JK VS 老婆

 高速道路を舞台に、キリちゃすは苦戦を強いられていた。

 老婆と侮っていたが、この三人は強い。


「クケケエッケケケ!」


 おさげの老婆が車を念力で飛ばしながら撹乱する。


「なんなん? 野蛮人!」

『違う。ガラスを撒き散らしているのだ! 目を塞げ!』


 こちらの視界を奪うつもりだ。人が乗っていようがお構いなし。


「逃がさへん!」


 二人目のグラサンが、緑色で半球状の結界を張って逃げ道を塞ぐ。


「むううん。我が息子の仇、取らせてもらいまっせ」


 実質的な攻撃役は一人だ。黒白オッドアイの老女……。


「昨日の坊主と似てる」

『こやつら、元老院だ。【斗弥生ケヤキ】、モノノケヤキの本部、比叡山からの刺客……本物の退魔師っ!』


 片目が「喝ッ」と発勁をした。数珠を巻いた腕で、殴りかかってくる。


 後ろに逃げようとしたが、真後ろから飛んできたミニバンとモロにぶつかった。


「ぐっふ!」


 ボディに、強烈な一撃をもらう。

 ミニバンごと、キリちゃすは吹っ飛んだ。


「お返し」


 反撃としてキリちゃすも、武器を展開した。

 チェーンソー型のローラーブレードを履く。

 相手の首筋に向けて、蹴りを繰り出した。


「おーこわっ」


 片目の老婆は、紙一重で攻撃をかわす。


 目を守りながら戦うのは、やはり不利か。


「だったら」


 ハンドガンをリュックから出して、発砲した。


 しかし、念力で飛んできた観光バスに阻まれる。


 おさげは次々と車をぶつけ、運転手までこちらに飛ばしてくる。後先や責任など考えない、キリちゃすを殺すための戦闘マシーンとなっていた。


 さすがにスラッシャーと言えど、無敵ではない。死ににくいだけで、強い力に圧倒されれば死ぬのだ。


 あのバカ息子を相手に、ここまでするのか。


 撤退しようにも、あの結界をどうにかせねば。


「ギャハハ! 逃がさへんっていうて……ペげええ!?」


 結界を担当しているグラサンの、首が折れた。


 たちまち、結界が晴れる。


 視界に映ったのは、オンロードバイクに乗ったJKの姿だった。ウイリーで跳躍しながら鎖のついた鉄球を振り回し、老婆に攻撃をしている。


「なんや!?」


 老婆たちの動きが一瞬止まった。


 そのスキに、片目に攻撃を加える。


 片目は腕でキックを塞いだが、チェーンソーによって片腕を失う。


「ぎゃあああ!」


 さらに首をはねようとしたが、かわされた。なんという身体能力か。


「乗って!」


 着地したJKが、こちらを誘ってくる。


 一旦退くか。こちらの目的は、天鐘テンショウだ。

 刺客なんぞに用はない。


 キリちゃすは、ローラーブレードでダッシュした。

 バイクの後部座席にまたがる。


 彼女が敵か味方かは、わからない。とはいえ、今は敵意がなさそうだ。


「待たんかい!」


 念力使いが、トラックをバイクへぶつけてくる。


 モーニングスターを振り回し、JKはトラックを弾き飛ばした。


「うわっと!?」


 跳ね返ってきたトラックに、念力老婆はぶつかりそうになる。


 片目が飛び蹴りで、トラックを崖に突き落とした。


「やっば」

「待って」


 JKに指示を出し、キリちゃすは一旦Uターンをしてもらう。

 魔王の腕を伸ばし、結界使いの死体を包み込んだ。

 老婆を食いながら、再び発進を促す。

 ちぎれていた魔王の腕が、再生する。


「ねえ、キリちゃすでいいんだよね?」


 JKが、キリちゃすに呼びかけてきた。途中、念力使いが飛ばしてくるセダンやワゴンを回避しながら。


「あんたは?」

「キリちゃすのファン」


 一般人のファンにしては、人殺しに慣れている。彼女も、弥生の月か退魔師の類だろう。


 アクセルを全開にして、JKはバイクをかっ飛ばす。変則的な運転を多用しながら、高速道路をかいくぐる。


「名前は?」

「あおば。弥生の月からは、『泉州モーニングスター』とかだっさいあだ名で呼ばれてる」


 二つ名を持つとは、相当に腕の立つ退魔師なのかも。


「なんで助けたん? あたしら敵じゃん」

「スラッシャーは敵だけど、キリちゃすは別」


 どんな姿になっても、キリちゃすを殺そうとは思えなかったと語る。


