第10話 雑用 is 次期当主

「……」


 どうしてこうなった?


 青天の雲一つない空の下、俺は中庭に居た。


 目の前には、使用人たちが何かをせっせと準備している。


 一体、何を準備しているのだろうか?


「というか、なんで、俺ここに呼び出されたの?」


 日課のアリシアの授業からの逃亡さんぽをしようと考えていた中、突如、執事長に呼び止められ、こんな所に立たされている。


 執事長に呼び出された以上、俺より親父に言えよ、とか思いながらここに来たのだが、目の前はこの状況だ。


 本当になんで?


 今頃、適当に道具見繕って魔術の研究釣りでもしていたんだがなぁ。


「私が呼びました」


「ひぇっ」


 うわっ、びっくりした。


 突如、背後から声をかけるアリシアに驚きを見せながらも、すぐに落ち着いた態度を示す。


「な、なんでかな?」


「そうですね、まずは使用人たちのことを見て貰おうと」


「???」


 なんで?


 アリシアの言葉に、口から漏れ出す『?』マーク。


 使用人のことを見て貰う、と言われるけど、いつも見ているじゃんか。


 物凄く危険だけど……。


「はぁ、一応、坊ちゃまは次期当主となられるお方、その物が使用人や民がどのような生活をしているかを知る権利があるように思えますが?」


「うーん、そうかな……」


 確かに一理あるけど、どうにもパッとしない。


 民の生活と言われても、俺的にはどうでもいい事で、なによりサボりたい気持ちのせいで思考が回らない。


「知っていますからね、坊ちゃまが今日、サボろうとしたこと」(ぼそっ)


「うーん! みんな何しているのかなぁ!?」


 なんで、知っているの!?


「ちなみに知っていますからね、坊ちゃまの秘密の場所さぼりばしょ

 確か、釣り道具の他にも危険な魔術道具も……」


「うわー! うわー!」


「煩いですね、少し黙りましょうか」


「はい」

 

 そうして、僕の眉間にはアリシアの愛用の道具黒い物が突き付けられる。


「けど、本当にそれに関しては黙っていてください。きちんと見ますし、皆の手伝いもするので……」


「……そうですね、今回の働き次第です」


 必死な思いで頭を下げる。


 すると、アリシアから僅かな猶予を貰える。


 よかった、これで許してくれなかったら、東洋の必許ひっさつ技『ド・ゲーザ』をしなければいけない所だった。


「じゃ、じゃあ……」


「まぁ、きちんと訳は聞きますし、罰は与えます」


「くっっっっそっ!」


 天は俺を見放したっ!


 両膝をつき両腕を広げて空を仰ぎたい気分だけど、目の前に我が使用人、アリシア

といる前ではそんなことはできない。


 これ以上の失態は見せられないという気持ちもあるし、何よりここにはアリシア以外の使用人もいる。


 まだ友人には知られても大丈夫だけど、家族に見られるとダメージが来る。


「で、手伝ってくれるのですね?」


「え? あ、うん……そうだけど」


「では、存分にこき使いますので、是非ともお手伝いを」


「あれ、主人って俺だよね?」


「それは、私が主と御認めになるまで、まだ坊ちゃまですよ」


「へ、へぇ」


 なんとも、言葉に棘があるように感じられるなぁ。


 いや、棘を感じるのはまだ俺がまだ未熟だから、そう感じるのだろう。

 

「じゃあ、俺は何をすればいいの?」


「そうですね、まずはあそこにいる使用人たちと一緒にテーブルなどのセッティングを」


「分かった」


「使用人たちには、坊ちゃまが来られた際に、テーブルは一人で運ばせると言っていますので頑張られてください」


「よ~し、がんば……え?」


「どうかしましたか?」


「え、俺一人で運ぶの?」


 どう見ても一人で運ぶようには見えないんだけど……。


 執事たちが四人がかりで運んでいる、あの大きなテーブルを一人で運ぶの?


 なんで? どうして? と頭の中に鹿が走り回っている風景が入り込む。


 なんだ、あの風景は……⁉


「えぇ、昨日のサボりの罰がまだでしたので」


「………」


 はっ、息をしていなかった!


 突然、意識を失い息をしていなかったことに、気付いた俺は額に脂汗を浮かぶ。


 しかし、急に頭の中に変な風景が映りこんだり、意識を失ったりするなんて……はっ! 


 もしかしたら、新手の刺客スタ〇ド攻撃っ⁉


「ス〇ンド攻撃ではありませんのでご安心を」


「なぜ、分かったし⁉」


「良いですから早くしてください」


「あっ、はい」


 再度、眉間に付けられる愛用の道具黒い物


 僕はその命令脅迫に従い、執事たちと共に準備をし始めた。


「ねぇ、このテーブルどこに持っていけばいいの~?」


「「「「!!!????」」」」(執事たち)


 ちなみにこれが次期当主の現在の姿に、多くの執事たち(使用人たち)は驚いたような顔を向けて来た。

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