第1章 2

その日は合同の会議が急遽入ってしまったため、会社を出るのがいつもよりもかなり遅くなってしまった。これからはホームページを独自に開発して保守していくことになるので、しばらくは帰りがこの時間になることを覚悟しなくてはならないと、響子は思った。

 時間がずれたためだろうか、帰りの列車ではずっと座ることが出来た。響子は昨日研修会で渡されたHTMLについての書籍をとりだして読んでいた。彼女が大学時代に学んだことはワードとエクセルに関することくらいであった。列車の中での時間が貴重な時間になった。乗車している時間ずっと没頭していた。

 この一週間列車のなかで感じていた異様な気配を感じた。響子にとってその異様な気配に気を取られるほどの余裕はなかった。

 列車を降りたときその異様な気配は一瞬のうちに消えてしまった。

 自宅に着くと響子は早速パソコンの電源を入れて、自社のホームページを開いた。こうして自宅から顧客になったつもりで玩具部門のホームページを見てみると、さすがIT企業が時間をかけて作ったものだけあって、素晴らしいものであると感じた。プログラムも含めてかなりの部分は宣伝部の情報課が担当するとしても、そのなかに関わっていくことを思うと気が重かった。

 その翌日からしばらくの間早めに出社することにした。ラッシュ時間前の時間帯になるので、朝の列車のなかでもずっと座ることができるようになった。お陰で行き帰りの列車の中で毎日勉強の時間が確保できることになった。

 とにかくまずHTMLについてできるだけ理解できるようにしなければならないと思っていたので、研修で渡されたHTMLについての書籍に没頭することで行き帰りの電車の中で他のことに気に留めないで数日が経過していった。HTMLについてある程度理解できるようになったころに、例の異様な気配に気がつくようになってきた。それは帰りの列車のなかであった。そういえば帰りの列車では同じ時間帯の列車に乗っていた。もしやと思い、一つあとの列車に帰りは乗ることにした。案の定あの奇妙な気配は感じられなくなった。

 行き帰り同じ時間帯の列車の乗ることでほぼ一月が経過した。その間例の奇妙な気配を感じることはなかった。響子はいつのまにか例の異様な気配のことを忘れてしまった。

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