「キチちゃす殺して師匠超えも考えたけど、やっぱやめた。キリちゃすが苦戦してるの見るとさ、ここで殺すのはフェアじゃないって思った」


 どうせ倒すなら、もっと邪魔がない場所がいいと。


「どこへ連れて行く気?」

「ひとまず逃げる感じ。天鐘テンショウの居場所までは、さすがにわかんなくってさ」

「どうしてここが?」

「弥生の月のデータベースに忍び込んだ」


 機関の情報統制部に、入り込んだという。


「どうやって」

「JKとヤリたいってヤツは、弥生の月にもいるから」


 悪い大人を騙し、情報をゲットしたそうだ。もちろん貞操は守りつつ。


 警察に、キリちゃすに手を貸している魔王の正体までは明かした。


「なんでそんなことを?」

「警察に、本当の悪は弥生の月だってわかってもらうため」


 調べた上で、わかったことらしい。


 キリちゃすを調べれば調べるほど、彼女は巻き込まれただけだったという事実ばかり。


「でもさ、魔王適性はあんたの方が上だった。ピとかいう人より」

「ピの悪口を言わないで」

「ごめん。でもさ、引き返すなら今だよ? 警察に頼んだら、キリちゃすと魔王を引き剥がせるかも」


 キリちゃすは、背後にいる魔王を意識した。


「……あたしは、もう戻れない」


 今のキリちゃすは、魔王と完全に融合してしまっている。


 こいつが何をしたのか、何をしてきたのかもわかってしまった。


 だが魔王との別れは、ピとの決別を意味する。


「そんなに、彼氏って大事なんだ」

「うん。ピは、暗闇だったあたしの光だったから」


 出会う前から、ピはキリちゃすを見守ってくれていた。

 今ならわかる。

 ピは、キリちゃすにとって不快な存在をすべて食付してくれいてたのだ。

 魔王を介して。


 自分は何も返せずに、ピは死んでしまった。

 交際期間数ヶ月というのに、ピは短い生涯を終えている。

 病院では治らないからと、早期退院した。

「最後の夜だから」と、ピと一晩中愛し合って、ピはキリちゃすの腕の中で死んだのである。


 警察の助けも借りられない。

 

 だってコイツは、過去に警察を手にかけている。


「天鐘の居所が知りたいんだよね?」


 JKは、キリちゃすに作戦を語った。


「危険じゃん!」

「でも、こうするしかない」


 たしかに、JKの言うとおりだ。とはいえ、リスクが高すぎる。


『キリちゃす、後ろだ!』


 魔王の言葉に、キリちゃすは振り返った。


 オッドアイの老婆が、駆け足でバイクに追いついてきたではないか。

 しかも、足はただの草履である。なんの加速機能もない。

 走ってくるだけで、バイクと並走しているのだ。


「一〇〇キロババアか、っての!」

「任せて!」


 片手でグリップを握りつつ、JKあおばはモーニングスターを振り回す。


 老婆は鉄球を、サッカーボールのように蹴り返してきた。草履のまま。


 返ってきた鉄球が、エンジンに向かってくる。


 かろうじて直撃は避けたものの、JKはバランスを崩す。


 防音壁に乗り上げ、バイクが横転した。


 JKもキリちゃすも、アスファルトを削りながら転倒する。


 倒れたキリちゃすに、片腕のオッドアイ老婆が迫った。


「逃げて!」とJKは盾になる。


 ドンと、腹を殴られ、JKはうずくまった。


「にげてぇ!」


 魔王の腕を展開し、バイクを引き寄せる。


 JKも、と考えたが、念力ババアに阻まれた。


「ぜえぜえ、待ってえなリーダー。ウチは、アンタと違って普通の体力やねんから」


 さすがに、これ以上の念力は出せないようだ。


「ねえ魔王、考えがある」

『心得た。なんなりとするがよい』


 キリちゃすは、魔王の足をもぎ取る。

 ぬいぐるみの足を、JKの側まで転がす。


「いざとなったら、それを食べて」


 JKは、キリちゃすの言葉に反応した。老婆たちに悟られないように制服のポケットに魔王の足を仕舞う。


 少女の無事を確認し、キリちゃすは逃亡を図った。


 再び、片目が追跡しようとしたが、JKのモーニングスターに足首を取られる。


 JKは念力で無理やり立たされ、かけつけた工作員らによって連行されていった。

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