ると心臓の鼓動が激しくなり、逃げ出したくなった。


やはり切ろうと思った瞬間、ガチャリと音がして天使の声が聞こえた。


「もしもし・・・」

さゆりは緊張で、かすれた声を出した。


「もしもし・・・さゆりさんですか・・・」 

卓也も幾分緊張して言った。


さゆりは卓也とわかると、目を輝かせて叫んでいた。


「卓也さん・・・卓也さんなのね・・・。

切らないでね、切っちゃダメよ・・・」


さゆりの迫力に押されて、たじろぐように卓也は言った。


「ど、どうしたの・・・さゆりさん・・・?」 

さゆりは男の声を聞くと少しホッとしたが、更に大きな声で言った。


「大丈夫なのよっ・・・

あなたガンじゃないのぉ・・・今日病院に行ったの・・・。

ち、違うのよっ・・・・・あなたの勘違いなのぉっ・・・」


卓也はさゆりの言っている事がよくわからず、もう一度聞き直した。


「えっ・・・どういう意味だい・・・それは・・・?」

じれったくなって、高田が受話器をひったくり叫んだ。


「バカヤロウ・・・心配かけやがって・・・早く帰ってこいよ・・・。


お前さんは勘違いしてたんだよ・・・

今日、病院に三人で行ってきたんだよ。


そしたらお前の担当医が出てきて・・・色部とか言ってたな・・・・。


お前・・・・検査前に何か食ったろ・・・。

だからレントゲンに影が写ったんだ」


ようやく事態が呑み込めたのか、卓也は気の抜けたような声を出した。


「か、勘違いぃ・・・?」


「そうだよ、バカヤロウ・・・

お前のは、ただの食べ過ぎだってよ・・・・。

再検査のレントゲンを見たら、きれいな胃だったよ」


「でも、俺・・・・

本当に食欲が・・・なかったんですよ・・・」


高田は呆れた調子で言った。


「俺の倍は食ってたよ、お前さんはぁ・・・。

まったく、どんな胃袋してんだ・・・。

なあ、さゆりちゃん・・・・・・?」


高田はウインクをすると、さゆりに受話器を渡した。


「俺・・ガンじゃ・・・なかったんだ・・・?」 

卓也が、まだ信じられないような声を出した。


「は、や、く、帰ってきなさーい」

さゆりが、コブシを思いきりきかせて言った。


「さゆりさん・・・あ、あの・・・その・・・」

卓也は急に何もかも理解して、シドロモドロになって言った。


「もう・・・死ぬ程、心配したんだからぁ・・・。

電話がこないから自殺しちゃったのかと思った・・・。


とにかく・・・何でもいいから早く帰ってきて・・・

じゃないと私、私ぃ・・・」


さゆりは、とうとう泣き出してしまった。

無理もない・・・今朝からずっと卓也の事をおもって、気が気ではなかったのだ。


「さゆりさん・・・」

卓也は生きている喜びと、泣き声に戸惑って何も言えなかった。


「お願い・・・早く帰ってきて・・・卓也さん・・・。

あなたがいなくなったら、私・・・私、死んじゃう・・・

お願いぃ・・・」


広子がさゆりの肩に優しく手を置くと、胸に崩れるように顔を埋めた。


小さな肩が震えている。

高田が再び受話器を取ると、今度は落ち着いた口調で言った。


「ああ・・・オホン・・・。

まっ、とにかくだ・・・早く帰ってこい。


それから飛行機の時間が決まったら、電話をするんだぞ。

俺も迎えに行ってやるから・・・。


あんまり惚れた女を泣かすもんじゃねえぞ・・・わかったな・・・?」


卓也も涙を流していた。

さゆりの愛と神への感謝の念で、胸がいっぱいであった。


「すいません・・・心配をかけて。

あのー、さゆりさんとかわってもらえますか?」


高田は広子に微笑むと受話器を差し出した。

広子はさゆりにささやくように耳打ちすると、涙で腫らした目をして受話器をとった。


「もしもし・・・卓也さん・・・さゆりです」 

卓也は愛しそうにさゆりの声を耳にあてると、早口で言った。


「ごめんよ・・・さゆりさん、心配かけて。

話したいことはいっぱいあるけれど、とにかくすぐ帰るよ。

今日はもう遅いからチケットとれないし、明日の飛行機で帰るよ。

本当に、ごめん・・・。」


さゆりは、うれしそうに卓也の声を聞いている。

そして、ようやく声に出して言った。


「早く・・・早く、帰ってきて・・・」

「ああ・・・帰るよ・・・さゆりさん・・・愛しているよ・・・」

「私も・・・愛しているわ・・・卓也さん・・・」 


そして、どちらともなく静かに受話器を置いた。


さゆりは顔を上げると、二人に微笑んだ。

高田は出窓に手をついて、外を見ながら言った。


「ヤレヤレ、これにて一件落着ってやつか。

まったく心配させやがって・・・」


広子もうれしそうに微笑んでいる。


「まー、でもあいつの事だから、もう絶対大丈夫だよ・・・。

さゆりちゃんにべた惚れなんだから、きっとすっ飛んで帰ってくるよ。


だからゆっくり待った方がいい・・・。

わかったかい、さゆりちゃん?」


さゆりは、ありがたかった。

二人とも、こんなに心配してくれて助けてくれた。

二人がいなかったら今頃どうなっていたか、わからなかった。


「本当にありがとうございました。

私一人だったら、どうなっていたか・・・。

良かった・・・本当に・・・」


「じゃあ、改めて紅茶で乾杯しましょうか?」 

広子が立ち上がって言った。


「おいおい、ビールじゃダメかい?」


「あなたは車の運転があるでしょ・・・。

さゆりさんも疲れているだろうし、今日はもう、おいとましましょう。

キッチン借りるわね・・・」


「あっ、すいません・・・・そこの戸棚に紅茶とか入ってます」

そう言うと、さゆりも立ち上がり、お茶の用意を手伝った。


そして熱い紅茶で三人は乾杯した。

熱い液体が身体にしみ込んで心地よかった。


今朝からの出来事を振り返ると、様々な事があり目まぐるしくさゆりを巻き込んでいった。

絶望のどん底に突き落とされたりしたが、今はやっと幸せをかみしめる事ができる。


改めて神に感謝したいと思った。

卓也が帰ってきたら、日記に書いてあった教会へ行ってみようと思った。


「じゃあ、帰るよ。

奴から連絡があったら必ず電話してくれ、車で迎えにくるから・・・」


高田はそう言うと広子と部屋を出ていった。

二人を見送って部屋に戻ったさゆりは、急に疲れをおぼえた。


服を着たままベッドに潜り込むと、直ぐに眠りに包まれた。

色々な事が頭をかけめぐっている。


とにかく、今は眠りたかった。


目が覚めたら、何もかも夢であるかもしれない。

とにかく、早く帰ってきてほしいと願った。


窓の外では夕暮れが近づいてきたのか、西の空がほんのりと赤く染まりだしていた。

ツバメが二羽、交差するように忙しく飛び廻っている。


きっと、巣作りに懸命なのだろう。

卓也は生きていた。


これからも生きて、ずっと、さゆりのそばにいてくれるだろう。

やがて安らかな寝息をたて、眠りにおちていった。

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