第9話 蜂蜜色のキャンディ

 村を出て川の側まで来ると、僕達は水分を補給するために少し休憩をすることになった。僕は近くの岩に腰を下ろし一息つく。

 すると、隣に座るクラウディ神父に声を掛けられた。


「少し、お聞きしたいことがあるのですが」


「なんですか?」


 クラウディ神父が、僕の顔を伺うようにしてこちらを向いていた。あと、どれくらいで目的地に着くとかそんなことだろうか?


「スフェン君、君は神様からどんな祝福を授かっていますか?」


 僕は、予想外のことを聞かれたため、少しびっくりした。一緒に暮らしているケインにもまだ教えてないけど、隠すようなことでもないので素直に教えることにする。


「僕を鑑定してくれた魔術師の方には《肩こり》の祝福と言われました。でも、肩こりが酷くなる以外に、どんな力があるのかまでは分からないです」


 相変わらず、カチカチに固まっている自分の肩を揉みほぐしながらそう伝えると、クラウディ神父は顎に手を当て少し考えるような仕草をする。

 そして、僕にある提案をしてきた。


「そうですか……。もし、よろしければ私がどんな力か見てみましょうか?」


 祝福の力を見ることが出来るのは、司祭より高位の聖職者だけだ。なんで、司祭であるクラウディ神父にそんな事が出来るのだろう?

 僕は、クラウディ神父の身の上に疑問を抱くが、結局、自分の知的好奇心に負けて素直にお願いすることにする。


「是非お願いします!」


 クラウディ神父は満足そうに頷き、祝福の力を使うため、僕に向かって手を向ける。


「もちろんです、私としても気になることがあるのでね。では少し目を瞑ってくださいね」


 僕は、言われた通りに目を瞑ると、その瞬間に体がなにか暖かいものに包まれるのを感じた。


「これは、思っていた以上に予想外ですね……」


 体を包む何かが消えたのと同時に目を開ける。そこには、興味深そうに僕を見つめるクラウディ神父がいた。


「なにか、良くない祝福なんですか?もしかして、呪いとか……?」


 僕としても、肩がとてつもなく痛くなる祝福なんて聞いたことがないので、クラウディ神父の様子に不安になった。


「安心してください、これは呪いではないですよ。もっと素晴らしいものです」


「?」


不安な顔をする僕とは反対に、クラウディ神父が和やかに教えてくれた僕の祝福は、とても普通の村人には有り得ないものだった。


「この祝福は、幸運と浄化の力を授かるものです。墓守のスフェン君にとっては相性の良い祝福ですね」


「じゃあ、予想外っていうのは?」


「それは、その肩こりの理由ですよ。どうやら君は、神から聖痕を受けているようです。

私の祝福は、結界を張ることの他に、授けられた祝福を神の残滓として見ることができます。君の場合は光が人の姿をとり、肩に手を置かれていたんですよ」


「そんな無茶苦茶な!」


 聖痕なんていう、そんな聖人みたいなもの貰っても宝の持ち腐れだよ!! 僕は心の中でそう叫びながら、その場にしゃがみ込み現実逃避をする。


「おそらく、その肩の痛みは祝福の力が体に対して強すぎたから起きたんでしょうね。

痛みに慣れたのも、体に次第に馴染んでいったからでしょう」


それから、クラウディ神父は「神に愛されていますね」と本当に嬉しそうに呟き、美味しそうに水筒から水を飲んでいた。


 その後、僕達は再び墓地に向かって歩き始めた。その間、僕は肩の痛みに意識を傾けながら、自分の力についてぼーと考えていた。


 道中は魔物に遭遇することもなく、無事に目的地に着いた。すると、クラウディ神父は懐から小さい包みを取り出す。


「困らせてしまったお詫びに、受け取ってくれますか?」


 背の低い僕に、目線を合わせるように腰を屈ませたクラウディ神父はそう言うと、手に持っているその包みを僕に向かって差し出した。


「えっ、いいんですか……?」


「もちろんですとも」


 僕は恐る恐る手を伸ばし、その小さな包みを受け取る。紐を解いてみると、中には蜂蜜色のキャンディが入っていた。


「わぁ!美味しそう!ありがとうございます!」


「気に入ってもらえて良かったです」


 僕はぺこりとお辞儀をした後、キャンディを一つ口の中に入れてみた。素朴な甘みが口の中にしっとりと染み渡る。

 美味しい……。


「アズウェル様達がいらっしゃるまで少し時間が掛かりそうですし、私達は先に結界を張る準備をしましょうか」


「ふぁい!」


 口の中の飴で、うまく返事が出来なくて変な声が出てしまった。僕は、恥ずかしさで耳が熱くなっていくのを感じる。クラウディ神父は、そんな僕を見て口元を押さえて笑うのを我慢しているのだった。



 墓穴があったら入りたい……。

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