第2章 2
1年後、陽介は内勤の警視庁総務部から以前いた警視庁刑事部に戻った。刑事の仕事に戻ってから2年が経過した。そして翌年に警視庁組織犯罪対策部組織犯罪対策課第5課に異動した。組織犯罪第5課は銃器薬物を扱う課である。陽介は銃器捜査係として、最近発生した銃密輸に関連した事件の対策本部に加わった。
「ロシア製マカロフ型拳銃13丁と拳銃実包1300個を押収することができたのですが、ロシア側の捜査班の報告によると、ロシアの犯罪組織の逮捕者は全部で14丁の拳銃と拳銃実包1400個を日本の犯罪組織に手渡したと証言しています。しかし日本の犯罪組織の逮捕者は、入手したのは13丁の拳銃と拳銃実包1300個だと証言して、未だにその証言を変えていません」
「銃密輸入ルートはロシア極東ルートでした。ロシア極東地域の犯罪組織と北海道の犯罪組織間のコネクションでした。サハリン州から網走港に入港したロシア貨物船を利用したと思われます」
「そこから現場まで運び屋によって、車を使って運ばれたと思われます。何人の運び屋が関係したのかは不明です」
「最後の運び屋が、犯罪組織の逮捕者に渡したと思われます」
「それでは銃器捜査係の3人で運び屋の足取りを掴んでくれ。他の者は今担当の対象を更に広げて継続して捜査にあたってくれ」
「今回あなたが密告してくれたお陰で、拳銃13丁と拳銃実包1300個を押収することができました。あなたは10年間運び屋をやって来て、なぜ今回密告しようと思ったのですか」
他の二人の銃器捜査係と取調室に入った陽介は、菅部麻雄とテーブルを挟んで向かい合って座ると同時に言った。
「警察の方で知っていることを何故また聞くんだよ。司法取引があったからじゃないか」
「司法取引の内容はどのようなものだったのですか」
「警察のあなたが知らないのか」
「ええ、私には司法取引の権限はありませんから。その情報はないです」
「司法取引の権限のないあなたに話しても大丈夫なのかい。この取引の約束が消えてなくなってしまうということはないのか」
「あなたと司法取引の話をしたのは誰ですか」
「刑事だけど」
「司法取引は検察官が弁護士を介在してするものです」
「それじゃ俺はだまされたのか」
「どんな約束をしたのですか」
「運んでいる人を教えれば逮捕しないという約束だった」
「でもあなたは逮捕されましたよね。騙されたわけですよね」
「でも構わないよ。お金が手に入ったから。最初から逮捕されないって話当てにしてなかったから」
「報酬はどれくらいでした」
「10万円。もう女房に渡したよ。これで女房と子供は二月以上は食っていけるよ。俺も牢屋で飯がもらえるからな」
「拳銃13丁と拳銃実包1300個くらいあなただったらいくらでも隠し通せたのに何故警察に通報したのですか。そもそも黙っていれば分からなかったことじゃないですか。司法取引なんて最初からそんな話なかったですよね。だいたい警察が権限がないのにそんな話をするはずがないですから。今回あなたの言動は無茶苦茶ですね」
「俺はなー、もう組織から抜け出たいと思ったんだよ。組織の怖さが最近俺みたいな莫迦でも分かって来たんだ。女房子供が心配になってきたんだ。女房子供を護衛してくれることくらい警察だってしてくれるだろう。離婚届けには署名して女房に渡してある。10万円で二月身体を休めれば、また前の仕事を始めて生活ができるようになるだろう」
「今回あなた以外何人の運び屋が関わったのですか」
「分からねえな」
「でもあなた一人ではなかったですよね。あなたに渡した人がいますよね。その人のことを教えてくれませんか」
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