ローマでお買いもの!(第四部)

第十八章 機内食

「みなさーん、スイマセン、わかりました。

こっちですって・・・い、急いで下さいっ」


さゆり達一行は空港ロビーをあせりながら、駆け抜けていった。


「何だってゲートを・・・・・

反対方向と・・・・間違えるん・・だよ・・・・」


高田が息を切らして、さゆりに叫んでいる。


「しょうがないでしょ・・・

き、急に変更になっちゃったって・・・

アナウンス・・・・聞き逃しちゃったんだからぁ・・・」


さゆりが目をつり上げ、やり返している。


「だいたい高田さんが・・・濡れた服を・・・・

ホテルのクリーニングに出してるから・・・

空港に着くのが・・・・遅れて、アナウンス・・聞けなかったんでしょ・・・」


出発時間を5分過ぎていた。

今日、この便をのがすとローマに着けない。


そうするとホテルの手配やらで、この人数をさばくのは大変なのだ。

さゆりは全員を見回し、必死に祈っている。 

卓也はさゆりの荷物を持ってやり、もくもくと走っていた。


「そんな事言う・・・・けどなー・・・

アルマー二だぞ・・・俺の給料なんか・・・

い、一瞬で・・・・とんじゃうんだ。

俺は・・そんなに金持ちじゃ・・・ねーんだ」


高田も息絶え絶えになりながら、やり返している。

よせばいいのに、さゆりもムキのなって声をはりあげる。


「何つまんない事、自慢してるんですかぁ・・・・

だ、だいたい・・広子さんはお金持ちなんだから・・・

結婚したら買ってもらえば・・・いいでしょうっ・・・?」


「な、何言ってるんだ・・・俺は男だぞ・・・

それにこう見えても編集長なんだ・・・

そんなヒモみたいな・・・真似できるか・・・。

いや、待てよ・・・それも悪くないな・・・ねえー、広子たん・・・?」


高田は広子の方に振り返り、甘えた声を出した。

広子は走りながら、ずっと楽しそうに笑っている。


(かー、何が広子たんよ。

あのゴンドラの時の感動はなんだったのよ、このおっさん・・・)


一行は何とか飛行機が待っていてくれて無事、間に合った。

全員シートにつき、ようやく人心地ついたのか、ざわめきながら話している。


やがて機内食が運ばれてきた。


ローマまではそれほど時間はかからないのだが、

ゴンドラから水上タクシーで、ホテルのそばまで送ってもらい・・・

水上バス会社の方でサービスで出してくれたらしい。

他のツアーの人達の確認やホテルのチェックアウトの手続きやらで、朝食以外何も口にしていなかった。


さゆりはが食べようとすると、隣で高田が気味の悪い声をたてている。


「広子たん、あーん・・・。

んー、デリーシャスゥ。


広子たんに食べさせてもらうと、普通のポテトサラダがなんで、

こんなに、おいちいんだろう・・・」


さゆりが呆れて横をながめていると、広子がうれしそうにポテトサラダや肉を丁寧に切り取っては、高田の口に運んでいる。


目が合った広子が、照れくさそうに顔を赤らめた。

高田は鼻の下を伸ばしながら、とろけるような顔でさゆりに言った。


「さゆりちゃん、何見てんのよぉ・・・?

あなたにもいるでしょ、となりに・・・。


ねー、広子たん・・・・

すごかったわよねー、人前で・・あんなに激しいキッス・・・。


見たことなかったわぁ・・・。

結構やるわよねー、近頃の若い人ってぇ・・・」


広子はプラスティックのスプーンを持つ手を口にあて、クスクス笑っている。

さゆりは耳の付け根まで真っ赤にして言った。

スプーンを持つ手がブルブル震えている。


「な、何の事ですか、高田さん・・・。

わ、わからないわって・・・。


何で急にオカマ言葉になるのよっ。

いいかげんにして下さいっ・・・」


(もー・・・このクソオヤジー。

今に地中海に沈めてやるぅ・・・)


ふと反対側を見ると、卓也がこちらを見つめている。

優しく微笑んでいる。


今までパニック状態できた為忘れていたが、こうして落ち着いてみると、確かにこの男とゴンドラで激しい口づけをしたのだった。

さゆりは、さらに赤くなって顔を伏せてしまった。


「あーらー、さゆりさん、お惚けになるわりには顔が真っ赤よ。

どうしたのかしらー?」 


高田はおもしろがって、尚もしつこくからんでくる。


「もうっ・・・それぐらいにしないと、そのうち飛行機から追い出されるわよ」

たまらず広子がたしなめた。


「ハッハッハッー・・・」

と笑って気が済んだのか、高田も機内食に取り組んでいった。


うつ向くさゆりのテーブルに、ビニールの蓋を開けたジュースを卓也が差し出した。

さゆりが顔を上げて卓也を見ると、ニッコリ笑っている。


「食べようよ、さゆりさん・・・」

さゆりは男を見つめたまま、ジュースを一口飲んだ。


「おいしい・・・」

甘さが口中に広がって、疲れた身体にしみ込んでいく。


男の優しさが、さゆりを包み込んでくれる気がした。

いい雰囲気になってきた二人を又、ひやかそうする高田の心を見透かすように、広子は男の口にチキンを詰め込み、キッとした目で睨んでたしなめている。


4人を乗せた飛行機は、ローマ上空にさしかかろうとしていた。

青空が海から見たのとは、また違った色を見せて広がっている。


ツアー最後の夜は再びローマでむかえる。 

広子は数日間の想い出を振り返りながら、幸せそうなため息を一つ、静かに吐いた。

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