第5話 ヘロイン

クロードには薬物乱用の後遺症としていつも"何か"が見えていた。

幻覚に幻聴、統合失調症の典型的な症例である。

見えるものは様々。部屋中に虫が見えたり、知らない誰かの声が聞こえたり、

よく喋る小さな妖精さんが見えたり。


「Hi. :)」

「またあんたか」


こいつはヘロイン。いや、違う。

roiHen。ただの幻覚幻聴のくせにやる事なす事、奇妙なやつだ。喋るし触れるし、自主的に行動だって起こす。

まるで生きているみたいに。

だけど僕以外には見えない。


「今日は打たないんデスか?私のオススメはいつもヘロインですヨ」

「打たねえよ。あんなもん。僕は叔父さんの言う通りにしてるだけだ」

「本当は体は求めてるんじゃないデスか〜?ほらほら〜」

う。

あ、

ロイヘン、こいつが吐く息は、麻薬と同等の成分を持っているそうで。

頭がぐわん、として浮遊感に満たされる。


「やめろやめろやめろ、今は違う、今は」

「強情ですネ〜、まあいいですケド」


こいつが見えるようになったのは齢15の時。

叔父さんに薬を初めて吸わされた時だった。

だから、このよくわからない生き物とも叔父さんと同じくらい長い付き合いをしている事になる。


「今日も人殺しは楽しいデスか?」

「楽しい訳あるか、こんなの」

「アラ、いつもと言ってる事が違いますね」


日によって僕はまるで人格でも変わったように思考が一変する。

楽しいと感じる時もある。銃を打った時の反動、大きな銃声。ナイフで抉る感触。

だけど、それが気持ち悪くて堪らない時がある。


そもそも、元々これが本来の僕なのだ。


両親を亡くしたあの日から。叔父と過ごすようになったあの時から。僕は変わってしまった。

"人を殺しなさい"

その言葉に徐々に徐々にと洗脳をかけられていくようだった。薬物まで使われて。

元々、僕の家庭は裕福で恵まれている方だった。可愛い弟もいた。

15年前の僕もまさか将来、自分が凄腕のスナイパーになっているとは思わなかっただろう。


「今日はちょっと気分が違うだけだやらなきゃいけない。殺らなきゃ」


気付けば妖精はどこかへと消えていて、その場にただ自分の声だけが響いた。


「お姉さん、可愛いですね」

「え、は、はいっ」

「良かったら僕と一緒にお茶でもしませんか?」


今日も殺しは続く。

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