第12話 母と北海道に行った思い出


 その昔、小烏がまだ女子大生をやっていた頃のことです。当時小烏はとある歴史上のとあるチームの副長が好きで、今で言う「推し活」をしていました。そしてバイトで資金を貯めては聖地巡礼をやっていたのです。その聖地は京都、大阪、東京から東北にかけて、そして北海道にありました。


 当時どうやって知り合いになったかもう記憶も定かではありませんが、推し活仲間(歴史上のとあるチームの誰かを推していた)が8人ほどいました。ほとんど関西の住人でした。そのうち一人はもう社会人で独り暮らし。そう言えばデビューしたばかりの漫画家さんもいました。他はみな学生でした。


 皆はよく社会人の仲間のアパートに集まってはそこを拠点に京都、大阪の聖地を巡ったものでした。まだパソコンもない時代。情報は本と国会図書館の史料、口コミでした。その時に史料の集め方、読み方も自己流で学びました。


 推しの子孫の方々が開催している○○忌という行事にも参加させてもらい、我らが推しの彼らは確かに生きていた人たちなのだと変に実感したこともあります。


 そうそう、「薄い本」を自費出版もしていました。今では社会的現象にもなっている「コミックマーケット(コミケ)」ですが、その頃は産声を上げたばかり。コスプレなどなく(いや。わずかに、っぽい格好の人はいた気がする)会場も規模もこじんまりした小さいお祭りでしたが、熱気は今に負けず劣らずありました。

(あ、そこのアナタ!年代を特定しない!)


 さて、話しを元に戻しましょう。


 その聖地巡礼。関西と東京の聖地は学生時代に行き尽くしましたね。行けなかったのは甲信越以北。どうしよう社会人になったらそうそう自由に動けなくなるぞ。小烏は考えました。


 学生最後に行くなら、どこだ?

宇都宮も甲府も、仙台も捨てがたいが

一ヶ所というなら……、やはり終焉の地。函館ではあるまいか。


 というわけで、学生最後の夏休みは推し最期の地・函館を選びました。


 しかし同行の仲間が集まらない。(仲間がみんな小烏と同じ人を推しているわけでもなかったし)当時北海道まで空路片道15万円ほどかかったように記憶しています。さすがにサッと手が上がる金額ではありません。

(自分、よく貯めたよな。さすがオタクだわ)


 そうこうしているうちに夏休みは近づく。悩んだ小烏は自分の母親を誘ったのです。母親は喜んで話しに乗って来ました。

ここに推しの聖地に母親と行く……、トンチキなオタクが誕生したのでした。


 さて、初めての北海道。乗って来た母ですが残念ながら行き先が小烏と噛み合わない。母は知床、網走方面に行きたがります。対する小烏は函館は外せない! 絶対ここは外せない! 何しろ函館に行きたいがための北海道なのですから。本当なら木古内、松前にも行きたいんだ! 


 初めての海外(海を渡ること)旅行しかも空路です。北海道の地理すら定かでないので、ここは旅行会社に頼るべきだろうと思われました。パック旅行を調べて、函館と知床が含まれたツアーを探しました。そうすると、あるんですよ。函館も知床も含まれる一週間ほど(10日くらいだったかも)のツアーが。なんと願ったり叶ったりではありませんか。


 もう今となっては発着した空港も、ルートも定かではないのですが行った場所なら朧げに記憶にあります。


 まずは外せない函館! 朝市、函館山の夜景、五稜郭、五稜郭タワーに行きました。奉行所跡に狂喜乱舞したことは言うまでもありません。(今では奉行所も復元されていて、羨ましいです)よくわからないテンションの娘に引き回された母は迷惑そうにしていたこと思い出します。小烏としては念願の函館が堪能できたので、あとの旅行はオマケのようなものです。


 阿寒湖ではマリモを観察して土産にマリモの瓶詰を買い(これがかなり長生きをしました)、「霧の摩周湖」を晴れた日に望み、知床半島のどこかで記念撮影をしてお土産屋で買ったホタテのヒモをバスの中で齧り、時間がなくて網走の監獄は外観だけ見ました。


 原生花園(どこだっけ)をちょっとだけ歩き、クマ牧場でクマに手を振り、アイヌ村(であったかもしれない)でアイヌ文化に触れて定番の置物を購入。層雲峡に行くはずがその年は珍しく北海道が台風に襲われ、道が寸断されているということで中止。どこかの峠(中山峠かな)で串刺しのジャガイモを頬張り。どのタイミングで通ったか不明ですが、旭川でラーメンも食べました。美味しかったです。


 明日は帰るという日、最後に泊まったホテルの晩ご飯のことです。テーブルの上に豪華な膳が並んでいます。小皿の刺身は鮭でした。荒巻鮭ならお馴染みですが、刺身の鮭は本土では珍しい時代。母と喜んで箸を伸ばしました。


 ん? 鮭、固い。


 刺身といえば持ち上げるとダラリとしどけなく身を委ねてくるものですが、この鮭の刺身は箸の間で身を硬直させています。そう言えば色味もなんだかわずかに白っぽい。


 小烏と母はそっと硬直した鮭を口に運びました。


 冷たい! これ、凍ってる!


 鮭の刺身は半解凍状態。シャリっとした歯ごたえとともに口のなかで解けていく鮭。小烏は母と目を合わせました。


 美味しい! 美味しいけど、これ


 「解凍出来てないんじゃない? 」


 周りの席も横目で伺います。数名が鮭の刺身を口にして固まっていました。


 「これだけ大勢の観光客だもんなぁ。きっと解凍が間に合わんかったんよ」

「仕方ないよなぁ。大人数だもん。でも他の料理は美味しいわ」


 そんな会話をしながら、美味しく食事を進めました。「鮭の刺身がまだ凍ってた件」は帰宅したのち、家族や友達への土産話しのネタとなりました。


 そして数年後、北海道グルメ番組で「鮭の身を凍らせて、半解凍で食べるルイベという郷里料理」のことを知りました。


 北海道のホテルの皆さん、とんだ誤解でございました。当方の知識不足でした。大変申し訳ありません。今から思うと絶妙な解凍具合でございました!ここに謹んでお詫び申し上げます。


 同じ番組見た親戚から

「あんた、あれは解凍し損ねた刺身じゃなくて、わざわざ凍らせてあったモノらしいよ」と電話があったことも申し添えておきます。


 

 さて最後に、問題です。

当時の小烏の推しは誰でしょうか?



近況ノートに思い出の地図を載せてみました。

https://kakuyomu.jp/users/9875hh564/news/16817330665948198964


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