13:メフィメレス家の立ち位置

 騎士団はどちらの味方か……。

 実は、そのことについては確かめるまでもないと思っていた。

 国防の要である騎士団が、先日謁見の間で糾弾されたわたしの嫌疑を真であると考えているのなら、こうやって非公式での面会などせず、堂々と取り調べをすれば良いだけなのだから。


 王宮のただの下働きであるヨナですら知っていたように、あれはメフィメレス家のヴィタリスを、リカルド殿下の妃に据えるための策謀であることは傍目はためにも明らかだ。

 問題は、おそらく王が決めたその仕儀に逆らうだけの義があるかどうか。

 本当にその婚姻が国や王家を強くし、役立つものであるのなら、わたしに味方する者など誰もいないだろう。

 その場合、わたしはただ表舞台から去る以外にない。

 ヴィタリスがあの日リカルド様に告げた言葉を思い出す。

 敵国との密通やヴィタリスへの暴行が、事実であったかどうかなど、関係がないのだ。


「そもそもメフィメレス家の亡命が成ったのは、かの一族が持つ強力な魔法の知識があってのことなのです──」


 政治に疎いわたしにも分かるように、ミハイル様は優しくかみ砕いて説明してくれた。


 話は、今から二年ほど前、このオリスルト王国と隣国アダナス帝国との間で大きな武力衝突が起きた頃に遡る。

 そのときのことはわたしもよく憶えている。

 オリスルトが歴史的な大敗北を喫したという報せに、当時のわたしたちは、この国が攻め滅ぼされるのではないかと怯えたものだが、意外にもアダナスがそれ以上攻め寄せることはなかった。

 オリスルトは多くの兵を失いはしたものの、僅かな領土を失ったのみで、その後両国は現在の小康状態へと至っていた。


 結果はさておき、問題は敗北の原因だ。

 オリスルト軍を壊滅の憂き目に遭わせたのは、従来よりも格段に強力な攻撃魔法を行使してみせたアダナス帝国の魔法士部隊だった。

 その強力な部隊への対抗策なくしては、次に大きな会戦となったときにも敗北は必至。

 そして、メフィメレス家が自分たちの亡命と引き換えにしてこの国にもたらしたのが、そのアダナスの魔法士部隊の強化を可能にした秘術、ということだった。


「メフィメレス家はその秘術を編み出した功労者でありながら、帝国内での政争に破れ、敵国であるオリスルトを頼って亡命したという触れ込みでした。ですが我々は……、いえ、私はその真偽を疑っております」


 ミハイル様がそこで言いよどんだのは、そういった疑いを持っているのが、ミハイル様個人でしかないからだった。

 騎士団は王のものであり、王の命令をもって動く武力機関に過ぎない。

 王の命令がなければ何事かを捜査したり、ましてや、個別の意思をもって王に意見したりすることなどありえないこと、なのだそうだ。


 騎士団を指揮するミハイル様がどれだけ有能でも、他にいくらでもすげ替えが利くわけで、すでにタッサ王からの信の厚いメフィメレス家を糾弾・排斥するためには、彼らが王国に害をなす者であるという、言い逃れのできない確実な証拠をつかむ以外にない。

 そんな折に起きたのが今回の婚約破棄騒ぎだった。


 メフィメレス家から魔法強化の秘術に関する核心の技術供与はまだなされていない。

 事情を知る者たちの間では、メフィメレス家にとっても、それが一族の生命線であることから、技術供与と引き換えに家同士の血縁を願ったのではないか、と噂されているらしい──。


 そういった背景をお話しになった後、ミハイル様の方はわたしに対し、メフィメレス家がわたしを陥れるためにどのような手を使ったのかという詳細をお尋ねになった。

 ヴィタリスから糾弾を受けた事柄に関し、何があり、何がなかったかについては、すでにお父様にもお話ししてある。

 わたしは、ミハイル様にもそれを包み隠さずお話しした。


 しかし、ヴィタリスにそそのかされて打ち捨てられた寺院に向かった、というわたしの証言は、確かに彼女の心証を悪くするだろうが、言ってしまえばそれだけのことだった。

 そもそもヴィタリスが皆の前でそのことを認めるとも思えなかったし、物的な証拠が何もないこともあって、ミハイル様は落胆の色を隠さなかった。

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