第6話 スカートがはためくいいメイド

「な、何でこの場所が?」


 目の前に倒れるブラックベアの死骸。


 そんな死骸と強烈な破裂音と共に出てきたアリシア。


 突如、次々と物事が起こるこの状況に、驚きが止まらない。


「知りませんか、坊ちゃま」


 唖然とする俺に、アリシアは手に小さな煙を吹かす黒い物を握りながら、森の中では歩きにくいであろうメイド服のスカートを小さく揺らす。


「例えどこであれ、自ら主人のいる場所は、メイドにとって戦場なのですよ」


 やだ、うちのメイド、かっこいい……惚れちゃう。


 木々の枝から漏れる日の光が、アリシアの体を美しく照らす。


 逆光に包まれる彼女のメイド服は、キラキラと輝いており、見ている俺に対して、静かに顔を近づける。


「え、な、なに?」


 キラキラと輝くアリシアの瞳。


 粉雪の様に美しく輝くまつ毛に、俺の胸がどきどき、と在りえない速さで動いている。


 あぁ、無理、綺麗。


 それに、仄かに香る静かな花の香りが、俺の精神を蝕んでいく。


「……どこも怪我が無いようですね」


「へ?」


 雪の様に冷たい手が静かに俺の頬に触れる。


 アリシアの放つ意外な言葉に、俺自身、呆気に取られながらも、彼女は俺の腕を掴み、ゆっくりと俺の体を起こす。


「私の顔に何か付いていますか?」


「あ、いや、なんでもない、っとと……ありゃ?」


「っ! っと、坊ちゃま、大丈夫ですか?」


「う、うん、すまん」


 だけど、緊張感のせいか完全に腰が抜けている。


 そんな、俺の体をアリシアは細い体で支えてくる。


 型を組まれ体を支えられているだけなのに、なぜだろうか。


 ……少し得をしたな、と思っている。


 俺が原因でこうなったというのに、俺自身の苦労なんてマイナスになるほどの利益を得てしまっている。


 こんな状況に、俺は内心、頬が緩んでしまう。


 と言うか歓喜。


 好きな人の体を触れられているという状況、これに歓喜をしないと言うのはどうなのだろうか?


 アリシアの冷たい体温に、細くとも柔い筋肉。仄かに香る彼女の大衆さえも愛おしいとも思えてしまう。


 あぁ、本当に最高だ。


 神と言うものが存在しているのなら、この時間を永久に感じさせて欲しい。


「……坊ちゃま、何を考えていますか」


「へっ⁉ な、何でもっ⁉」


 き、気付かれたっ⁉


 俺の抱くアリシアの気持ちが⁉


 もし気付かれたというのなら、今この場で自害も……‼


 いやいや、それ以上に、アリシアに気遣恋愛ことが第一であり、もしこれ以上悟られるような事が……ア゛ー、アリシアの横顔が最高……。


 もうこの部分の空間だけ切り取って屋敷の玄関に置きたいほどだ。


「……そうですか」


「ほっ」


「疚しい事を考えていたそうなので、屋敷に戻ったら説教ですね」


「……」


 急にお腹が痛くなった。


 もう今日はここで休みたい気持ち。


 誰にも邪魔されたくない。


 オレ、ココニ、スム。


「馬鹿言っていないで行きますよ」


「え、やだ……」


「……はぁ、無理やりでも行きますよ」


「えー!」


 そう言って、アリシアは俺の腕を引っ張って行く。


 森の中に、一人の女の子に手を引っ張られながら歩くと言うのは、少し、恋愛小説みたいだ。


 あぁ、顔が熱い。


 平気な顔を装いながら、森の中を進み、目的地の屋敷に共に向かう。


「………………」


「どうかした?」


「いえ、何でもありません」


 ん? 何だろうか。


 僅かに、アリシアの意識が途切れる。


 まるで……いや、考えても無駄かもしれない。


 俺の考えなんて、アリシアの考えと比べたら天と地の差。別に俺が何かに気づいても、アリシアにとっては虫を踏むような感じに違いない。

 

「はぁ……じゃ、じゃあ、行こっか?」


「えぇ、帰りましたら、今日逃げた分の授業をたっぷりと行いますので、お覚悟を」


「やだーーーーーーーーーーー‼‼」


 ほら、俺の考えなんていとも簡単に乗り越えた。


 俺は、少しでもお仕置きの授業を遅らせようと踏ん張って見せても、アリシアという上位存在には通用せず、ただ俺は抵抗も無意味なまま、彼女に引きずられていった。


==========


※あとがき※


 私の推しメイドは『アズール〇ーン』のシェ〇ィールドです。

 次話から物語を円滑に進めるために新キャラを登場させます。

 どうぞご期待ください。

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